いま、目の前に仕事がある。どこから手を付けるか?と問われて、どう答えるだろうか。
「簡単なことから?」
「見栄えの良いことから?」
「できそうなことから?」
それとも?
だが、実際には正解はひとつしかない。「成果を出すために必須で、一番困難なことから手を付けよ」となる。
例えば、ある会社において。経営者が「社員の仕事に対する満足度を高めたい」と思い、
「従業員が、会社に対してどう思っているか?」
を調査したことがあった。
そして案の定、調査の結果「給料が安い」がトップ。調査をする前から結果はわかっていたが、経営者は困っていた。
経営者は従業員を思いやる「いい人」ではあったのだが、残念ながら経営の手腕は今一つで、非常に利益率の低い商売をしていたからだ。
その経営者は仕方なく、「とりあえず従業員の不満をそらそう」と、会社の飲み会を増やしたり、従業員の話をよく聞いたりと精力的に不満を解消しようとした。
そして1年後、その経営者は追加で調査をした。だが残念ながら「従業員の不満が解消されていると良いけど」という経営者の期待は見事に裏切られた。調査結果は、前年度よりも悪化していた。
「社長の努力は認めますが、何の解決にもなっていません」
「ごまかそうとしている」
それが、率直な従業員の感想だった。
それは、彼が一番困難で、解決が必須の問題である「利益率の高い商売を生み出す」ことから逃げたからだった。
ある会社で「オウンドメディアの立ち上げプロジェクト」の実施が決まった。
私が見る限り、メンバーの選定には問題がなかったが、リーダーの考え方には若干問題があった。つまり彼は「一番困難なことを後回しにする」というクセがあったのだ。
果たしてプロジェクトは始まり、彼らは「サイトの制作」と「サイトへの集客」という課題に直面した。
もちろんメディアなので、もっとも重要なのは「記事」である。記事を書いて、集客ができなければサイトも何もない。だから、サイトの制作に時間とお金をかける前に、とにかく「記事」を作って読んでもらうことが重要なはずだった。
だが、リーダーは困難で重要な「良い記事を作ること」から逃げ、サイトのデザインや制作のコストなど瑣末な問題ばかりに取り組んでいた。その結果として多額の資金を使って綺麗なサイトは出来上がったが、読者は誰もいない、というメディアが完成した。
リーダーは責任を取らされ、異動となった。
ある会社の若手の話だ。彼は営業目標と、社内の間接業務の効率化の2つのミッションをを課されていた。
もちろん彼は「営業目標の達成」が重要であることは理解していた。彼が属しているのは営業部であり、営業目標の達成なしには、他の業務など付帯的なものに過ぎない。
だが、彼は営業が苦手だった。新人の時に大きなクレームをもらって、「担当者を変えろ」と言われた記憶が残っており、それを克服できていなかったのだ。
彼は「苦手意識を克服せねば」と思っていたが、ついつい間接業務に逃げていた。そして悪いことに、上司も「他の人がやってくれないことをやってくれるので」と、彼を重宝していた。
だがもちろん彼の期末の評価は最悪だった。営業目標は大幅に未達。彼は間接業務への貢献を主張し、上司もそれを頼ったことを認めたが「評価は別」とあっさりはねつけられてしまった。
彼は「逃げてもいいことはない」と私に言った。
誤解しないでいただきたいのは、「人生は、逃げてはいけない」と言っているわけではない。自分ではどうしようもないこと、戦ったら自分も傷ついて倒れてしまう等の場合は、逃げなければいけない時もある。
だが「仕事で成果を出さなくてはならない」という制約を自らに課しているのであれば、「必須で、困難なこと」から絶対に逃げてはいけない。必ず最初に手を付けるべきだ。
成果が出ないだけではなく、逃げたツケは必ず支払わされることになる。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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