大学探訪記銀幕スターを通じて、「日本人の戦後意識」の変化を解き明かす。そんな人がここにいます。現在、東京大学大学院博士課程1年 日本学術振興会特別研究員の北村匡平さんです。

 

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彼は「俳優」だった変わり種研究者。異色の経歴の持ち主です。現在33歳、2児の父親、子供が可愛い盛りなのですが、「どうしても研究してみたい」ということが見つかり、決死の覚悟で大学に入り、研究活動にのぞんでいます。

「生活は不安です」とおっしゃっていましたが、彼を突き動かしたものは何だったのでしょうか。

彼が研究者の道を歩むきっかけとなったのは、ある疑問でした。

 

これまでの映画史研究は、監督が中心に論じられてきました。でも、多くの人々は「芸術性」よりも映画スターが出演している大衆娯楽映画を観に行ったのではないのでしょうか?

監督中心の映画史ではなく、映画スターと観客を中心に据えた映画史のほうが、当時の日本人の意識変化をよく理解できるのではないでしょうか?

北村さんは言います。

溝口健二、小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男、鈴木清順、大島渚、今村昌平など「芸術映画」を作ってきた人たちを中心に映画史が記述されていることへの抵抗があります。

 

 

大衆映画の観客を通じて、戦後を理解したい。丸山眞男などの知識人の思想からではなく、大衆の姿から、日本人が何に価値をおいていたのかを知りたい。彼はそう思いました。

思ってしまったんです。仕方ありません。彼は、大学の門をたたきました。

彼の修論のテーマは「映画的身体の歴史社会学」です。

 

 

彼は、「スターと観客中心の映画史」を構築するため、当時の資料を調査しました。調査の中心は映画を紹介する大衆雑誌です。

といっても、雑誌は多数あります。彼は調査対象の雑誌を選定することにしました。

 

まず、かつてインテリたちが批評を書く評論誌系の雑誌であった『キネマ旬報』と『映画評論』は避けました。名のある評論家の話はたくさん書いてありますが、当時の人々の感覚からは乖離していると考えたからです。

 

その代わりに発行部数が多く、当時の人々が数多く読んでいたと思われるファン雑誌に着目しました。『近代映画』『映画ファン』『平凡』といったスターのイメージを扱った大衆紙です。

彼はその中にある映画スターのファン投票を調査します。

 

すると、戦後の2人の偉大な映画スターの姿が浮かび上がってきました。

「原節子」と、「若尾文子」です。

終戦直後から1955年までは原節子が、1955年を境に若尾文子が圧倒的に人気のある女優だったのです。

 

彼は疑問に思いました。「彼女がなぜそこまで人気になったのだろう?」そしてなぜ、1955年を境に当時「どこにでもいるような平凡な女優」と評されていた若尾文子が人気を博したのだろう?

それは大きな謎でした。

 

 

そこで彼は「女優の持つイメージ」に着目します。

原節子の持つイメージは、「理智的な淑女」といったもの。映画においてはキスシーンを始めとするセクシャルな描写を一切行わず、雑誌においては家で一人読書をするイメージを築き上げるなど、当時の混乱した世間とは程遠い「現実感のない、理想的な新しい女性のイメージ」を作り上げました。

それに対し、若尾文子のイメージは「親近感があり庶民的」といったもの。「どこにでもいるような人」とみなされていました。

 

彼は当時の政治的、文化的、経済的背景を踏まえ、こう言いました。

この二人のスター女優のスターイメージを価値づける批評家、映画ファンの言葉を見ていくと、戦後の混沌とした占領期から日本が消費社会に突入していく時代の変化、そしてスクリーンに求める観客のイメージの変遷を見ることができます。

2人のトップ女優は、戦後の混沌とした占領期から日本が豊かになっていく時代の流れを象徴していたのです。

北村さんがこのテーマでスター女優を分析した修士論文は、専攻長賞(優秀修士論文)を受賞しています。

 

 

北村さんは現在、博士課程で引き続き、映画史に関する研究活動を行っています。

彼はこう言いました。

次は、イングリッド・バーグマンなどのアメリカのスター俳優が「日本人観客」にどう見られていたか、と「アメリカ人観客」にどう見られていたかを比較したい。

その受容のちがいを明らかにすることによって、さらに日本人の戦後意識がアメリカとの比較の中で明らかになるはず

 

北村さん、大変興味深いお話を、ありがとうございました。

 

なお、北村さんは現在、月1回映画批評の連載をしていらっしゃいます。

「創造的映画のポイエティーク」(文学金魚)

また、北村さんの研究にご興味がある方は、リサーチマップというサイトにまとめがありますので、そちらをご参考いただけると良いと思います。

リサーチマップ(北村匡平)

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(2026/2/9更新)

 

 

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