「前向きなのはいいけど、前向きすぎるのも微妙だよね」と、彼は言う。
聴くところによれば彼のチームのリーダーは前向きで非常にいい人なのだが、前向きすぎて困るのだそうだ。
「前向きすぎるって、どういうこと?」私は彼に聞き返した。
彼は言った。
「うちのリーダー、目標値が高すぎるんだよ。メンバーは皆迷惑してる。」
■
「目標は高い方がいい」とその経営者は言った。
「目標が低ければ、達成しても達成感は得られません。真の成長は一見不可能に見える目標に到達しようとする努力から生まれるのです。私はそうやって会社を経営してきました」
彼は自分の考え方に絶対の自信を持っているようだった。
「高すぎる目標で最初から諦めてしまう人はいませんか?」と私が聞くと、経営者はこう言った。
「諦めさせないようにするのが、管理職の役割でしょう」
■
「社長は高めの目標を出せというし、現場からは「できっこない」と言われるし、本当に困り果てています」と、そのリーダーは言った。
「社長は、あなたがそれを納得させるべきだと言っていますが」
リーダーはつかれた様子で言った。
「社長の気持ちがわからなくもないんです。私がかつてストレッチ目標で伸びたので、皆同じことができると思っているんです。」
「なるほど。」
「私は当時向上心に燃えていました。「前向き」とでもいうのでしょうか。目標が高いことも社長の期待の現れだと思っていました。でも、実際のところはちがいました。そんな人はそう多くありません。普通の人はそんなに前向きではありません。」
「…。」
「自分で言うのもなんですが、「前向きである」というのは一種の才能だと、今では思います。すべての人にそれを求めるのは、マネジメントとしては間違っているように感じます。でも、社長にどうやってそれを納得してもらうか…悩んでます。」
私は聞いた。
「前向きな人は、全体の何割くらいだと感じますか?高い目標を期待の現れだと思うような人は。」
「せいぜい2割じゃないでしょうか。だから、会社は基本的に「前向きではない人のほうが多い」という前提で経営をしたほうが良いと思うのです。でなければ、採用の時点でその2割の人しか採らないようにすべきです。」
「ふーむ。」
「社長への説明を、助けていただけないでしょうか。社長にこの話をすると、おそらく「それを何とかするのがお前の仕事だ」と言われると思います。でも、前向きではない人間を前向きに変えるのはかなりの時間がかかります。」
■
私はその話を経営者に報告した。「前向きな人は2割位だそうです。」
「彼がそう言っているんですか…。」経営者はしばらく考えていたが、こう言った。
「前向きじゃない人間を全部クビにして、前向きな人間だけで経営が可能だと思いますか?どうでしょう。」
私は回答を持っていなかったので、しばらく黙っていた。
経営者は言った。
「うちの給料を倍にして、誰もが羨むような仕事を提供すれば、前向きな人だけを集めることができるかもしれないですね。でも、現状ではそうも行かない。」
「そうですね」
「私にできるのは、前向きな人を評価し、そうでない人物は評価しない。それだけです。今後は、前向きな人間だけにストレッチ目標を与えることにします。」
「…。」
「まあ、2割も前向きな人間がいれば、そレだけで会社は回りますから。」
と、社長は言った。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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(Photo:yummiさん)