Books&Appsの安達が「会社と、そこで働く人のマネジメント」を紹介する連載企画。
前編は、日本橋のビル内に持ち込まれた「芋屋金次郎」の工場を見学し、その商品と製造工程を紹介した。
前回【日本橋のビル内に丸ごと「工場」を持ち込んでしまった、ある会社の話。【芋屋金次郎・前編】】
後編は高知の本社工場にて創業と工場のマネジメントについて詳しく話を伺う。
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芋けんぴとは
芋けんぴはさつま芋が主原料の揚げ菓子です。だからこそ、芋がものいう。芋屋金次郎はその芋のうまさと品種、栽培方法にこだわります。
けんぴになる芋はコガネセンガンという白芋。油との相性がとてもいい芋で、今のところ、このコガネセンガンに勝る品種はありません。この芋のうまさがそのまま、芋屋金次郎の芋けんぴになります。(芋屋金次郎オンラインショップ)
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担当の広末さんから、高知の工場を見せていただけるということで高知へ飛ぶと、空港では坂本龍馬が出迎えてくれた。
日高村はここからクルマで1時間程度のところにあるが、鉄道はない。そこで澁谷食品さんの事情に詳しい「近藤さん」に迎えに来ていただいた。
近藤誠人さん
今回取材する澁谷食品のとなり町、高知県佐川町育ちの土佐っ子。「いやー、根性営業はヤバイすわ~」が口癖。
安達 「こんにちは。今日はよろしくおねがいします。」
近藤 「よろしく。じゃ、行きましょか。」
高知市内を抜け……
トンネルをくぐり……
日高村の澁谷食品さんに到着した。
迎えていただいた広末さんに工場まで案内していただく。敷地は広く、奥に円筒形の建物が見える。
安達 「あれは何ですか?」
広末 「研修生たちが寝泊まりしています。通称「丸ビル」です。」
安達 「丸ビル。」
広末 「先代社長が自分でブロックを積んで作ったらしいです。」
近藤 「こんにちは〜、工場見学に来ました!」
安達 「こんにちは。」
近藤 「工場長、今日はよろしくおねがいします!」
工場長 「今日はゆっくり見てって下さい。」
福田工場長(左)
澁谷食品の辣腕工場長。60人ひとりひとりの従業員と半年に1回は面談する。
広末敦士さん(右)
澁谷食品に新卒で入社し、現在7年目、直営ブランド「芋屋金次郎」の店舗管理マネジャー。広末涼子さんの従兄弟らしい。
工場長 「じゃ、全員これを着てもらえますか。頭にも被って下さい。」
安達 「……これは……。」
工場長 「食品工場ですから、衛生が第一です。」
(写真左は安達)
工場長 「着替えましたね?帽子も完璧ですか?」
安達 「はい。」
工場長 「じゃあ、これから工場に入りますが、手を洗って、エアシャワーを浴びます。除菌用のアルコールは、手を完全に乾かしてからです。水に濡れていると、意味が無いですよ。」
安達 「わかりました。」
工場長 「じゃあ、こちらでエアシャワーです。」
小部屋に入ると、左右から強烈な風が吹き付けます。毛髪などの異物をこれで吹き飛ばします。
工場長 「では、中へどうぞ」
安達 「お邪魔します」
安達 「広いですねー、奥のコンベアが芋けんぴですか?」
工場長 「そうです。熱を冷まして、選別して、包装する工程です。コンベアの先の方で、包装しています。」
工場長 「これが素揚げした状態の芋けんぴです。これからもう一度揚げて、蜜をつけて乾燥させたら完成です。」
安達 「芋を切る工程は無いのですか?」
広末 「今の時期はないですね。」
安達 「時期……?」
広末 「芋の収穫時期は、例年8月末から11月くらいです。収穫した後は鮮度が良いうちに切って、素揚げしてしまうんです。それを少しずつ使っています。」
安達 「その時期しか芋を切る工程は見れないのですか?」
広末 「そうです。新芋の季節は、芋に水分が多いので、芋の香りが強いけんぴになります。好き嫌いが分かれるところですね。好きな人は「この季節のがいい」と指定買いします。」
安達 「なるほどー。太さなども重要なんですか?」
広末 「太さはよく話題になりますね。芋の具合によって、数ミリ単位で調節します。」
安達 「数ミリですか、繊細ですね。」
広末 「太さで、かなり違うものなんですよ。」
工場長 「このコンベアを行くと、フライヤーがあって、そこで揚げの工程があります。」
安達 「なんというか……すごい光景ですね……。」
工場長 「下に、蜜漬けの工程がありますのでそこに行きましょう」
安達 「恐ろしい速さでけんぴが流れてますね。」
工場長 「数トン単位で生産するときは、このラインをつかいます。百キロ単位では、手揚げのほうが無駄がなくていいですね。基本的に日本橋の設備と同じですよ。」
安達「なるほど、日本橋の店舗はこれをそのまま持ち込んだんですね。」
工場長 「そうです。そして、ここから乾燥の工程に移ります。」
工場長 「ちょっと食べてみます?」
