3153388446_3fc3c28c22_z私は、夏休みに開かれた同窓会に出席し、古い友人たちと久しぶりの再開を楽しんだ。もう永く会っていない友人たちも多いが、たまにはこういうのもいいものだ。

 

そのうちの一人の仲の良かった友人が、飲みの席で私に言った。

「今、40になろうとしているときに初めて、自分の人生を本気で考えたんだよね。今までの人生は、一体何だったんだろうな。」

 

 

 

彼は、高校の時からよく勉強ができた。彼は他の人にはないものを持っていた。「才能」と言うべきなのだろうか。

数学、語学が特に得意であり、彼に苦手な科目は無かった。だから、学校推薦によりいともたやすく一流大学への切符を手にした。

彼にとってそれは特別な努力を必要とすることではなく、「普通のこと」だったのだ。

 

大学の4年間、彼はトップの成績をさしたる苦労もなくキープし、希望の研究室に入った。傍目から見れば彼はいわゆる「イケてる大学生」だっただろう。勉強だけではなく様々な人脈を作り、サークル、ボランティアと精力的に活動した。

彼はまもなく、研究室の教授とOBの信頼を勝ち取り、就職活動をほとんどすることなく7社の内定を獲得。人気の業界のトップ企業に入社した。

仕事を始めてまもなく、彼は大学時代から付き合っていた彼女と結婚し、子供が生まれ、そして家を買った。大きな一戸建てだ。彼の家に遊びに行くと、そこにはまさに幸せがあった。人生は順風満帆であった。

 

 

 

「そんな羨ましい人生の、どこが不満なんだよ」と私は彼に言った。

彼は言った。「いや、不満ということではないんだが…」

近くの席に座っていた別の友人が、彼をからかうように言った。「俺なんか、留年した上、就職活動も失敗してとんでもない企業に入っちまった。おまえがそんなことを言うのは単なる嫌味だぞ。」

彼は、しばらく黙っていたが、やがてポツリと言った。

「俺は、自分で何一つ選んでこなかったんだよね。」

「どういう意味だ。」

「勉強をやったのも、大学に入ったのも親から言われたからだ。サークルも人に頼まれたからで、自分が特にやりたかったわけじゃない。もちろん就職先もOBからの強い勧めで選んだだけだ。結婚も、家を買ったのも、すべて妻と両親からの勧めだった。」

 

彼は言った。

「自分の生きてきた人生は一本道だった気がする。」

私はそんなことない、と言いかけたが、なぜかそれを言うことができなかった。

「俺は、自分で選択したものを持ちたかった。自分で決めてみたかった。でも、40になって思う。多分それは俺には無理なんだって。そして、思うんだ。それほど稼いでなくても、学歴なんかなくても、「自分で決めてきた」という自信がある人は、幸せそうだ。」

 

 

彼は40で「不惑」どころか、「初めて惑う」事になったのだ。私は彼と再会を約束した。別れ際に彼は言った。

「お前は、自分で決めてきたのか?」

「多分ね。」

と、私は言った。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

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