「本が好き」というのはスキルだよね、と研究者の友人は言う。「しゃべりがうまい、とか、聞き上手とか同じでさ。」
「なぜ?」と私は聞く。
「なぜって、生まれつき本が読める人はいないし、訓練しないと本は好きになれない。」
「本好きが訓練の結果というのは本当?」
彼は言った。
「本が普通の人に行き渡ったのは、所詮ここ数百年。本能では本は読めない。テレビや音楽に比べて文字を読むことは精神的に負荷のかかる嗜みだ。あえてそれをするのは、…そうだな、納豆を食べるとか、くさやを食べるとか、ブルーチーズとか「臭い食べ物」をあえて食べる行為に似ているんじゃないかな」
「どうして?」
「臭い食べ物は、訓練、慣れによってそれを味わえるようになるからだよ。はじめは臭くて食べられない。でも慣れると無性に食べたくなる。本も同じだよ。」
「そんなもんかね」
「そうだよ。本を読まない人が増えてるのは、もっと口当たりのいいゲームや動画などが増えたからじゃないかな。ワザワザ臭いものは要らないよ、って。」
「なるほどね、それじゃ、意見を聞きたいんだけど、本を読まない人は、読めるようになったほうがいいかな?」
「納豆を食べなくても生きていけるよ。」
「そりゃそうだ」
「読む人は、好奇心が文字を追いかける面倒臭さを上回るひとだから、ま、嗜好品だよね。」
「なんで、「本を読め」というひとが多いのかね」
「カンタンだよ。単位時間あたりに触れることのできる知識量が、他の媒体に比べて多いからだよ。」
「音楽や動画などは、感情や雰囲気を伝えることには長けていても、知識を伝えることは文字のほうが有利だ。我慢しさえすれば、本は一番効率よく知識に触れることができる。」
「ふーん、そんなもんかね。」
と私はつぶやいた。
本が好きな人は、確かに文字を追いかけるのが好きな人が多い。速読できる人は文字を画像として認識できるという話を聞いたことがあるが、そのような人は極めて知識の吸収効率が良いのだろう。
「文字から情報を労せずして吸収できる」と言うのは、たしかにスキルかもしれない。
私は何気なく聞いた。
「本が好きな人って、なんで好きになったんだろうね」
友人は言った。
「本好きを作る秘訣は、まず子供の頃の読み聞かせだ。親が本を読み聞かせてくれた子供は、「本をひらくと面白い体験ができる」という体験を刷り込まれたわけだ。それはある意味訓練だろう?」
「そうかもしれない」
「文字は訓練によって読むことができるようになる。面白い本はその訓練を受けたいと思う強い動機になるわけだ。」
「本が嫌いな人も、文字は読めるのでは?」
「もちろん文字は学校で習う。ただ、本を通じて憶えた人と、学校の教室で習ったのとでは動機付けに差がある」
「大人になってからは?」
彼はじろりと私を見ていった。
「ブルーチーズが嫌いな人に、それを食べさせろと?」
「まあ無理か。」
「個人的には、あんな美味しいものを食べずに一生を終えるのは勿体無いとしか言いようがないが、それを乗り越えようと思うかどうかは、結局本人の「知りたい」「体験したい」という強い動機からしか生まれない。でも、好奇心のない人は、自分の知っている世界だけで十分なんだよ。」
「そんなもんか」
「まあ、牡蠣が嫌いだった人が、「本当に新鮮で美味しい牡蠣」を食べて、そこから牡蠣を好きになった、という話はよく聞くけど、同じじゃないかな。「本当に面白い本」に巡りあえば変わるかもね。」
私は「本が好き」がスキルだったら、「納豆好き」もスキルなのだろうか、と考えながら帰途についた。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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(Photo:Julie Falk)