キャリア論、というとどうしても「頑張りたい人向けの話」が多い。

まあ、頑張らなければキャリアアップは望めないので、当然とも言える。

 

だが世の中には「別に仕事で無理して頑張らなくてもいいじゃん。」という方も、数多くいるのは事実だ。

 

この場合「頑張らない」というのは、もちろん「働かない」ではない。

働かなくては普通の暮らしもままならない。

そうではなく、普通のくらしを目指す、キャリアをアップさせるというよりも、キャリアを安定させたい、という考え方だ。

古い経営者の中には「ほどほどを目指す」という考え方を受け入れられず、「ケシカラン、仕事を一生懸命やってこそ」という頑固な方もいるが、個人的には「継続可能性」という点では、なかなか悪くない考え方だと思う。

 

では「普通の暮らし」をゴールとし、「会社へ依存しない安定」を狙った戦略の具体論に入る。

骨子は以下の3つだ。

 

1.最小の労力で、大きな成果を狙う

2.出世は固辞する

3.安定収入を得る

 

1.最小の労力で、大きな成果を狙う

まず、勘違いしがちなのが「頑張らない」をイコール、「成果を出さない」と考えることである。

これは全く違う。

「頑張らないが、成果はそこそこ出す」というのが「頑張らない戦略」の中で最も重要な考え方だ。

 

ここで採用するのは「2番手戦略」である。

要するに「社内で成果を出している人のやっていること」をひたすら真似するのである。

オリジナリティとか、イノベーティブとか、そういうことは一旦脇に置く。

 

成績トップが電話をしていたら、電話をする。

手紙を書いていたら、手紙を書く。

同じアプリケーションを使い、同じ仕事の進め方をする。

同じ本を読んで、同じセミナーに出て、同じ提案をする。

 

マネするだけでいいの?

1番の人の真似をするのは大変では?

と疑う方もいるだろう。

だが、それでいいのだ。

 

「ロケットインターネット」という会社がある。この会社は、「うまくいっているサービスをパクって、別の国で立ち上げる」というシンプルなビジネスをしている。

驚愕 世界中のビジネスを「コピペ」して丸儲け!|ドイツ「ロケット・インターネット」戦略の全貌

ドイツの企業「ロケット・インターネット」は、創業から10年も経たずして、ネットビジネスの世界的巨人となった。同社は毀誉褒貶が激しいものの、はなはだ強力な戦略をとっている。既存のITビジネスをコピー&ペーストして、そういうサービスがまだ存在していない市場で立ち上げるのである。

同社でもっとも重要な価値観は、「利益」と「効率」だという。

事実、彼らは最も成功した企業の一つであり、最近ではヨーロッパ最大規模のファンドの立ち上げなども手がける。

ヨーロッパ史上最高額 ー Rocket Internetが10億ドルのファンドを組成

今回のファンドの組成にあたり、Rocket Internetは全体の14%にあたる1億4000万ドルを投じ、残りの資金は「金融機関や年金機構、資産管理会社、基金、個人の高所得者といった世界中のさまざまな投資家」から集められた。

「10億ドルの壁を越えたということが、RICPが提供する魅力的な投資チャンスに熱意を感じている一流投資家の強い興味を表しています」とRocket Internet CEOのOliver Samwerは声明の中で語った。

かつて、「日本製品はパクリばかり」という批判が、世界でなされていた。だが日本は無事に復興した。

いま「中国製品はパクリばかり」という批判もある。だが、中国は日本を抜き去った。

 

生産性をあげる最も簡単なやり方は、「パクリ」である。

最小の労力でノウハウを手にする。それは立派な戦略の一つだ。

「いいとこ取り」は、2番手の特権である。

 

もちろん代償もある。それは「名誉」は得られないということだ。

名誉は1番のものである。

だが「名誉」がどれほどの意味を持つか?

