少し前に中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の日本での初任給が40万円以上だと話題になった。覚えている人も多いだろう。
ファーウェイの初任給月40万円が話題 「普通に就職したい」「優秀な人は流れていっちゃう」
中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の日本での初任給が40万円以上だと話題になっている。
リクナビ2018に掲載されたファーウェイ・ジャパンの求人広告によると、募集職種は「通信ネットワークエンジニア」「端末テストエンジニア」「端末アフターサービスエンジニア」「研究職・アルゴリズムエンジニア」の4つ。月給は学士卒で40万1000円、修士卒で43万円に設定されている。年に1回以上は賞与があるというから、賞与が月給2か月分だとすると年収は初年度から560万円以上になる。
「有給消化50%以上」「完全土日祝休み」ともあり、きちんと休むこともできるようだ。もちろん各種社会保険も完備されており、退職金制度も整っている。
「ファーウェイには安く買い叩いている日系企業をしばき倒してほしい」
初任給40万というのは今の日本市場からみると非常に魅力的な条件だ。
このニュースが流れた時、自分のTwitterのTLでは
「なにこれ凄い。今の会社から転職したい」という意見や
「もはや日本は先進国並の給与が出せないレベルの国家に衰退してしまったのか」と現状を悲観するような意見がみられた。
たぶん多くの人も似たような意見を観測したのではないだろうか?
このニュースに関連してかはわからないが、最近Twitter上で遠回しにだが「自分の給与を会社は上げろ」という意見を非常によく目にするようになってきた。
少し前はどちらかというと「給与は安くてもいいからホワイトな職場が良い」という意見を割と目にすることが多かっただけに、この給与上昇志向系の意見がみられるようになった事を僕は非常に興味深い現象だと思った。
それと共に「ついに日本は本当の衰退国家に落ちぶれつつあるのだな」という事が肌感覚で理解できるようになった。今回はその話をすることにする。
乞食も発展途上国では立派な仕事の1つ
「なあ日本人。あんた金持ちだろ?金くれよ」
僕が生まれて初めてアジアの発展途上国にいって面食らったのは、突然こう恥ずかしげもなくお金の無心を頼まれた事だった。今からちょうど10年ほど前の出来事だ。
今でも恐らくその国は同じような状況にあるとは思うのだけど、そこでは路上生活者がそこら辺でゴロゴロみられた。
声高にギブミーマネーと叫ぶ大人・子供が街にはワラワラといた。僕はその当時、「人前でお金の話をするのはよくない事だ」と両親から非常に厳しく言われていただけに、その光景に非常に面食らったのを今でもよく覚えている。
タクシーを利用したり、お店に入って買い物をする時も、その国の人達はとにかくお金にガメツかった。
いかに自分が恵まれていないかを涙ながらに語り「日本人であるお前は恵まれている。恵まれているのだから俺にお金を渡すのは当然だ」というようなことを延々と言い聞かされた。
自分も最初の頃は多少は同情的な気持ちにもなれたのだけど、あまりにもどこにいってもお金の事ばっかりいわれるので、そのうち「なんでこの人達はキチンと働いてお金を稼いだりしないのだろうか?そんなにお金が好きならば、正当な手段で稼げばよいのに」という疑問を持つようになった。
その後、旅先で仲良くなった現地の人に食事の席の中で上のような疑問をぶつけたところ、彼は大笑いした後に、僕にこう言った。
「なあ日本人。お前の国では一日汗水たらして働いたら幾らぐらい稼げる?」
「日雇いで肉体労働をして、8000円ぐらいは稼げるんじゃないかな」
「そうか。ちなみにこの国では労働者の収入は月に800円ぐらいだ」
「えっ?」
「おまけに、その月に800円の仕事につける人の数もそう多くはない。日本は恵まれた国だから仕事がちゃんとあるけども、俺らのような国にはそもそもマトモな仕事なんてないんだよ」
「・・・。」
「いいかい日本人、よく覚えておけよ。乞食はな、この国では立派な職業の1つなんだ。あんたらはそんな事しなくても生きてけるから、俺のいう事がどういう事か、よくわからないかもしれないけどな」
彼はこういった後に「ここはお前のツケでいいな」と笑いながらビールを1つ追加した。
僕は頷きつつ、彼の言ったことを頭の中で何度か反芻していた。
お金は頑張って働いて稼ぐものだという価値観は先進国のもの
その後、バブル世代前後の大人と話す機会があった。
彼らは口をそろえて「今の若者は根性が足りていない。俺が若い頃は頑張って働いて、たくさんのお金を稼いだものだ。それが今の奴らからはそういうハングリー精神を感じなくなってしまった。そりゃ日本も衰退するわな」というような事を言っていた。
僕も発展途上国に行く前までは、お金は頑張って稼ぐものだという風に考えていた。だから現代の若者はやる気がない、というバブル世代前後の大人の意見によく似た意見を持っていた。
