近所の肉屋さんでのことだ。そのお店は新鮮で上等な肉が手に入るのでいつも人気の店で、いつもそれなりに人がいる。
母親と思しき人が、赤ん坊の離乳食のために鶏肉を30グラム買おうとしているのを見かけた。が、店の人は忙しかったのか、100グラム以上じゃないと計れないから、という理由で断った。
「なんとかなりませんか」とその方は言っていたが、店の人は「ダメです」の一点張り。結局鶏肉は買われなかった。
あるレストランがある。子連れに優しく、入りやすいと評判のお店だった。
だが、赤ん坊に寛大だったお店が最近「お子様ランチ」やデザートを強く勧めるようになった。ただ、お子様ランチは量が多く、子供にはすこし大きすぎる。
「量が多すぎるので、子供が食べきれない。母親の料理をわけて食べる」という選択をしたところ、お店の人にかなり嫌がられた。
子供が小さい時に随分とお世話になったので、飲み物を追加でオーダーしたということだったが「最近は行きづらい」と知人は言う。
これらの話を人にすると、2つの反応がある
ひとつは「お店の対応が悪い」と怒る人たち。彼らは感情的だ。「自分が利用したいと思うかどうか」という観点で物を見る。
もうひとつは「いちいち小口の注文に対応したり、子供が席を埋めているのに注文しないというのは非常識な行動だから、客が悪い」とする人たちだ。
彼らは合理的だ。マーケティング的観点からすれば、 店はたとえ常連であっても利益を生まない客に対して例外対応は必要ない。利益の源泉としての上客だけに特別な扱いをするのが合理的、それが「顧客の選別」だ。
(参考:中小企業庁 顧客から選ばれると同時に顧客を選ぶことも必要http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h17/hakusho/html/17214140.html)
だから、経営者は常に「利用者の感情」と「経営の合理性」の間で悩むことになる。
だが、企業は常に合理的でなければならない、というわけでもない。少し前の記事だが、以下は、cafe moyauという岡山にあるカフェの店主が書いたものだ。
とても長い時間、お店におられる方をしばしば見かける。先日も昼過ぎに来られて昼飯を食べ、おやつの時間にお茶を飲み、夜になったら夕飯を食べ、それからもしばらく滞在して帰っていかれたお客さんがいた。それはかなり特殊な例ではあるけれど、何時間も何時間も過ごされる方はしばしば見かける。
多くの場合、そういうお客さんは会計の際に「長々とすいませんでした」というようなことをおっしゃる。
どういった気持ちで言われているのかはよくわからないのだけど、そういう方にとても言いたいけどなかなか面と向かっているときには言えないことがある。それは「こんなに長くいてくださって本当に本当に本当にありがとうございます。ものすごいうれしいです。もうなんかお客さんがどんな人かは全然知らないですけど僕たちはあなたが大好きですといっても過言ではありません」ということだ。
(中略)
今日これを書いたのは、「450円で3時間粘るとかちょっと申し訳ないなあ」みたいに思われている方が少なからずおられるんじゃないかと思ったからだ。
長居ということに対して僕たちがどう考えているのかを知ってもらいたかったからだ。客単価とか回転率とかライフタイムバリューとか、そういう軸じゃない喜びが店側にあるということを知ってもらいたかったからだ。
あなたが心地よく過ごせば過ごすほど僕たちは超ハッピーなんです、ということを一度書いておきたかったからだ。(http://www.cafe-moyau.com/13/)
もちろん、これは店主の「やせ我慢」なのかもしれない。そんな店の優しさにつけ込んでくる人もいるだろう。「悪い客」に主人は実は困っているのかもしれない。
だが、商売として言っていることは合理的ではなくとも、「儲かるかどうかじゃない」という美意識に惹かれる部分があることも事実だ。
「神対応」というネットスラングがある。クレーム等に対して「意外で」「秀逸な」対応を見せた企業や芸能人に対する賞賛をおくる言葉だ。
状態は悪化する可能性があったため、同社は少しでも事態の改善をすべく、対策を続けた。Twitterに関しては、すべての苦情に関するTweetに返信。その数は数万にも及んだ。また、足止めされた乗客たちが空腹を訴えはじめると、ロサンゼルス国際空港へただちに従業員を派遣。飢えを癒やすためのピザを配らせた。
この取り組みは、崩壊する可能性もあったサウスウエスト航空ブランドの危機的な状況を救い、逆に賞賛された。ケガの功名ともいえる同社のソーシャル対応は、多くの利用者から感謝され、結果的にTwitter上には同社に対するポジティブな投稿が寄せられたのだ。
「マニュアル対応」は批判されがちだが、「一見合理的でない」神対応は人を惹きつける。そしてそれを生み出すのは企業文化と経営者の人格だ。
実際、私の知る多くの「いい人」は
「小口は対応しません」
「単価の低いお客さんは出て行って下さい」
という店の都合を理解しつつも、「長居していいですよ」というお店を愛するだろう。そしてそのお礼として、お店が経営難にならないように、できるだけそこでお金を使おうとするにちがいない。
繰り返すが、我々は「美意識に惹かれる」のだ。
効率は大事だが、「効率が良すぎる企業」に我々は退屈さを感じる。
賞賛され、愛される企業は「儲からなさそうなこと」もやりつつ、しっかりと合理的に利益を出している企業であり、「儲けや効率ばかりを追求してはならない」のはキレイ事ではなく、人がどのような存在であるかを知っていれば、当然のことだ。
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