「頑張らないキャリア」に於いて、そんなものは犬にくれてやればよいのだ。

 

2.出世は固辞する

次に重要なのは、「会社に依存しない」ということだ。

そして、依存しないために重要なのが「出世しないこと」である。

 

繰り返すが、2番手戦略で、ある程度成果を出していても、会社への貢献はそれで十分すぎるほどだ。

(なにせ、出世していても成果を出していない人のほうが遥かに多いのだから)

出世は固辞する。ここはとても重要だ。

 

出世には多くのデメリットがある。

1.給料が(ちょっと)上がる。

2.部下がつく。

3.成果を強く求められるようになる。

 

まず、1.がなぜデメリットなのか。

単純だ。人は少しお金を持つと、生活水準を上げたくなる。

ちょっといいところで食事。

ちょっといい服。

ちょっといい住まい。

 

そういったものが積み重なると、こんどはそれを守るために「頑張る」ようになる。

それは方針に反するだろう。

「ちょっといい」は長い目で見れば、人生の満足度にはほとんど関係がない。

なんとなくの、意味のない贅沢を控えることで、「頑張らなくて良いキャリア」が築けるのであれば、これほど効率的なことはない。

 

また、出世しなければ、部下に時間を使う必要もなければ、「お前は他の人よりもいい給料(月額にして+10万円〜30万円程度)をもらっているのだから、成果を出せ」と言われることもない。

さらに、

・給料が普通の水準の人は、リストラされにくい。

・「成果を出しているけども、出世はしたくない」という美談になる。

・社内の(疲れる)出世競争をせずにすむ

 

「頑張らないキャリア」にとっては、いずれも重要な事だろう。

 

3.社外で安定収入を得る

安定収入は「頑張らないキャリア」にとって非常に重要だ。

逆に言えば、収入が安定しているからこそ、「頑張る」という切羽詰まった状況を回避できるのである。

 

安定収入は、以下のものから得られる。

①会社の給与

②副業

③株などへの投資

 

「出世しない」を選んだ以上、①の会社の給与の上限はたかが知れている。

あまり頑張らないで得られる給与の上限は、会社にもよるが、せいぜい月30万円〜40万円程度だろう。

したがって、収入増加の道は②と、③になる。

 

そして、まず始めるべきは②だ。

「副業」というのは、インターネット上のアフィリエイトなどをイメージする方も多いと思うが、必ずしもそれだけではない。

 

友達や知り合いから少し仕事を紹介してもらう。

クラウドソーシングで月に数万円分の仕事をする。

その程度でも十分だ。「多くを稼ぐ」事を考えなければ、それなりに興味の範囲で、楽しめる副業は数多くある。

 

そして重要なのが③だ。

上の②で稼いだ金は、すべて③につぎ込む。

もともとなかったもの、と思えば、別に惜しくはないだろう。

くれぐれも、「ちょっとした贅沢」などに使ってはいけない。贅沢をするのは、資産形成が終わった後でも遅くはない。

今はとにかく、「労働=時間」をお金に変える、という発想から抜け出すことにすべての力を使うべきなのだ。

 

トマ・ピケティが「21世紀の資本」で指摘したように、資本収益率は、経済成長を上回る。

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つまり、給与を増やそうと「頑張る」よりも、浪費を防いで資産形成を確実に行い、そこからのリターンを得るほうが、確実に豊かになることができるのである。

 

****

 

以上、「「ほどほどに仕事したい」という人向けのキャリア」だ。

 

そんなに悪くもない人生だ、と正直思った人もいるのではないだろうか。

逆に、「仕事至上主義者」から見れば、不快、あるいは「カッコ悪い」と思う方もいるだろう。

 

ただ、冒頭で述べたように「継続可能性」という意味では、人生にこう言った時期があるのは悪いことではないと思う。

 

ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンは、「頑張って働ける能力」を「活力資産」と呼び、枯渇する可能性を説く。

長期にわたり中断なく働き続ける場合、ジェーンは活力資産を維持できるのか?まとまった中断期間もなしに60年も働き続ければ、活力資産が枯渇しはしないか?従来型の企業に勤めて、週5日、朝9時から夜6時まで働き、休暇は年に34週間程度という働き方をしていれば、それが避けられないだろう。

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早々に燃え尽きないために、人生には「あえて頑張らないステージ」を設けることも一つの選択肢だ。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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(Photo:Mike Maguire