安達 「いいんですか、ぜひ!」
安達 「おお、かなりいいですね。」
工場長 「でしょう、これを食べると芋けんぴのイメージ変わりますよね。ウチのは、本当に芋の味がして、カリッと、さくっと、胸焼けがしない、っていうこだわりがあります。この揚げたての芋けんぴをを東京の人に食べてもらいたい、と思って日本橋の店舗を作ったんです。」
安達 「なるほど。確かにイメージ変わりました。」
安達 「さっきから不思議だったんですが、なんで、芋屋金次郎という名前なんですか?」
広末 「創業者が、澁谷金次郎という名前だからですよ。創業者が、家計の足しにと桂浜でお菓子を売っていたのが始まりです。」
広末 「豪快で、情に篤い先代だったらしく、家に呼ばれると、バケツいっぱいの牡蠣を出されて、食え食え言われたらしいです。あの工場の脇の家が、先代の家ですよ」
安達 「自宅の裏が工場なんですね。まさに家業がおおきくなった、という感じですね。」
広末 「一回このあたり全部、台風で水没しましてね。先代も事業を諦めかけたらしいです。でもその時、従業員から「続けていきましょう」と言われて、初めて先代が人前で泣いた、という話が伝わってます。」
安達 「慕われていたんですね。」
広末 「そうなんです。今でも先代のことは鹿児島のさつまいも農家さんと話すと、よく話題になります。」
安達 「地元では有名人だったのではないですか?」
広末 「いろんなことやってましたからね。昔は観光農園などもやってたんです。ビニールハウスを立てて、パパイヤなんかをつくってました。昔の写真がありますよ」
安達 「この一角だけ別世界ですね……。日高村に突然南国。」
広末 「実はここ、ウォータースライダーつきのプールまであったんです。(笑)」
安達 「いろいろとやりたい放題ですね。」
広末 「バスもありました」
安達 「楽しい夢あふれる遊パラダイス……。」
広末 「色々やったので、今の社長が継いだ時には結構な負債があったそうです。」
安達 「起業家って、変わり者が多いといいますけど、本当なんですね。(笑)」
広末 「結局、根本に立ちかえると「やっぱり芋けんぴは「揚げたて」がおいしい」ということになります。ただ、それは卸売だけでは難しいので、小売をやらなくてはと、業態を整理して芋屋金次郎を立ち上げました。」
安達 「どのくらいの人が澁谷食品で働いているんですか?」
工場長 「正社員だけで200名位ですかね。7割が女性です」
安達 「どんなふうに働いているか、お話を伺えますか?」
工場長 「いいですよ。では、呼びますね。」
安岡みどりさん(左)
入社8年目、選別班のリーダー。職人気質で旅行好きな女性。
横畠優衣さん(右)
入社2年目。現在選別班で腕を磨いている最中。「コンベア酔い」が苦手。
安達 「すいません横畠さん、「コンベア酔い」って、ナンですか?」
横畠 「コンベアをずっと見ていると、人によっては気分が悪くなるんです。私にも得意なコンベアと、苦手なコンベアがあって、気分が悪くなった時は、リーダーに言って少し休ませてもらっています。」
安達 「厳しい仕事みたいですね。」
横畠 「はい、先輩に叱られながらやってます。(笑)」
安達 「思い出に残っていることがあると聞きましたが」
横畠 「新人研修で皆でさつまいもを苗から育てたことですね。ヨコに苗を植えるとたくさん芋ができて、タテに苗を植えると、大きい芋ができるんですよ。自分たちで扱う芋が、どうやってできるのか知ったことは、かなり勉強になりました。」
安達 「安岡さん、やはり選別は難しいですか?。」
安岡 「そうですね、選り分けのスピードが求められるので、慣れが必要です。」
安達 「どんなものを選り分けるのですか?」
安岡 「ひげ根や、成り口という芋の両端、あとは色の黒ずんだものとか、そういったものですね」
安達 「このスピードで選別できるのは、職人芸ですね。」
安岡 「はい、「ここで終わり」というのがない仕事なので、突き詰める甲斐があります。中には15年、18年やっておられるベテランの方もいるので、私もまだまだ、と思います。」
広末 「ウチは工場のラインも手作りなんですよ。設計、配管も自前ですし、コンベアーやけんぴを揚げる油槽なんかも、全て裏の鉄工所で作っています。」
安達 「鉄工所を自社所有しているんですか。」
広末 「そうです。見に行きましょう。」
広末 「こんにちは〜」
鉄工所の人 「おう!何だ?」
広末 「鉄工所を見せてもらおうと思いまして……」
鉄工所の人 「なんだか照れるなオイ。」
広末 「うちの会社の男性は、社長も含めて、皆溶接できます。女性でも免許持っている人いますよ。」
安達 「工場まで、自作なんですね。」
広末 「生菓子を扱うパティシエの方もいますよ。向かいの店舗にいます。例の観光農園の跡地なんですが、行ってみましょう。」
安達 「はい。」
広末 「ここです。中で生菓子なども販売してます」
安達 「キレイですね。かつてパイナップルが栽培されていた場所とは思えないですね。」
