ある時、居酒屋で隣の席から声が聞こえてきた。数人の営業らしき若手男女が話し込んでいる。会話があまりにも赤裸々なので、思わず聞き入ってしまった。
「今日、すごい怒られてたね。」
「あ、聞いてたの?」
「うん。」
「怒鳴る人って、野蛮だよね」
「でも部長は、あれは教育、っていってるよ」
「教育?…なわけないよ。あれは感情的なだけ」
「そうかなー、あまり部長は感情的という感じはしないけど」
「感情的、というより大きな声を出して、恐怖感を与えようとしているよね」
「たしかに」
「恐怖感を与えようとしてるなんて、やっぱり野蛮だよな」
「やっぱり、怖いと思わせればわたしたちが仕事すると思ってるのかな」
「思ってるんじゃない?部長って、単純だし」
「なんか、大きな声をだせばいい、って思っているフシはあるよね。」
「なんか、哀れだよね。」
「怒鳴ったところで、仕事に身が入るわけじゃないのにね。」
彼らはしばらく会話を辞め、店員に向かってオーダーをした。店員が奥に引っ込むと、彼らは会話を再開した。
「そういえばお前も、課長にこの前怒られていなかった?」
「ああ、怒られたよ。30分も怒られた。」
「普段は温厚そうに見せて、課長も怒鳴る人だったんだな」
「豹変したんで、ビビった。」
「えー、もう課長も信用出来ないわ~」
「うちの会社の風土なのかね」
「はっきり言って、キモいよね」
「あーあ、こんな会社早く辞めたいよな」
「そりゃ、ミスしたら怒られるのは仕方ないけどさ、いきなりこちらの話も聞かずに怒るのは、最低だよな」
「ホント、やる気なくすよね。」
「よくあんなに自制心のない人が部長ににまでなれたね」
「昔は、結構優しかったらしいよ。この前先輩がそんな話をしてた。」
「え、本当?意外なんだけど」
「本当らしいよ。私も聞いたことある」
「なんであんなふうになっちゃったの?」
「社長のせいじゃない?」
「社長もよく怒鳴るからなあ」
飲み物がはこばれてくる。彼らは乾杯をし、また会話を再開した。
「そういえばこの前、道端で上司らしき人が大声で部下にひとに対して怒ってたよ。「なんでお前は言われたことがきちんと出来ないんだ」って。かなり離れた場所からも聞こえたよ。そりゃ腹たつのもわかるけどさ、公衆の面前であんなに怒鳴るなんて、どうかしてるよな。」
「上司頭悪いんじゃない?結局大きな声を出すことしかできないんだから。」
「そうだね、怒鳴られても仕事が嫌になるだけだからな」
「まあね」
「結局どうなったの?」
「最後までは見てないけれど、部下の人は全然聞いてない、ていう感じだった。」
「そりゃそうだ」
「心を閉じるしかないもんな。」
「最初はショックだったけど、慣れるよね。」
「うん、同感」
「あ、みんなもそうなの?」
「そうそう」
彼らと管理職のどちらに問題があるのか、この会話だけではよくわからなかったが、大きな声を出して怒っても、あまり効果のないことだけは非常によくわかった。
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