「前向きなのはいいけど、前向きすぎるのも微妙だよね」と、彼は言う。
聴くところによれば彼のチームのリーダーは前向きで非常にいい人なのだが、前向きすぎて困るのだそうだ。
「前向きすぎるって、どういうこと?」私は彼に聞き返した。
彼は言った。
「うちのリーダー、目標値が高すぎるんだよ。メンバーは皆迷惑してる。」
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「目標は高い方がいい」とその経営者は言った。
「目標が低ければ、達成しても達成感は得られません。真の成長は一見不可能に見える目標に到達しようとする努力から生まれるのです。私はそうやって会社を経営してきました」
彼は自分の考え方に絶対の自信を持っているようだった。
「高すぎる目標で最初から諦めてしまう人はいませんか?」と私が聞くと、経営者はこう言った。
「諦めさせないようにするのが、管理職の役割でしょう」
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「社長は高めの目標を出せというし、現場からは「できっこない」と言われるし、本当に困り果てています」と、そのリーダーは言った。
「社長は、あなたがそれを納得させるべきだと言っていますが」
リーダーはつかれた様子で言った。
「社長の気持ちがわからなくもないんです。私がかつてストレッチ目標で伸びたので、皆同じことができると思っているんです。」
「なるほど。」
「私は当時向上心に燃えていました。「前向き」とでもいうのでしょうか。目標が高いことも社長の期待の現れだと思っていました。でも、実際のところはちがいました。そんな人はそう多くありません。普通の人はそんなに前向きではありません。」
「…。」
「自分で言うのもなんですが、「前向きである」というのは一種の才能だと、今では思います。すべての人にそれを求めるのは、マネジメントとしては間違っているように感じます。でも、社長にどうやってそれを納得してもらうか…悩んでます。」
私は聞いた。
「前向きな人は、全体の何割くらいだと感じますか?高い目標を期待の現れだと思うような人は。」
「せいぜい2割じゃないでしょうか。だから、会社は基本的に「前向きではない人のほうが多い」という前提で経営をしたほうが良いと思うのです。でなければ、採用の時点でその2割の人しか採らないようにすべきです。」
「ふーむ。」
「社長への説明を、助けていただけないでしょうか。社長にこの話をすると、おそらく「それを何とかするのがお前の仕事だ」と言われると思います。でも、前向きではない人間を前向きに変えるのはかなりの時間がかかります。」
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私はその話を経営者に報告した。「前向きな人は2割位だそうです。」
「彼がそう言っているんですか…。」経営者はしばらく考えていたが、こう言った。
「前向きじゃない人間を全部クビにして、前向きな人間だけで経営が可能だと思いますか?どうでしょう。」
私は回答を持っていなかったので、しばらく黙っていた。
経営者は言った。
「うちの給料を倍にして、誰もが羨むような仕事を提供すれば、前向きな人だけを集めることができるかもしれないですね。でも、現状ではそうも行かない。」
「そうですね」
「私にできるのは、前向きな人を評価し、そうでない人物は評価しない。それだけです。今後は、前向きな人間だけにストレッチ目標を与えることにします。」
「…。」
「まあ、2割も前向きな人間がいれば、そレだけで会社は回りますから。」
と、社長は言った。
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