先日、とあるベンチャー企業の飲み会に参加させていただいた。隣は20代後半の営業パーソンで、その前は彼の上司が座っていた。
若手営業パーソンは、仕事の悩みを話し始めた。
トップセールスから全く売れない営業パーソンへ
以前は大手企業に勤めており、トップセールスとしてガンガン商品を売っていた。毎年の目標も当たり前のように達成していた。
しかし、今の企業に転職してから、全く売れなくなってしまったという。
前職と扱っているサービスはほぼ同じ。変わったのは大手企業のブランドが外れたことと、攻めるマーケットが東京から全国へと変わったことだった。
名もなきベンチャーに入るからにはそれなりに苦労すると覚悟していたものの、ここまで売れないのは予想外だった。
彼は、転職して初めて自分の力量を客観視することができた。
これまでモノが売れていたのは自分の営業力のおかげではなく、会社のブランド力と東京というマーケットのおかげだった。この事実に気づけたのは、とても良い経験だったと語ってくれた。
「目の前の仕事を頑張れって、よく意味がわからないです」
「だから今、ものすごく頑張ってるんですよ。でも、全然売れないんです。何でなのでしょうか・・・。よく、目の前の仕事を頑張れって、言うじゃないですか。あれの意味が、わからないんです。」
すると、彼の上司がこんな質問を投げかけた。
「一番好きなお客さんはいる?」
「います。〇〇会社です。今、自分がメインで担当させていただいてます。」
「ふーん。で、そのお客さんの課題は何なの?」
「 課題ですか?えっと・・・売上アップだと思います。」
「具体的には?」
「・・・そこのお客さんの商品は◯◯なんですけど、市場自体が衰退しているんです。斜陽産業なので、売上が上がらなくて困っているんだと思います・・・。」
「 あ、そう。で、その斜陽産業の中でお客さんはどうしていきたいって言ってるの?」
「・・・。」
「てかさ、一番好きなお客さんのことなのに、なんですぐ答えられないの?」
「・・・お客さんのこと、考えてないからですかね。」
「なんで考えないの?」
「 ・・・(かなり長い沈黙)つまり、お客さんのことを好きじゃないってことなのでしょうか。」
頑張っているのに成果が出ない人の共通点
そのあと彼は顔面蒼白になり、黙り込んでしまった。
字面だけ見れば冷たいやり取りのように見えるが、上司は、営業パーソンとして絶対的に重要な姿勢を伝えようとしていた。
私はこの若手営業パーソンを個人的に知っているが、彼はお客さんのことを好きじゃないわけでは決してない。お客さんの役に立ちたいという気持ちを持ち合わせているし、いつだって一所懸命頑張っている。
ただ「頑張っているけど成果が出ない」人というのは、たいてい頑張る方向が間違っているか、頑張っていると満足するレベルが相対的に低い。他の人が見えないところで100努力しているのを知らずして、20やって頑張ったと満足してしまう。
そして、この両方に当てはまる人もいる。
例えば彼の場合、ある点において頑張る方向性が明らかに間違っていた。
彼はお客さんのところに足繁く通う。商談の場では、自分の持っている最新の知識を伝える。自分が良いと思った商品は、他社のサービスでも積極的に勧める。
一見すばらしい行動に見えるが、果たしてお客さんは本当にその情報を欲しているのだろうか。
彼は「自分はこれが良いと思います」と言う。主語は常に「自分」であり、「自分」が良いと思う情報を一所懸命かき集める。
つまり、「お客さんが喜ぶことは何か」「お客さんが悩んでいることは何か」という視点が欠けているのだ。これは営業として致命的である。
そして、この顧客の立場から考える視点の欠如が、「頑張った」と満足するレベルを引き下げてしまっている。
頑張ったかどうかの判断はあくまで「自分」軸のため、知識を披露した時点で満足してしまう。「自分」はよく調べた、「自分」はうまくプレゼンができた、と。
上司からのアドバイス
顔面蒼白の彼に対し、上司はさらに質問を続けた。
「〇〇さん、自分がモテると思ってるでしょ。」
「え?モテるって・・・異性からですか?」
「うん、そう。カッコよくて面白くて、俺モテるって思ってるでしょ。」
「・・・そうっすね(笑)。」
「でも、実際は落とせていないよな(笑)。営業として成功したいなら、まずはどうやったら女性にモテるか考えてみろ。」
このやりとりを聞いてちょっと強引だとは思ったが、的を得ていると思った。
「俺すごいだろ」と自慢話ばかりしてくる人よりも、「◯◯さんは何が好きなの?趣味は?」と自分に興味を持って聞いてきてくれる人の方がよっぽど魅力的だ。
恋愛で考えれば簡単なことも、営業となると途端に相手の口説き方を勘違いしてしまう。
「自分はそんなことはない」と言う人でも、商談に同行させてもらうと、ろくに相手の話も聞かず、自分や自社商品をアピールすることに終始する人が本当に多い。
売れない営業パーソンの多くは、営業は自分をアピールしてなんぼ、と無意識に思ってしまっている。しかし、大抵の場合それは逆効果である。
まとめ
この上司が若手営業マンに伝えたかったこと。それは、「目の前の仕事を一所懸命がんばる」とは「目の前の人を喜ばせるために、ひたすら考え行動すること」なのではないだろうか。
これまで多くのビジネスパーソンを見てきたが、自分視点の人が相手視点に変わるのは、相当な年月と努力を必要とする。なぜなら、自分視点の人の多くが、相手視点が欠けていることを自覚していないからだ。
自分の課題を認識していなければ、改善することは難しい。
二人のやりとりを見て、改めて自分は相手視点から物事を考えられているか、自省した。
さて、あなたはどうだろうか。
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−筆者−
大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールに渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。
個人ブログ:U to GO