努力できるのも才能のうち、とよく聞く。
「できないのは努力していないからだ」という意見への反論として言われることが多いように思う。
つまりできないのは努力していないからではなく、(努力する)才能がないからだ、と。
努力が才能なのかそうでないかについてここで論じるつもりはない。
ただ、努力している人がどういう心理で努力しているのかについて考えてみたので、書いていきたい。
努力しない人、あるいは努力する才能がない人にとって、努力している人は不思議に見えないだろうか。
報われないかもしれない未来に対して時間と労力を費やす行為の連続は、必ずしも賢い選択をしているように見えるわけではないだろう。
よほど目標への思いが強いのか、向上心が溢れているのか、成長意欲が高いのか……努力している人は、とにかく並大抵ではない思いを抱いている人に違いないと思ってしまうかもしれない。
でも、私は意外とそうではない人が多いのではないかという気がしている。
自分のことで恐縮だが、私は自分で決めたことについては割と努力できるほうだと思っていて、一方で、全く興味のないことについて努力することは絶対にできないという自覚もある。
自己分析になってしまうが、自分が努力しているときはどういう心理なのか、少し考えてみた。
結果がわからないけれど、勝ちたい試合が目の前にあるとき、人は努力する
私の感覚では、努力は「100%でない、ポジティブな可能性」を感じているときにしかできない。
「100%でない」というのは文字通りで、自分がどうなるかわかりきっているとき、努力しようとは思いにくいということだ。100%負ける試合・100%勝てる試合の前に練習する気は起きてこないだろう。
結果がわからないけれど、勝ちたい試合が目の前にあるとき、人は努力する。
で、ここからは完全に持論になってしまうが、私は「自分の実力をきちんと把握できている人はほとんどいない」と思っていて、「それゆえに人は努力し続けることができる」と思っている。
どういうことか。
人は自分の実力をよくわかっていない。回数を重ねてもわからない。
今日は試合に勝った。でも明日は勝てるかわからない。翌日、勝った。でもその更に翌日は勝てるかわからない。この繰り返しで、自分の実力は何度勝ち続けてもわからない。
まして途中で負け試合が挟まってくると、真の実力は一層わからなくなる。
「試合に勝ち続けていたら、さすがに実力はわかるのでは?」と思うかもしれないが、目標を達成するまではわからない。つまり優勝するまでわからないのである。(ちなみにこれまでずっと例として“試合”を挙げているが、当然様々な競争場面を想定している。)
少し話しは変わるが、「平均への回帰効果」という言葉を知っているだろうか。
『論理パラドクス 論証力を磨く99問』(三浦俊彦)という本から引用すると、次のような問いから説明することができる。
定期的なテストの成績を集計したところ、ほめられた子どもはその次の試験で成績が下がり、叱られた子どもはその次の試験で成績が上がることが多い。
これは、統計的に確かめられた事実である。この結果は、いつ、どの地域で、どのようなテストで、何年生を対象にした統計でも変わらなかった。どの条件を補正しても同じだった。(略)
さてここから、「子どもはほめるより叱って育てた方が伸びる」という教訓を引き出せるだろうか。
論理パラドクス 論証力を磨く99問 (二見文庫)
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答えはNOだ。その理由が「平均への回帰効果」で説明できる。
試験でほめられたということは、(その子の基準からして)よい成績をとったということであり、叱られたということは、(その子の基準からして)悪い成績をとったということである。
そのほとんどは、本来の実力から外れた出来を示したという場合だろう。したがって、次にはその子の実力相応の成績にもどる確率が高い。
試合に勝ったからと言って、それが実力だとはなかなか思えない。
実力がわからないということは、良い結果の原因は実力以外にあると思ってしまうということであり、つまりは幸運だったという結論に結びつきやすい。
文字にすると、「そんな馬鹿な……さすがにある程度実力は把握しているでしょう」と思うかもしれないが、明確に「これは運のおかげである」と思っているわけではなく、ぼんやりと「今回は結果がよかったなー」程度に捉えていて、運とまでは言わないにしても、「なんかよかったなー」と。
「今回はよかったけれど、平均への回帰効果で、次は今回ほどうまくはいかないかもなー」と、なんとなく思う。だから、努力する。その繰り返しだ。
勝ち続けると平均は上がっていくはずだが、「幸運」という「偶然」の出来事は平均には加えられないので、平均の値は変わらない。「“たまたま”幸運が続いているだけ」なのである。
何も、平均への回帰効果を意識して考えているわけではない。ただ、無意識のうちにそう思ってしまっているのである。少なくとも私はそうだ。今回うまくいったのは運が良かったからで、次もうまくいくとは限らない。だから、努力しよう、と。
努力して勝ち続けても、それは「幸運が続いているだけ」なので、最後まで努力し続ける。それが、努力していない人の目には、不思議に映るのである。
「今うまくいっているのは、幸運が続いているだけだから、努力しよう」という心理。これが全てではないにしろ、私はある一面を表しているような気がしている。
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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
【著書】
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