こんにちは。Relicの北嶋です。 

今回は新規事業の撤退基準について、私の経験から少しお伝えしたいと思います。

 

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(年明けにオフィス移転しました。新住所は、東京都渋谷区恵比寿西2-1-8 Oak6ビル3Fとなります。まだ雑然としています(笑)

 

前回までの記事中にも何回か繰り返しお伝えしていますが、新規事業とはそもそも、成功確率が低いものです。

事実、過去に在籍していた企業において、私が手掛けた新規事業は8つありましたが、そのうちの5つは既に撤退をしています。

しかし、考え方にもよりますが、逆に「失敗する可能性があるからこそ、その新規事業はやる価値がある」と言い切っても良いかもしれません。リスクなきところに、リターンはないからです。

 

ですから「新規事業」は「失敗」すること、すなわち撤退とセットで考えなければなりません。 

特に新規事業を立ち上げた当人たちは事業に対する思い入れが非常に強いため、客観的な判断をしにくい状態になりがちで、結果として判断が遅れたり、冷静な意思決定ができないケースも多々あります。

そのため、ケースバイケースで柔軟な判断は必要ですが、よく言われるように、新規事業を始める前に予め「撤退ライン」を決めて置くことは非常に重要です。

では、具体的に撤退ラインはどのように定めるべきでしょう。

 

これは大別すると2つです。

 

1.定量的な指標 

まず、定量的な指標です。これは非常にわかりやすく、例えば「2年以内に営業利益万円を達成」や、「ユーザー数人」あるいは「設定されたKPI80%以上達成」といった数値的な指標が用いられます。

管理が簡単で、判断がしやすいというメリットがあり、どこでも使われています。

 

しかし一方で、問題もあります。

それは「数値に置き換えることが可能なものしか見えなくなってしまう」というデメリットです。

 

例えば、「WEBメディア立ち上げ」という新規事業において、よくKPIとして使われるのはページビュー(PV)数、ユニークユーザー(UU)数などでしょう。

 しかし、メディアの本質はその「質」にあります。その場合PV数やUU数だけでその質を測定できるのでしょうか?

 恐らく、そこには数値で測ることが難しい膨大なコンテクストがあり、新規事業の存続の判断は「KPIを達成していないからこのサービスは閉じよう」という単純なものではないはずです。

 

もちろん「質」を可能な限り定量化しようと、試行錯誤や推測を重ねることは怠るべきではありませんが、定量的な指標だけで判断するのは、こと新しい取り組みに関する際には今後伸びる可能性を早めに摘み取ってしまうリスクがあります。

 ただ、この「定量的な指標」をしっかりと分析/判断することは、少なくとも「顧客がこれだけ使ってくれている」等の客観的事実を測定し、希望的観測や確証バイアスを排除するには非常に有効です。

 利用してくれているならば、主として顧客ニーズの有無の判定や、対応状況の把握などに用いることできます。

 

2.定性的な指標 

もう一つは、定性的な指標です。

「撤退ラインに定性的な指標なんて必要あるの?」と聞かれることもありますが、私はむしろ1.の定量的な指標よりも、こちらのほうが重要だと思っています。

具体的には「本来の意義・目的が変わってしまった」や、「外部要因で事業のコアの強みが失われた」「事業の重要性が落ちてしまった」などが挙げられます。

 

事例を挙げましょう。

私が過去に所属していた部署では、以下の3つの「ECサイト」を手掛けていました。

3つのサイトのいずれも、大手小売業とのアライアンスよって実現したものです。その3つの事業を下記としましょう。(名前・業態は架空のものです)

・大手小売業A社との協業サイト「フレッシュ食品」

・大手小売業B社との協業サイト「スーパードラッグ」

・大手小売業C社との協業サイト「ハッピーファミリー」

わざわざ協業してまで他社の公式ECサイトの立ち上げを行った真の目的は「自社単体で運営するECサイト(仮に「ワクワクモール」としましょう。)」への誘引を図ることでした。

 

当時「ワクワクモール」は残念ながら圧倒的なシェアを誇る業界トップクラスの競合企業群には大きく水を開けられていました。

このレベルまでサイトが大きくなってしまうと、多少のマーケティング施策を打つくらいでは焼け石に水で、抜本的な解決や競争力の構築には至りません。

新しい顧客を獲得して、より大きな成長を遂げるためには、「今までネットで買物をしたことがない人たち」を新たにモールに誘引する必要がありました。

 

