初詣「ベビーカー自粛」要請で大騒ぎ 「差別」批判へ寺側の意外な言い分 (J-CASTニュース)
この「ベビーカー問題」、ネットでかなり話題になっていました。
これが「排除」であるかと言われると、大人でも危ないような混雑時の初詣にベビーカーで出かけるのは、親としてはやめておいたほうが無難だと思います。それでも初詣したい、という子連れのファミリーに関しては、なるべく便宜をはかって、安全を確保してあげないといけないのでしょう。
しかし、こういう議論をみていると、日本では「小さな子どもを連れていること」について、一部の親と周囲の人々との考え方のギャップが大きいのだな、と考えさせられます。
『 フランスはどう少子化を克服したか』(高崎順子著・新潮新書)のなかに、フランスの妊婦と乳幼児に対する社会的な扱いについて、こう書かれています。
誤解を恐れずに強い表現をすると、妊婦と乳幼児は、ハンディキャップの扱いなのです。フランス国民の医療費負担をカバーする社会保険制度が法整備されたのは、第二次大戦終了直後の1945年10月のこと。その時からすでに出産は、疾病・障害・年金・死亡と共に、「補償されるべきリスク」と定められてきました。
まず、妊婦と乳幼児を社会的弱者、リスクを負った存在と認める。その弱者にさらなる負担をかけない形で、支援をする。その支援も強制ではなく、選択肢として提案する。フランスの妊娠出産・乳幼児医療には、その認識と考え方が通底しています。
この認識は日常社会でも一般的です。スーパーのレジや交通機関の優先マークには、身体障害者・高齢者と並んで、妊婦・乳幼児連れの親子が描かれています。空港や駅のタクシー乗り場では、案内係が妊婦や乳幼児を見つけたら、声をかけて最前列に回します。列を作る人々は(内心はともかく)、表立って不満を表明しません。妊婦や乳幼児連れの親も、他者を押しのけることなく、申し訳なさげに身を縮めることもなく、静かに列の前方に進みます。そして、そこに高齢者や障害者がいれば、「より身体的に辛い方」を推し量りながら、順番を譲り合っています。
妊婦や乳幼児の健康保護が、高齢者や障害者の支援と並んで扱われているのだな、と、毎回つくづく実感する場面です。そしてその度に、この国で子供が増えて行く理由を目の当たりにしたような気持ちになるのです。
フランス人は「初詣」に行かないでしょうけど、もしフランスで初詣のような風習があれば、彼らは「ベビーカーに乗った子どもとその家族」に整然と対応するはずです。
日本人が、障害を持つ人が初詣の行列に並んでいれば、譲るのと同じように。
そう考えると、日本では、妊娠・出産は「病気じゃない」「めでたいこと」だというイメージがあるために、「なんで子ども連れが優遇されるんだ?」と感じる人が少なくないのかもしれません。
現実的には「ものすごく大変」なのに、周囲から「なんでわざわざ子どもを連れてくるんだ?」って言われると、かなりつらいですよね。
小さい子どもがいると、ひとりだったら簡単にできることも、なかなかできなくなってしまいますし。
車を運転中にトイレに行きたくなった。でも、子どもは後部座席のチャイルドシートでスヤスヤ眠っている。
こういう場合、「ちょっと道路沿いのコンビニに寄ってトイレを借りる」のも、けっこう大変です。
眠っているからといって、子どもを車内に残して車から離れることはできないし、一緒に連れていくとなると、子どもを起こしてしまうし、時間も手間もかかる。
その一方で、やっぱり、「そこまでして小さな子どもを連れて、人がひしめきあっている神社に初詣に行きたいと思うのか?」っていうのも、あるんですよね。
子どもとその両親の希望ではなく、周囲の人に付き合わされているのかもしれないけれど。
冒頭の記事のなかに、こんな親たちがいた、という話が出てきます。
寺の住職によれば、2年前まではベビーカー、車椅子での参拝を優先させていて、専用通路を作り、係員を配置し安全に努めるという布陣を取っていた。ところが思わぬトラブルが起こる。
ベビーカー1台にファミリーが5人、10人と付いてきて専用通路を通り参拝し始めたのだ。混んでいる時にはお参りするまで1時間待たなければならないため、それを見た参拝客が腹を立て「なんだあいつらは!!」と寺の担当者と小競り合いになった。
また、ベビーカーがあれば優遇される寺ということが知れ渡り、小学5年生くらいの子供をベビーカーに乗せて現れる親が相次ぐことになった。親は優先通路に入るとベビーカーをたたみ、降りた子供は敷地内を駆け回った。
そこで寺は優先通路を通れるのは押している1人だけ、という制限を設けた。ところが、ファミリーは2手に分かれて参拝することになり、先に参拝を終えたベビーカー組の中には境内近くで合流のため待機する、ということが起こった。
この「小学5年生くらいの子どもをベビーカーに乗せて現れる親」って、何のために初詣に来ているのだろう?初詣って、新年の無事と平安を願うために、神様に挨拶にいく行事ですよね、基本的には。にもかかわらず、そんな「ズル」をして参拝することに、後ろめたさは無いのだろうか?
