前職の時、私は顧客へアドバイスすることが生業だった。
だが、恥ずかしながらすべてが良いアドバイスであったかといえば、おそらくそうではない。
正直に言うと、私に知識と経験が不足していたがゆえに、全く顧客の役に立てなかったこともしばしばあった。
だが、もっと悪いのは、アドバイスのやり方を知らなかったがゆえに、「相手に話を聞いてもらえない」時があったことだ。
実際、人へのアドバイスは非常に難しく、気を遣う。特に若造の言うことを、業界経験何十年というベテランが聞く、という状況自体がそもそもありえないシチュエーションである。
したがって、社内では何度も何度もそう行った状況におけるシミュレーションを行い、できるだけ話を聞いてもらえる状況を作り出すスキルを身につけるべく、練習を重ねていた。
具体的には、話を聞いてもらうために次の6つのステップを踏む。
STEP1.解決して欲しいのか?聞いて欲しいだけか?を判別
クライアントと話すときの最初の重要な判断だ。聞いて欲しいだけのときは、アドバイスの必要はない。
実務的には、「話をお聞きするだけなら、できます。」と言う。アドバイスは「アドバイスがほしい」と求められた時だけ行えばよい。
経験的には、アドバイスを好んで聴く人など、ほとんど居ない。大抵は耳の痛い話だからだ。
STEP2.相手の話を聞く、相手がやりたいことを聞くために
現場では「どうすればよいか、アドバイスがほしい」と言われた時ですら、実は「あなたの解決策を聞きたい」と言われているわけではない。
実際に相手が聞きたいのは、「私がやろうと思っていることは正しいかどうか、少し意見がほしい」である。
だから、実務的には「もうすでにやろうと思っていることがあるのではないでしょうか?」と言う。
STEP3.相手がやりたいことに対して、「何が引っかかっているのか」が肝心
「やりたいことわかってるなら、やればいいじゃない」と言いたくなるが、グッと我慢しよう。もちろんそれは本人もわかっている。
やりたいのに、できないからあなたに聞いているのだから、そこには悩みが存在している。
だから、実務的には「なにか気になることがあるのですか?」と言う。
STEP4.解決策をすぐに提示してはいけない
悩みを話してもらえた、ようやくあなたの解決策を提示…してはいけない。そんなものは普通、聞いてもらえない。
次にすべきは相手に心中を整理してもらうことだ。
大抵の場合、人は真剣に悩んでいることに対しては何かしら解決策を考えている。逆にそれがなかったら、「実は大した課題ではない、聞いて欲しいだけだった」と捉えてもよい。
だから、実務的には「今までに考えたことや、試したことを共有していただけないでしょうか?」と言う。
STEP5.成果が出なかった原因を相手に考えてもらう
「今までに考えたこと、試したこと」を話してもらえたら、もう一つ相手に質問する。
実務的には、「なんであまり思い通りいかなかったのでしょう?」と聞く。
相手は問題の核心だと思っている点について述べる。ここでようやくアドバイスの準備ができる。
STEP6.自分の意見を言わない
ここまで来て、ようやくあなたが話す番になる。全体の時間を10とすると、相手が話している時間が9で、あなたが話す時間はせいぜい1だ。
だが、ここで注意点がある。ここでも「あなたの意見」は求められていない。あなたがよっぽどの権威なら聞く人もいるかもしれないが、一般的にはそうではない。
あなたがアドバイスしたいことは、「事例」や「昔の偉い人の話」などの他者の話に変換する。直接的なメッセージは、相手を非難していると受け取られるケースが多々あるからだ。
非難されている、と思った瞬間、相手は聞く気を失う。
「私が以前行った顧客では…」
「◯◯の経営者の◯◯さんが言っていましたが…」
「この本には◯◯と書いてありまして…」
もちろん例外もあるが、そういった喩え話は、「◯◯してください」や「◯◯すべきです」といった直接表現よりも相手の心に届く可能性が高い。
「どんなに良い話でも、相手が聞く気にならなければ、ただの戯言だ」と私は先輩に教えられた。私もそのとおりだと思う。
(2024/1/22更新)
東京都産業労働局
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