「何回も同じことを言わせるな」は、出来の悪い部下への定番のセリフである。あれほど注意したのに、あれほど念押ししたのに、同じようなミスを繰り返す部下は、上司の悩みの種だ。
「また遅刻か、何度言ったらわかるんだ」
「また報告書の提出を忘れたのか。何をやってるんだ。」
「またお客さんへの電話を忘れたのか、何回も同じことを言わせるな」
言われる部下もつらいだろうが、叱る上司の方もつらい。
「何度言われてもうっかりミスの減らない部下」が、上司の胃痛の種となっているケースはいくらでもあるだろう。
しかし、こういった上司に対してあえて苦言を呈する経営者もいる。もう7年ほど前になるだろうか。ある製造業の会社で耳にした話だ。
「何回も同じことを言わせるな、という上司のセリフは無能の証ですよ」
と、その経営者は言った。
「上司の役割の一つは、部下に同じミスを何度も繰り返させないことですから。当たり前のことです。」
「どういうことでしょうか?」
「うちの会社にはルールがあります。ミスに関する。」
「具体的に教えて下さい。」
「いいですよ。まず1回めのミスは、誰のせいでもありません。仕事にミスはつきものですし、完璧な人間はいない。中には重大なミスもありますが、ミスを恐れていては大胆に動くことはできない。ですから、1回めのミスは責任不問です。」
「なるほど。」
「そして、同じ事案での2回めのミス、要するに繰り返し起きてしまったミスは、本人の責任です。キツく叱ります。同じミスを2回した、ということは、学習していないということですから。」
「そうですね。」
「そして、3回同じミスを繰り返した時は、これはもう上司の責任です。」
「本人ではなく?」
「そうです。上司は2回めのミスを見たにも関わらず、再発防止策を本人にきちんと取らせなかったということですから。いいですか、繰り返し起こるミスは、本人の責任で何とかさせるのではなく、仕組みで何とかすべきです。そうしなければ組織にノウハウは残らないし、誰が責任をとるのかも曖昧になる。これは許されないことです。」
「なるほど。」
「ということは、「何回も同じことを言わせるな」というセリフはあってはならない、ということです。ですから無能な上司の証であると言いました。」
このエピソードは、かつて私が「品質マネジメント」のコンサルティングを行っていた時の話であるが、再発防止の仕組みについて知る、大変良い機会になったのだった。
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