昨日の記事が面白かったので、相乗りします。

「仕事で成長」って、本当に必要ですか?

ただ、私もちょっと勘違いしていた点なんですけど、そもそも「成長」って別に「働く目的」ではなく、「生き残るための数ある有力な手段の一つ」でしかないんですよね。

別に必須ではなく、唯一解ですらない、手段の一つ。

ああ、そうだな、と思いました。

 

で、特にしびれたのが、この箇所。

冒頭リンクで挙げたまなめさんは、正真正銘「自発的にスキルアップしたい」人なわけですが、そんな人、100人の中に2,3人いればいい方なんじゃないかなーというのが肌感なんです。

そうですねー。

これは、私もよく憶えがあります。

 

わたしは以前、コンサルティング会社で、グローバル・スタンダードに基づいて、非常に多くの「教育制度」の構築に携わりました。

正確に言うと、「教育・訓練」というやつです。

 

グローバル・スタンダード曰く、やるべきことは

1.従業員の業務遂行に必要な力量を定義せよ。

2.必要に応じて、教育・訓練、もしくはその他の処置を施せ。

3.教育・訓練の効果の確認をせよ。

4.記録を取れ

の4つだったんですが、見て分かる通り、「従業員の成長」という項目はありません。

本当にないんです。

 

あるのは「仕事に必要な能力が不足していたら、教育・訓練、その他の処置を施せ」という話だけ。

しかも、教育・訓練、および「その他の処置」なので、例えば異動やら採用やら、あるいはアウトソースなども視野に入れる、という話でした。

 

もちろん例外はありますが、会社の仕組みからしてみれば「業務遂行」さえなされていれば、従業員の成長なんて、別にどうでもいい話なんです。

というか、そんな不安定なものをアテにできない。

これがまず、マネジメントにおける、グローバル・スタンダードの視点です。

 

 

で。

たまに話題として出てくるのが、上司から「成長しろ」とか言われるケース。

あるいは上の文章にあるように、「成長できるから給料安くてもいいよね」とか言う話。

 

これ、コンサルタントからすれば、「やりたいなら勝手にどうぞ」くらいの意見しかないです。

いや、はっきり言えばむしろ「成長成長」いう人は、邪魔です。

仕事しろ、と。

 

実際、私はクライアントから

「「従業員のキャリアプラン相談」や「スキルアップの支援」などを、教育制度に含めたほうがいいですかね?」

と聞かれたことがありました。

 

もちろん、会社の状況によるのですが、そのときには、

「キャリアプランやスキルアップは、個人で考えるものであって、会社がわざわざ金を出すようなものではない。そんな暇があったら、業務の改善か新規事業でもやったほうがいい。」

と、回答したことがあります。

そんなん、自分で考えろと。

 

従業員が難しい仕事についていけなくなったら、何らかの補強をして上げる必要はあるかもしれないです。

でもそれは「スキルアップの支援」ではなく、「業務上必要」だから。

 

能力的に難しいようだったら、人を入れ替える。

入れ替えも厳しいようなら、アウトソースする。

それがマネジメントです。

 

こう言うと、冷たく聞こえるかもしれません。

ですが、もちろん、従業員側も特に「成長」を望んでいるわけではないことを、私は知ってました。

例えば、実際に「様々な研修(訓練)を、カフェテリア形式で選べる」という制度を用意しても、利用者なんて、微々たるものです。まさに100人中2、3人。

 

「◯◯の研修制度がほしい」なんて言っていた社員ですら、実際に用意すると「時間がない」とか言って、使わないことなんて、ザラです。

でも本当は暇なんですよ。その人。

 

ですから、私が多くの会社で目撃した実態は、「成長したい」なんて社員は、本当にごく少数の変わり者であって、殆どのフツーの人は、「ま、そう言われればやりますけど」という程度です。

 

また、多くの会社も「この業務は遂行してね。できなかったら何らかの訓練プログラムは用意する。でも、それでもできなかったら人は入れ替えるよ。」というので、おしまいでした。

 

 

で、なんで「成長派」と「成長否定派」がボタンを掛け違えるのかな、とちょっと考えたこともあります。

 

結論としては「成長」という言葉が今ひとつなんだな、と思うんです。

 

なんか「成長」という言葉、って、ゲームのキャラクターの成長と同じように捉えている人が多いのかな、と思うのです。

ステータスが増えて、 新しく魔法がつかえるようになる、 そのうちめちゃくちゃ強くなって無双、

みたいな。

 

でも、人間とゲームのキャラクターの成長って、かなり違います。

実際、大人になってしまえば、ステータスは、生まれ持った遺伝の影響が大きく、 ほとんど変化はないのです。

要するに、大人のステータスは、実はすでにカンストしている。

 

例えば知能は、大人になればなるほど遺伝の影響が大きくなり、環境の影響が少なくなります。

事実、慶応大学の心理学者、安藤寿康氏によれば、子供のときよりも大人になってからの知能のほうが遺伝の影響が大きく、大人の知能は7割が遺伝によって説明できる、といいます。

