こんなツイートが、支持を集めているのを見た。

曰く、

調子が悪くても、「努力(と成果)を評価」してくれる。

何度ミスしても、「カバー」してくれる。

だから、頑張れよ。そう言ってくれる上司は、素晴らしい。

 

確かにそうかもしれない。

 

だが、私はすこし違う見方をしている。

おそらくこの上司はとても「いい」だ。

だが、本当に「良い上司」だろうか?

 

 

まだ私が会社員だったころ。

「面倒見の良い上司」が周囲に結構いた。

コンサルタントという職業上「大人」が多い会社だったというのもあるだろう。

一般的なコンサルタントの冷たいイメージとは異なり、人を無下に扱う上司は少なかった。

 

経営トップから「部下の面倒を見ること」が、上司のミッションとして与えられており、ミッションを無視するわけにはいかない、というのも大きかっただろう。

そう言うわけで、部下にきっちり教えたり、部下の話を熱心に聞いて、相談に乗ったりと、上司は「部下に成果をあげさせる」ことにかなり熱心だったと記憶している。

 

まさに、上のTweetにあるような

調子が悪くても、「努力(と成果)を評価」してくれる。

何度ミスしても、「カバー」してくれる。

そんな上司がいた会社だった。

 

 

「さぞかし良い会社で、皆モチベーション高く働いていたのでは」

と思う方もいるかも知れない。

 

が、客観的に評価すると、必ずしもそうとは言えなかった。

例えば、当時の「若手の離職率」は、上司が熱心な指導をしている割には結構高く、年間三割に達したこともある。

鬱になって辞めてしまう人。

疲れ切って辞めてしまう人。

独立してしまう人。

辞める理由は様々だったが、少なくとも定着率が良い会社ではなかった。

 

「コンサルティング会社なのだから、離職率が高いのは普通では?」

という人もいるかも知れないが、3割代の離職率は、コンサルティング会社であってもあまり褒められたものではない。

 

ダメ上司はごく少数。

皆「マネジメント研修」の講師を勤めるほどの知識もあり、給料も悪くない。

そんな組織で、なぜこんなにも離職率が高かったのか。

 

結論から言うと、これは「責任感の強い、いい人が上司であることの弊害」ではないかと踏んでいる。

 

 

すこしまえの話になる。

ある会社のリーダー職の方から、相談を受けた。

曰く、

「どうしても、部下がちゃんと仕事をできるようにならない」

とのこと。

 

状況を聞くと、

「新人の子なので、ある程度マニュアル化できているような、難易度の低い業務をやらせている。」

「質問があれば、いつでも受けているし、こちらから困っていないかどうかは見ている」

と、特に目立った問題はない。

 

「何の仕事をやってもらっているのですか?」と聞くと、

「簡単な仕事から、ということで、最初は協力会社からの納品物をチェックする役割を与えました。」という。

 

たしかに見る限り、アルバイトでも十分できそうな仕事だ。

新人だということで、やってもらっているのだろう。

 

ところが、「細かい仕事ですが、これくらいなら、ちゃんとやれそうですね」というと、リーダーは困ったように

「いえ……抜け漏れが結構あって、「マニュアルにかいてある」と言っても、なかなかミスが減らない状態でして……なんとかミスを無くすように色々教えているのですが……」という。

 

確かに、性格的に細かなチェックに向いてない人も多数いる。

そこで、

「なるほど。細かい仕事が苦手なのかもですね。」というと、リーダーの方も

「そうなんです。私もそう思って、今度は、お客さんのヘルプデスク業務の一部をやらせたんです。定型的なものが多いのですが、わからない時は「報告してください」と指示しました。」

 

「それはどうだったんですか。」

「残念ながら……お客さんを何度か怒らせてしまって……。」

「なるほど……。お客さん相手は難しいですかね。」

「ただ、他の新人は皆できているのに、その子だけどうしてもできないんです。どうやって改善させればよいのか……」

と、リーダーは悩んでいる。

 

私が

「今後、どうしようと思ってますか?」

と聞くと、そのリーダーは

「つきっきりで指導するしかなさそうですね……。側にいて、ちゃんとできるようになるまで手取り足取り指導したほうがいいのかな、と思っています。」と言った。

「つきっきりで指導してほしい、と、その方から言われたのですか?」

「いえ……、でもあの子の育成に責任がありますから。」

 