広末 「裏に回って、上に上がりましょう」
広末 「パティシエの丹栞さんです。」
安達 「こんにちは。」
丹 「こんにちは。」
丹栞さん
入社8年目、生菓子などをパティシエとして担当。趣味はパン屋巡り。
安達 「たん、しおりさん、というんですね。」
丹 「そうです。」
安達 「どんな仕事をなさっているのですか?」
丹 「下の店舗で扱うお菓子を作っています。大体、1日に数百個はつくります。他に、新しいレシピを考えたり、改良したり。」
安達 「こんなことを聴くのはなんですが、やっぱり、ケーキやお菓子が好きで、パティシエになったのですか?」
丹 「もちろんケーキも好きなんですが、私どちらかと言えばケーキよりパンが大好きなんです。」
広末 「……。ええと。」
安達 「……で、では、高知でお薦めのパン屋さんを教えていただけませんか?」
丹 「まず「スリール」はクロワッサンとバゲットがおいしいです。それから、パウンドケーキがおいしい「はるの」。あとは亀の形をしたメロンパン「カメロン」がある「チムニー」もいいですね。
あとは……そういえばケーキがおいしいのは「モンゴモンゴ」です。タルトもいいですよ!あとは……DONQ出身の方がやっている「ファンベック」も捨てがたいです……。」
安達 「丹さん、ありがとうございました。」
広末 「では、工場に戻りましょう」
安達 「パンの話が一番楽しそうでしたね。」
安達 「工場の運営で気をつけてマネジメントされていることなど、あるのですか?」
工場長 「そうですね、やはり従業員一人一人の話をよく聴く、ということはかなり意識しています。」
安達 「話を聴く、ですか。」
工場長 「課長以上になると、結局スキルや知識などの能力的な部分よりも、人としての魅力がないとダメだと思うんです。なので工場長就任以来、年二回、工場で働いている60人全員から、キチンと話を聴くことにしています。」
安達 「それにしても、60人全員とはすごいですね。」
工場長 「初めて面談をした時、中には「2年近く、言いたいことが言えずにずっと我慢してました」って、涙ながらに話す方もいて、「ああ、きちんと聞かなきゃダメだな」って思ったんです。もう一つは、すべての仕事の基本として挨拶を大事にしています。」
工場長 「この看板にも書いてますが、挨拶は報告や、職場の雰囲気、モチベーションなどに大きな影響があります。でも恥ずかしながら、私が工場に来た頃、あいさつしない人がたくさんいたんですよ。
もちろんあいさつは強制ではないです。個性や生まれ育った環境がありますから。でもせめて全体の7割の人には受け入れてもらいたいと思いました。」
安達 「7割、というのは面白いですね。」
工場長 「いろいろな人がいるので、全員は無理です。でも半分では少し寂しい。全体に無理なく行き渡るのは7割位だと思います。」
安達 「具体的にどんなことをされたのですか?」
工場長 「こういうのは、強制してもダメなんです。率先垂範です。だから私は毎朝最初に来て、入り口のところにずっと立って、全員にあいさつしました。」
安達 「毎朝ですか?」
工場長 「毎朝です。そうしたら、殆どの人は返してくれるようになりました。一人の人が変わるのに、4、5年はかかることもありますね。強制したくないので、本当に辛抱強くやらなくてはいけないと思います。」
安達 「「強制しないマネジメント」は、本当に大変なんですね。」
工場長 「近道はないですから。」
今回、芋屋金次郎を訪ねてわかったのは、「芋けんぴ」というシンプルなお菓子の背後に、様々な方の思いが動いている、ということだ。
創業者のクルマ一台からの起業と多角化の失敗、そして直販へのシフト、日本橋店舗での店舗スペースを削って専用機械を入れること、「率先垂範のマネジメント」など、学ぶことが数多くあった。
高知県から、全国、そして世界へ。芋屋金次郎の挑戦は続く。
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芋屋金次郎は、日本一の芋けんぴ生産量を誇る
澁谷食品から生まれた芋菓子専門店。
昭和27年創業以来、創業者の澁谷金次郎がこだわり続けた
芋けんぴへの思い、その夢をかたちにしたお店です。
芋舖「芋屋金次郎」の母体は、高知県高岡郡日高村にある老舗芋菓子メーカー「澁谷食品株式会社」。昭和27年の創業以来、芋けんぴ一筋に生きて来ました。
現在、澁谷食品を含むシブヤグループが年間に使用している芋の量は約12,000トンで、全国のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで販売されている芋けんぴの約半分近くがシブヤの商品です。
芋屋金次郎は、日本一の芋けんぴ生産量を誇る澁谷食品から、ワンランク上のフレッシュな芋けんぴを提案する専門店として平成17年にオープンしました。
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