この結果は、意外だと思われるかもしれませんね。人間は年齢とともに経験を重ねていくわけですから、環境の影響が大きくなっていきそうなものですが、実際は逆なのです。

つまり、人間は年齢を重ねてさまざまな環境にさらされるうちに、遺伝的な素質が引き出されて、本来の自分自身になっていくようすが行動遺伝学からは示唆されます。(中略)

しかし、遺伝はその人の一生を通じて影響を与え続けますが、環境が影響を及ぼすのはあくまでもその環境が周りにあるときだけです。

いずれにせよ、人はいずれ親の七光りが通用しない社会の中で生きていかなければなりません。遺伝か環境か、どちらかに賭けろというのであれば、私は遺伝を選びます。

研究者が「遺伝を選びます」というくらい、ステータスに対する遺伝の影響は大きいのです。

 

こうした研究からも、「大人になってからの成長(=ステータスアップ)」などは、ほとんど望めない、と考えたほうが良いでしょう。

 

だから多分「大人の成長」って、誰かが作り出した虚構なんです。

人間は唯一、子供が大人になるときに、著しいステータスアップ、文字通り「成長」するだけなのです。

 

実際、子供から大人へは、凄まじい知能の成長が見られます。

自分の子供を見ても、1才児と4歳、4歳と7歳では勝負にならないほど知能に差がある。

 

が、おとなになってからの知能の成長は、それに比べればほんの僅かでしょう。

それが現実です。

 

でも、こう言う事を言うと、

「スキルは成長する」とか

「考え方も成長する」とか

そんな話を持ち出す方もいるでしょう。

 

ただ、それは私の考えでは「成長」というよりも、むしろ「適応」というべきではないかと思います。

実は、大人が本当に問われているのは、「成長」ではなく、「適応」なんです。

 

ダーウィンの進化論ではよく「適者生存」と言われていますが、これは、生物界の本質 です。

実際、しんざきさんはこう書いています。

「これを勉強したい」

「この技術が気になってる、身に着けたい」

「だから空き時間が欲しい」って思っている人、いないんですね。本当にいない。

(中略)

いや、皆、勉強出来ない人たちじゃないんですよ?

例えばプロジェクトで新しい技術を使うことになって、それについて急いで勉強しなくちゃいけない、とかいう状況だと、ちゃんと資料揃えてセミナー行って本買って、キャッチアップ出来る人たちなんです。

「スキルの獲得に受け身」だったり、消極的だったりするのは、その人達が生物だからです。

余計な力を使わず、万が一環境が変われば「適応」しようとする。そして、しんざきさんの周りの人たちは実際に「適応」している。

 

これこそまさに、「ああ、生き物ってすごい」と感心していい部分じゃないでしょうか。

受け身が実は、人間の本来の姿なんです。

 

 

ただ、「適応」が、これからは結構厳しくなるかもです。

端的に言うと「死にたくなきゃ、頑張って環境変化にキャッチアップせよ。」のスピードが上がってるから。

 

今だったら、

ピーター・ドラッカーの「ネクスト・ソサエティ」

リンダ・グラットンの「ライフ・シフト」

ユヴァル・ノア・ハラリの「ホモ・デウス」

などに描かれているように、資本主義、自由主義から次世代の知識社会への適応などが囁かれているでしょう。

 

「成長せよ」と脅す人は、要するにもしかしたら、今後の世界は「勉強しない人」に対して、厳しくなるかもしれない。

今のスピードで、それに適応できますか?

という話を言っているのです。

 

実際に、世の中の変化のスピードはどんどん上がってますから、「適応できずに滅ぶ」という事が現実にありえます。

実際、これまで地球上に生まれた種の殆どは適応できずに滅んでいる。

 

まあ、とはいえ、この記事で書かれているように「過剰に適応する」のはそれはそれで問題なので、どこかで歯止めがかかるのかもしれないですが。

私は人を脅すつもりはないので、これくらいにしておきます。

 

ただ、「サピエンス全史」にかかれているように、人類の最強の武器は、実は「適応力」にあります。

アメリカ大陸を席巻した人類の電撃戦は、ホモ・サピエンスの比類のない創意工夫と卓越した適応性の証だ。

どこであっても事実上同じ遺伝子を使いながら、これほど短い期間に、これほど多種多様な根本的に異なる生息環境に進出した動物はかつてなかった。

しんざきさんは「成長」ではなく、「安定してその仕事で食っていけるニッチを見つけること」も一つの手段だと言っていますが、要するにスキルを付けて成長するのも、知識を入れるのも、ニッチを見つけるのも、どれも「環境への適応」です。

 

その「適応力」を発揮できるように、皆がそれなりに頑張らないとならない。

成長か、非成長かの議論とは関係なく、それが、現実なのだと思うのです。

 

 

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【著者プロフィール】

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元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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