うん、このリーダーは、責任感が強くていい人だ。

 

だが、私は昔の会社を思い出して、そのリーダーに言った。

「その子、つきっきりで指導すると、たぶん……辞めちゃいますよ。それでもいいなら。」

 

すると、リーダーは驚いたようだった。

「なぜですか?」

「だって、その子明らかに能力低いですよね。他の人が普通にやっていることができない。」

「はい。」

「だからです。」

「どういうことですか?」

「リーダーのあなたが求める成長のスピードと、その子の能力が明らかに噛み合ってないです。つきっきりで指導されるプレッシャーに負けて、だいたい鬱になって辞めてしまいます。マニュアルや指導法を工夫しても、無理は無理です。」

 

 

そう。

会社で一番つらいのは、「自分が無能だ」と思い知らされることなのだ。

 

「それよりも、リーダーが他にやんなきゃならないことは、たくさんあるでしょう。そっちに時間を割かないと、他の人の不満が溜まって、チームがぶっ壊れます。」

「その子はどうするんですか?」

「放っておけばいいんです。」

「でも、冷たくないですか?」

「「できるようになれ」と、せっつかれる方が、よほどつらいと思いますよ。能力を高めるのは、時間がかかるんです。」

「……。」

 

「上司は、客観的でいいんです。できないものはできない。克服には時間がかかる。「できない、あ、そう。じゃ、別のことやって。」でいいんです。」

「それで、成長するんですか?」

「どんな人でも成長しますよ。時間が解決します。」

 

リーダーはまた言った。

「別のこともできなかったら?」

「また別のことをやらせてください。」

 

「やらせられる仕事がなくなったら?」

「人事に言って、配置転換を求めてください。」

 

「あの子の評価がさがってしまいますけど……」

「それの何が問題ですか?」

「……。」

 

 

「人が良く、熱心な上司」は、しばしば全力で、部下の応援をする。

それはたしかに素晴らしいことではあるし、感謝されることもある。

 

だが、「能力が足りない人に、あらゆる手段を通じて頑張らせる」のは、長期的に見ると、結構問題も多い。

それは「上司の期待に応えられないあまり、仕事が苦しくてしょうがない状態」を作り出してしまうことだ。

 

冒頭の上司は明らかに「いい人」だ。

だが、実際に下で働いてみると、最初は「なんていい上司なんだ!」と感動するが、これが、1年、2年と続くうちに、能力不足のメンバーは精神的に不調に陥ることが多い。

 

調子が悪くても、「努力(と成果)を評価」してくれる。  →  こんなに見てくれているのに、成果出せてない。ああああ……

何度ミスしても、「カバー」してくれる。 → また上司にミスをカバーしてもらった、申し訳ない。ああああ……

と、なりがちである。

 

だから、殆どの場合において

「部下を早く成長させよう」

「頑張れるように応援しよう」という、邪念は捨てたほうがベターだ。

 

それは多くの場合、

「部下に認められたい」

「尊敬されたい」

「嫌われたくない」

という、無意識の私的な欲求から出ている。

 

実際に、成長のスピードは「その人の能力」と「その人の工夫」に依存し、上司がそれに関わる割合は極めて少ない。

だから「努力を評価しよう」という姿勢も捨てていい。

努力を評価すると、大体において途中で息切れし、鬱になる。

 

結局、私が昔いた組織は、人材育成についてこんな方針に変わった。

「リーダーはメンバー育成に責任があります。ただし「部下を育てる」とは思わないこと。上司の「育てる」という強い思いは、メンバーにとって大抵は、余計なお世話です。」

 

 

いい人は責任感が強いので、「育てよう」と思ってしまう。

が、大体の場合、良い上司は「ま、勝手に育つだろ」とあまり部下の成長に拘泥しない。

 

もちろん、助けを求めている部下がいる時に、助け船を出すのは上司の役割だ。

だが、最終的に「成長」に関して責任を負うのは、上司ではなく、本人である。

 

結局、

「仕事の成果を明確にする」

「客観的に評価する」

「話を聞く」

「成果が出てないなら、他の仕事をやらせる」

程度が、「良い上司」の仕事である。

それ以上は、部下にとっても、余計なお世話だ。気にしなくていい。

 

 

◯Twitterアカウント▶安達裕哉(人の能力について興味があります。企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働者と格差について発信。)

 

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