そこで目をつけたのが「まだそれほどEC化率が高くなく、かつ日常的に高頻度で買う製品、いわゆるコモディティ」の領域です。

 このコモディティ領域はいずれも市場が大きく、「この領域で購買してもらえる新しい顧客が増えて定着すれば、非常に大きな成長が望める」と感じました。

 

ですが、自社だけではコモディティの領域に対するノウハウが網羅できません。

そこで、レベニューシェアで新規の公式ECサイトを、大手小売業とのアライアンスで立ち上げようと目論んだのです。

 

協業のスキームとしては

・大手小売業側はブランド力やMD、店頭チャネル活用

・弊社は、ECサイト構築・運営体制/ノウハウ提供、WEBマーケティング

という分担です。

弊社の負担が非常に大きいため、暫くの間、利益が殆ど出ないことも折込み済みでしたが、それでも「市場を広げ、多くの新規顧客を開拓することでモールの成長につながるなら」と思い切って始めた新規事業でした。

 そして嬉しいことに、皆の頑張りの結果、当初の目論見どおりこれまでリーチできていなかった新たな顧客層の開拓が進み、3つのECサイトはいずれも右肩上がりに成長を続けたのです。

めでたしめでたし……

 

と言いたいところですが、当然、3つの中に差が出てきます。

数字だけを見れば、フレッシュ食品>ハッピーファミリー>スーパードラッグという形で、徐々に顧客数や流通規模に優劣がつく結果となりました。

そしてついに、経営陣は判断を下しました。

「規模」という数字に従い、フレッシュ食品は継続、スーパードラッグは撤退、ハッピーファミリーは縮小という決定がなされたのです。

関係者には衝撃が走りましたが、決定には逆らえません。結局提携先にはお詫びをしてまわり、提携は解消されました。有能な社員の中には失望して離職するものもいました。

 

今でも思います。果たしてこれは正しい判断だったのでしょうか、と。

前述の通り、事業単体での定量的な指標だけを見れば、そう見えるかもしれません。

私も、そのままで良いとは思っていませんでした。

 しかし、私は経営陣の決定とは逆に、フレッシュ食品こそ撤退/縮小すべきだったと思っています。それは、「数字」ではなく「本来の目的」に照らし合わせた結果、そうすべきだったからです。

 

実は、上述したフレッシュ食品は単体での規模感が大きい一方で、元々のA社ブランドや店頭での囲い込みが強く、本来の目的であるモールへの誘引は、ほぼゼロに等しかったのです。

一方でスーパードラッグやハッピーファミリーなどは、本来の目的通りモールへの誘引が伸びており、ハッピーファミリーに至っては月間で万単位の新規顧客をプロモーション費用を使わずにワクワクモールへ誘引し、開拓出来ていたのです。

 

もともと「ワクワクモールへの誘引を増やそう」という目論見で始まったのですが、いつの間にか当初の目的ではなく、「流通額」あるいは「単体での黒字化」という目的にすり替わっていたため、当初の目的からすれば失敗のフレッシュ食品が存続され、スーパードラッグやハッピーファミリーが撤退/縮小されたのです。

 

なぜこんなことが起きたのか?

実はこの根本的な原因は、上層部の人事異動/体制変更でした。 

立ち上げ当初の担当上層部は「ワクワクモールへの誘引 > 事業単体の黒字化」という本来の目的を見据えていましたが、後任の上層部は「事業単体での黒字化 > ワクワクモールへの誘引」へと方針を切り替えました。

 そうして目的がすり替われば、チームのマネジメントや、そもそもの事業開発のアプローチに大きな影響が出ます。また、現場のモチベーションもコントロールできなくなります。

 

もちろん、変化の激しい環境に合わせて戦略や方針を変更する柔軟性を持つことは非常に重要です。

しかし、もしその変更により事業立ち上げ当初の本来の目的や意義自体が失われるのであれば、そのコンテクストやストーリーに応じて事業開発のアプローチを変更したり、場合によっては単体での定量的な指標が良かったとしても撤退やピボットを検討すべきケースもあります。

結局のところ、目的とアプローチがズレた状態で中途半端に事業を継続しても、良い結果になることは殆どありません。

ときに「数字」よりも「本来の目的」が重視されなければならない理由はここにあります。

 

 つくづく思いますが、撤退は決して愉快な話ではありません。ですが、撤退の判断を誤るとそれだけ大きな損失をもたらすリスクがあるため、新規事業を立ち上げるのであれば、絶対に避けては通れない話なのです。

そのため、新規事業に携わる方は常にこの観点を意識しながら、事前に定量/定性の双方の撤退基準やそれに伴う指標を予め設計しておくことをおすすめします。

 

 

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