先日、旧友と久しぶりに再会した。彼は外資系の製造業に就職をしたのだが、学生時代と変わらず、ストイックな人間であった。同じ業界の幾つかの会社を経て、彼は現在、管理職となっており、ひとつの部門を率いている。

「管理職は大変では?」と聞くと、彼は「重要なことが分かるまでは大変だった」と言った。

私は「重要なこと?」と聞くと、彼は話をしてくれた。

 

聞けば彼は数年前、管理職に昇進を果たしたのだが、初年度の成果は惨憺たるものであったそうだ。その原因は「部下との関係」であった。

基本的に彼は学生の時から完璧を期す人間であった。ミスを極力減らし、成果をあげるため努力する。彼が今の地位にあるのは、ひとえにその賜である。

だが、彼は自分に厳しいだけではない。人にもそれを求める人間であった。当然、部下にもそれを求めたのだろう。自らを律し、成果に対して真摯に向かい合うことを部下にも要求した。

彼は「厳しい管理職」としてその事業部では有名だったそうだ。

 

そしてそれに拍車をかけたのが、その頃ちょうど会社から参加を要求された「管理職向け研修」だった。彼はそこで「上司は嫌われることを恐れてはいけない」と学んだ。

「嫌われてもいいのだ」

彼は、そう解釈した。彼は「自分のマネジメントは間違っていない」との確信に至った。

 

彼は部下にますます遠慮無く発言するようになった。だが、部署の成果はそれに反比例するように落ちつづけた。さらに退職者や異動願いが続出し、彼の立場は危ういものとなった。

 

それを見かねた彼の上司は、彼を呼び出し、こう聞いた。

「なぜ部下にあのようにキツく当たるのか。」

彼は答えた。

「成果を出すためには仕方ありません。」

「部下たちが君のことをなんと言っているか知っているかね。」

「なんと言われようが、やるべきことをやっているだけです。私は嫌われることを恐れません。」

上司は言った。

「ふーむ、君は勘違いしているようだ。嫌われることを恐れないことと、嫌われてしまうことは、似ているようでまったく別物なのだよ。」

「どういうことでしょう?」

「上司は嫌われることを恐れてはいけない、が嫌われてはいけない。」

「…よくわかりません」

「いいか、上司は部下に好かれる必要はないが、嫌われてはいけないのだよ。ただ、マネジメントが未熟な上司は「部下に嫌われてはいけない」と言われると、部下に媚びたり、必要以上に甘やかしたりする上司がいる。」

「私にどうしろと」

「いいか、君に必要なのは、部下に対する愛情だ。部署の成果をあげることと同じくらい、彼らの成長に責任を感じ、仕事をどうしたら楽しめるか、真剣に考えなくてはならない。

部下は上司から愛情を受けていると知れば、多少の厳しい意見を受け取る用意ができるが、そうでなければ、部下は上司を信用しなくなり、離れていくだけだ。

「厳しくしたら、部下が離れていく」というのは、君の利己的な部分が見ぬかれている、ということに他ならない。」

 

 

彼は言った。

「いやまったく、目が覚めたよ。確かに自分は自分の満足や名誉のために人に厳しくしていた。それを教えてくれた上司には、感謝している。あれが、嫌われることを恐れてはいけない、ということなんだな。」

私も頷いた。

 

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