「努力できる才能」という言葉を使う人がいるが、努力できることは才能なのか、それとも単なるスキルなのか、意見が結構分かれる。
だが、実際のところはどうなのだろうか。
少し調べてみたところ、面白い研究があった。
ノーベル経済学賞を受賞した、シカゴ大学のヘックマン教授が行った「ベリー就学前プロジェクト」という試みだ。*1
このベリー就学前プロジェクトは、低所得の3歳〜4歳の子どもたちに、「質の高い就学前教育」を提供することを目的に行われ、高く評価されているという。
内容としては対象者に対して
・幼稚園の先生は修士号以上の学位を持つ児童心理学などの専門家に限定
・子供6人を先生一人が担当するという少人数制
・午前中に約2.5時間の教室での授業
・1週間につき90分の教師の家庭訪問
と言った手厚い教育を行うもので、子供だけではなく、親に対しても積極的に介入が行われた。*2
そして、このベリー就学前プロジェクトは「効果測定」が長期にわたって行われていることで高く評価された。
入園資格のある子どもたちのうち、ランダムに選ばれた58人の入園を許可された子供(=処置群)と、65人の運悪く入園を許可されなかった子供(=対照群)をこの後40年間にわたる追跡調査、比較するという実験を行ったのである。
結果は明確に現れた。
ベリー就学前プロジェクトを適用された人々は、小学校卒業時点のIQが高いだけではなく、その後学歴が高く、雇用や経済的な環境が安定しており、反社会的行動に及ぶ可能性も低く抑えられた。
そして、さらに驚くべきことに子どもたちが卒業した後、かなり時間が経った後でも、ベリー就学前プロジェクトの効果が持続することがわかったのである。
*1
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*2
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ここまで読むと「ああ、小さい頃に良い教育を施すと、頭の良い人物が育つのだな」という感想を持つと思うが、この実験はもう少し本質的な示唆を与える。
IQや学力テストで計測される能力を「認知能力」と呼ぶ。
ベリー就学前プロジェクトを受けた子供は、3歳から8歳辺りまでは「認知能力」において高いスコアを出した。だが、8歳にもなると、介入を受けた子供と、受けなかった子供の差は無くなってしまった。
「認知能力」は子供の頃の教育の質に依らないのだ。
では、ベリー就学前プロジェクトは子どもたちの何に影響を与えたのか。ヘックマン教授は、
・自分に対する自信、やり抜く力
・やる気、意欲
・忍耐強さ、根気
・自制心
・自分を客観的に把握する力
・リーダーシップ力
・失敗から立ち直る能力
・創造性
などのいわゆる「非認知能力」に、プログラムは強く影響を与え、それらの能力の有無が社会的な成功に直結し、かつそれらの能力は「人から学び、獲得するものである」と結論づけている。
結局のところ、頭が良くても「非認知能力」が十分に鍛えられていない人物は、社会的に成功ができない。しかも、その「非認知能力」は才能ではなく、「幼少期の学習」に依るものであると言うデータだ。
この「非認知能力」の有無が、まさに「努力できるかどうか」を分けるのである。努力できることは才能だけで決まるわけではない。後天的に獲得されるスキルでもある。
では、思春期まで成長した子どもたちは、あるいは大人は「努力するスキル」を身につけることができるようになるのだろうか?
スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授は、思春期の子供を対象として介入を実施し、実際に脳の働きや知性が鍛えられるという成果を得た。
介入グループの生徒たちは意欲の大きな向上を示し、低下していた成績が急激に反転した。要は「マインドセット」の切り替えにより、努力するスキルを身につけることは可能だということだ。*3
*3
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ペンシルバニア大のアンジェラ・リー・ダックワーズ氏は、「やり抜く力」が成果をあげる上で非常に重要であることを、グリーンベレーやアイビーリーグの学生を対象とした実験により証明した。
氏は「才能があっても、その才能を活かせるかどうかは別の問題」と述べる。
そして、「やり抜く力」は
1.遺伝子の影響を受ける
2.経験の影響を受ける。
3.育つ時代の文化的な影響を受ける
4.年齢とともに強くなる
と紹介し、「自分の「やり抜く力」を内側から伸ばすことができる」と述べる。*4
*4
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少なくとも、「努力は才能のみで決まる」とする研究結果を見つけることはできなかった。
努力できないのは、マインドセット、環境、そして努力するスキルが欠けているためだ、として差し支えはないだろう。
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