コンサルティング会社では「マネジャー昇進」がとても大きな節目になります。

 

実際、「元コンサルタント」は世の中に大勢いますが、「マネジャー以上」と「マネジャー未満」では、経験の種類や能力に大きな差があります。

マネジャー未満は「見習い」であり、マネジャーからが真の意味で「コンサルタント」です。

(ですから、コンサルタントの経験を重視して雇うなら「マネジャー以上」に限定したほうが良いでしょう。)

 

で、話をもとに戻しますが、それであるがゆえに「マネジャーに昇進させるかどうか」は、かなり重要な意思決定でした。

マネジャーになれば、プロジェクトの遂行能力はもちろんのこと、それまであまり問われなかった営業の能力や、マネジメントの能力も問われるようになるのです。

 

ですから、毎年の「マネジャーに昇進させるかどうか」をディスカッションする場では、様々な視点から、「彼はマネジャーとして活躍できるか?」が吟味されていました。

 

そんな中で、昇進の判定をするときに、わたしが特に重視していた能力が、

「ピーキーで使いこなしが難しい人の活用ができるかどうか」

でした。

 

ピーキーで使いこなしが難しい人とは

彼らがどのような人かというと、前にも書きましたが、例えば以下のような人々です。

 

・エンジニアとしては突き抜けているが、朝起きられない(参考:「9時までに遅刻せず会社に来る」ということは、本当に重要な事なのだろうか。

・リスク管理能力にきわめて長けているが、コミュニケーション能力が皆無で、人を怒らせるのが得意

・極めて優秀な営業だが、全く整理ができず、机がいつも荒れている

・挨拶の全くできない、独創的なデザイナー

 

あるいは、つい先日記事になっていましたが、「ギフテッドで発達障害」のような人物も、それにあたるかもしれません。

元テレ東・赤平大アナ、「ギフテッドで発達障害」2Eの息子が麻布中学合格の軌跡

発達検査を受けたところ、ADHD(注意欠如・多動症)であると同時に、IQが高く特異な才能を持つ「ギフテッド」であることもわかりました。

 

彼らは、「なんでもある程度そつなくこなす」という事ができません。

 

苦手な「きづかい」が必要なメールを送ればトラブルになり

エライ人に挨拶ができず、遅刻ばかり。

経費精算は必ず〆切に遅れ、依頼事項も忘れがちです。

 

そんな人ですから、一般的な大企業では、上の記事にある通り、怒られてばかりでしょう。

同じミスを何度もする、忘れ物が多いなどの特性があるADHDは、「怒られる天才」とも言われます。

なんなら、隣にいたら愚痴をこぼしてしまうかもしれません。

「なんで、こんなことすらできないのか」と。

 

しかし、私は超有能なコンサルタントであった上司から「マネジャー昇進」を告げられたとき、こう教わりました。

「安達さん、仕事はね、強みで勝負だよ。長所伸展が基本。」と。

 

その時は、あまり深く考えませんでしたが、後になって、痛いほどそれを理解できました。

つまり、「そつのない人」をそろえるより、「ピーキーで使いこなすのが難しい人」をうまく組み合わせたほうが、はるかに成果が出るのです。

 

よく、ゲームでも

「使いこなすの難しいけど、使い方によっては代替が効かないほど強い」

っていう能力や武器がありますよね。

 

組織における「ピーキーな人」は、それと同じです。

 

弱みを気にしすぎてはならない

後になって知りましたが、ピーター・ドラッカーは、このことを実に的確に表現していました。

成果をあげるためには、人の強みを生かさなければならない。弱みを気にしすぎてはならない。利用できるかぎりのあらゆる強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員しなければならない。

強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。

組織は何のためにあるのか、と問われれば、ドラッカーは迷いなく「強みだけで勝負するため」と答えたでしょう。

 

逆に言えばマネジメントが機能していれば、「そつなく何でもこなすこと」は、それほど重要ではないのです。

 

しかし、現実的には「そつのない人」のほうが、高い評価を受けているケースが多いと思います。

いったいなぜ「そつなく何でもこなす人」が、「ピーキーな人」よりも、高評価を受けるのでしょう。

 

一つは、マネジャーのマネジメント能力の不足に起因しています。

要するに、ピーキーな人は使うのが難しいので、手に負えない、それを部下のせいにする、というわけです。

 

実際には、自分のマネジメント能力を棚に上げて、つかいやすい人を高く評価しているだけなのですが。

 

そしてもう一つが、心理学でいうところの「ネガティブバイアス」です。

これは、「人は、ポジティブな情報よりネガティブな情報を重視する」という傾向で、人を見定めるときにもこのバイアスは作用します。

 

イェール大学のアン・ウーキョン教授は、平均的な成績スコアが同じであっても

・Aばかりの成績を取る「そつのない」人物

は、

・AプラスとBプラスの両方がある人物、つまり「ピーキーな人物」

よりも高い評価を得ることが多いことを実験で確かめています。

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したがって、「そつのない人」は、実際の能力以上に、高い評価を受けていることが多いのです。

 

これを逆手に取れば、スタートアップやベンチャー企業が高い能力を持つ人物を雇いたい時には、大手が敬遠するような「ピーキーな人」を集めることが効果的ですし、集めやすいでしょう。

 

マネジメント能力のある人物が、ピーキーな人を集めてその能力をうまく運用した時こそ、まさに「最強のチーム」が組めるのです。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯Twitter:安達裕哉

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Photo:Javier Allegue Barros