けどあの国に行った事で、僕は随分と考えを改めた。
世の中には、頑張っても頑張っても仕方がない事がたくさんある。月給800円の国で死ぬほど汗水たらして人の2倍頑張って働いた所で、稼げる金額なんて良くて月1,600円程度だ。
けど日本でエアコンのきいた部屋の中で僕が家庭教師をすると、全然頑張ってないにも関わらず10倍以上のお金が稼げてしまう。
こうして比較すればよくわかるけど、報酬の多寡は実は頑張りなんかには比例しないのだ。たまたまお金がある国で、稼げる職種につけるか否かがその全てともいってもいい。
頑張るか否かなんてただの自己満足で、お金をたくさん稼ぐのとはほとんど関係がないといってもいい。
そんな事をよく考えるようになった頃、ちょうど世の中のブラック企業を批判する旋風が沸き立つようになっていった。
たぶん、今考えるとこの辺りが日本の停滞の足音の始まりだったのだ。
頑張ったら給与が上がるだなんて嘘
繰り返しになるけども、マクロ的な視点にたてば実は頑張りと給与の上昇との間には相関関係なんて全然無い。
給与の上昇は、その国がたまたま経済戦争で勝ち抜いて、グローバル経済圏から多くのお金を引き出せたという結果に伴って生じるものだ。
かつてのバブル世代の人達は、イケイケどんどんの時代に生まれたから本人が頑張ろうが頑張るまいが、どんどん給与は右肩上がりに上昇していった。
彼らは「俺達は頑張ったからいい給料が貰えたんだ」と恐らく考えていると思うのだけど、現実は違う。
経済が成長したから、よい給料が貰えたのだ。それ以上でも以下でもない。
みなさんもご存知のように現在、日本は徐々に衰退国家に足を踏み入れつつある。
一度こうなってしまうと、国家が再びかつてのようにグングンと成長するのは難しい。
結果として、マクロ的にグローバル経済圏からお金を引き出す事が難しくなり、かつてのような経済成長の実現はほぼ困難となってしまった。
こうなると会社もなかなか給与が上げられない。給与があげられないので、社員もなかなか働くインセンティブが働かない。
そういう視点でものを眺めれば、最近の若者が長時間労働を嫌うのも当然だといえる。だって働いても給与なんて上がりそうにもないのだ。
それならば出もしない残業代を期待して長時間労働をするよりもさっさと帰りたいというのが人情だろう。
日本の大企業の2倍の給与を中国の大企業が出せるという事はどういう事か
冒頭にあげた華為技術(ファーウェイ)の新卒40万スタートの軒は、僕が途上国で体験した事にある意味では非常によく似ている。
10年前に訪れた、東南アジアの亡国における労働者の収入は月に800円ぐらいだった。日本の新卒の給与が20万だとすると、東南アジア某国と日本の経済規模は約30倍程度の差といえるだろう。
上に書いた華為技術(ファーウェイ)の新卒の給与は40万だ。日本の新卒の給与を20万円とすると、中国と日本の経済規模は1/2倍だ。
こうして比較すればよくわかるけど、もう日本は頑張るとか頑張らないとかいう次元ではない。仮に日本の新卒社員が華為技術(ファーウェイ)の新卒社員の2倍以上頑張っても、恐らく給与は40万円も貰えないだろう。
もう頑張るとか頑張らないの次元を越えている。つまるところ日本の若者は頑張らないのではない。頑張っても、意味がないのだ。
日本は既にグローバル経済圏の中ではとっくに後進国に落ちぶれつつあるといっても、過言ではないだろう。
乞食化する日本人
冒頭に書いた最近Twitter上で遠回しに「自分の給与を会社は上げろ」という意見を目にするようになったという発言だけど、実は僕はこれは日本人の乞食化を示唆しているのではないかと思っている。
言い方は異なれど、これって途上国の人が日本人に「お前は恵まれているんだから俺に金をよこせ」ってのと同じようなニュアンスじゃないだろうか?
「経営者は儲かってるんだから俺に給料をもっと払え」といいかえると、先の乞食の言ってる事との区別はほとんどつかない。
勘違いして欲しくないのだけど、僕は何も社員は経営者に賃上げ要求をするなといいたいわけではない。もちろん正当な報酬は受け取るべきだ。
けどそれは「自分は◯◯円もこの会社に経済的に貢献しているのだから、これぐらいは貰ってもいいのではないか」や
「転職市場で自分と同職種の人はこれぐらい貰っているのが相場なのだから、もう少し給与を上げてくれてもいいのではないだろうか」
という風な、きちんとした交渉の現場を経て行うべきものだと思っている。
それをしないでただ単に「頑張ってるんだから給料を上げろ」なんていうのは、「ギブミーマネー」と叫ぶ乞食と何も変わらないだろう。
長くなったので乞食にならないために私達1人1人は一体どうすればよいのかについてはここでは詳しく書かないけど、まずはこの難しい現実をキチンとみすえる事が一番大切な事だろう。
なんだかんだいって日本はまだまだ恵まれている。乞食にならないために何をすればよいか、一度しっかり腰をすえて考えてみてもらえれば幸いだ。
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(Photo:Kārlis Dambrāns)