とりあえず、手をあわせて、お賽銭を入れれば良いことがあるはず、とか、そんな感じなのかな……
僕はこれを読んで、ファミコンで『ドラゴンクエスト3』が発売されたときに、「ゲームカセットのカツアゲ事件」が報道されていたことを思い出したのです。
そのときに疑問だったのが、「カツアゲした『ドラクエ』で遊んで、面白いのだろうか?」ってことだったんですよ。
カツアゲという行為そのものが「悪いこと」ではありますし、『ドラゴンクエスト』って、「勇者が世界を破滅させようとする悪者を倒す話」じゃないですか。
「カツアゲする人」って、どうみても「悪者側」のはずで、現実にそんなことをしながら、ゲームの中では「正義の勇者」として、「悪者」をやっつける。
それって、プレイしながら、気が滅入らないのかな……
それとも、「ゲームはゲームなんだから、そんな現実での後ろめたさは、関係ない」ということなのだろうか。
「せめて初詣のときくらい、神様の前では行儀よくしておいたほうが良いんじゃないか」というのが僕の感覚なんですよ。
バチがあたるようなことをしながら初詣をしても、プラスマイナスゼロ、あるいはそれ以下じゃないですか。
でも、世の中には、そう考えない人もいる。
とにかくガランガランと鳴らして手を合わせ、お賽銭を入れれば、それで初詣なのだと思い、盗んだゲームソフトのなかで、自分が「勇者」として悪者をやっつけることにも、違和感がない。
初詣なんて形式的なものだし、罪の意識とゲームの面白さは別だろう、と考える人が、けっこう多いのだろうか。
それはある意味「合理的」ではあるのだけれど、そういう考え方の人が「初詣の効果」に期待するというのもおかしいのではないか?
世の中には「世界の物語から、自分を切り離せる能力」を持っている(というか、「自分がやりたいことをやることに寛容すぎる、そして、自分に都合が良いように世界の物語を改変できてしまう」人がいるのですよね。
他人事のように言っているけれど、僕にだって、状況によっては、そういうふうに自分に言い聞かせてしまう可能性もある。
そして、『ドラゴンクエスト3』発売時を考えると(1988年2月発売)、そういう人は、少なくとも30年前から日本に存在していることになります。
年齢的には、そういう人たちが、「小学5年生をベビーカーに乗せて、ショートカット参拝する親」になっているのかもしれません。
こういうのって、「神様」とか「見えない聖なるもの」を多くの人が信じられなくなった社会の変化のひとつなのかな、とも考えずにはいられないのです。
あるいは、いつの時代にも「そういう人」は一定の割合で存在するのだろうか。
いまは、「みんなの前で変なことをしたら、SNSで拡散される」世の中であり、それは「バチがあたる」という後ろめたさよりも、多くの人にとっては、よっぽど抑止効果が強いのではないか、とも思うのけれど。
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【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
著者;fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
ブログ;琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで
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