新卒採用をする会社であれば、ほとんどの会社で「新入社員研修」を行うだろう。そして、その中で新人達に教えているのは、ほとんどが以下のようなことである。

  • ビジネスマナー
  • 電話の受けかた
  • 社会人の心構え
  • 会社の就業ルール(経費精算、勤怠など)
  • 人事考課のルール
  • 会社の各種システムの操作方法

確かに、これはこれらで需要があるのだろう。会社で生きていく上で、大事なことではある。

 

だが、個人的な体験では、15年経った今も覚えているのか、といえばほとんどの内容を覚えていない。

「電話の取り方」という研修において、研修の講師がなんだか意地悪だったな、という記憶が少々あるくらいだ。

 

「すぐ役立つ知識は、すぐ役に立たなくなる」という言葉の通りなのだろう。だが、そんな中でも今でも覚えている体験が、一つある。

 

 

 

新人研修はカリキュラムによって場所が異なった。大抵はオフィスビルの一室や、ホテルの会議室などだったが、一回だけ「公園に集合」という回があった。

 

講師(本国から来たアメリカ人だったように記憶している)は広場に我々を集めると、チームの30名位を横一列に整列させ、「目隠し」をするように言った。皆が指示に従うと、講師は言った。

「では、今から皆さん横の人と手を繋いで下さい。」

同期とはいえ、ほとんど知らない人たちと手をつなぐのは照れくさいが、とにかく皆そうした。そして、講師は次のように課題を出した。

 

「いまから一人だけ目隠しを取ります。その人はリーダーです。皆さんはリーダーの指示に従って、全員で正方形の形になるように並んで下さい。ただし、目隠しをしたまま、お互いの手を離してはいけません。

完成までのタイムを他のチームと競争します。なお、制限時間は一〇分です。」

我々は「他チームの記録」を伝えられた。正確には覚えていないが、皆「それくらいなら余裕」と思ったのではないだろうか。

 

だが、実際にそれが始まると、そんな楽観的な予測はどこかへ行ってしまった。

リーダーは、「まっすぐ!」や「そこの人は止まって下さい!」などと叫ぶのだが、我々は手をつないでいるので、あちらこちらに引っ張られ、止まることもできない。

かといえば、隣の人が動かず、動きたいの動けなかったりもする。そもそも全体の形がどうなっているのか検討もつかない。リーダーの怒号だけが公園内に響き、制限時間が経過した。

 

講師は「目隠しを取って下さい」と言った。全員が目を開けた。見れば、酷い有様だった。直線だと思っていた人のつながりは歪み、長方形やひし形ですらない。正方形と言うにはあまりにもお粗末な、ヘンに歪んだ単なる輪だった。

 

 

講師は、皆を集めてフィードバックをした。彼女の第一声は

「皆さん、わかりましたか。これが会社、これがプロジェクトです。」

 

 

趣旨は以下のようなものだったと記憶している。

 

「社員やメンバーは目隠しをされたようなもの。リーダーが全体像を把握し、個別の人に的確な指示を出さなければ、簡単な正方形を作ることすらできない。

そんな混乱状態の中では、メンバーは無力感を感じるだけである。リーダーシップとは、目標を示すだけではなく、具体的な道筋や指示を与えなければ発揮されないものだ。

 

さらに、メンバーは自分だけでは動けない。彼らは全体の中で、自分がどのように動けばよいかを知りたがっている。いくらリーダーが「動け」といっても、勝手に動ける存在ではない。

 

また、メンバーも積極的に自分の状況をリーダーに知らせる必要がある。そうでなければリーダーは指示を出せない。声を上げ、報告を行うことで、組織は目標を達成することができる。」

 

 

実際、成功するチームは、以下のことをする。

 

1.リーダーが点呼をとるなどして、チームの中での自分の役割を把握させる

―4番の人、動かないで! 10番と、20番、30番の人は正方形の頂点! などの指示が出せるようになる。

 

2.リーダーとのコミュニケーションルールを作る

―リーダーに声をかけるための手続き(例えばジャンプするなど)を作ることで、指揮系統の混乱を防ぐ

 

3.目標に至るまでの道筋を明らかにする

―正方形の頂点さえしっかり決めてしまえば、最初に動くのは4人だけで良いはずである。これがマネジャー。あとはマネジャーに従ってメンバーが動くだけで問題なく事は進む。

 

 

 

15年たった今も、あの公園で起こったことは鮮明に覚えている。

すぐには役に立つものではなかった。しかしこれが「リーダーシップと、フォロワーシップに関する真に役立つ知識の1つ」となったことは間違いない。

ほんとうに良い研修とは、そのようなものだろう。

 

 

 

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(Kannan B)