洞察力は仕事の役に立つ。
私のかつての上司は極めて洞察力に優れた人物で、少しの会話から相手の状況や思考を読み取り、先回りしていた。
「いつかは彼のようになれるだろうか」
そう思ったが「洞察力」の本質をつかむことは難しい。本質がわからなければ身につけることもできないし、訓練をすることもできない。
常に「洞察力とは何か。」は疑問だった。
もうすこし深く考えてみよう。
まず件の洞察力にあふれた上司が優れていたのは、お客さんの話を聴くとすぐに
「以前にも、同じような課題を抱えていたお客さんがいた」
と、理解していたことだ。したがって、先に何が起きるか、お客さんが何を考えているか推測できる。コンサルティングの際にお客さんから
「何故それがわかったんですか」
とよく驚かれていた。これは仕事をする上で、大変なアドバンテージだった。
作家であり、外交官だった佐藤優は、「似ている事物を結びつけて考えること」、すなわちアナロジー思考について著書*1の中でこう述べる。
アナロジー的思考はなぜ重要なのか、未知の出来事に遭遇した時でも、この思考方法が身についていれば「この状況は、過去に経験したあの状況とそっくりだ」と、対象を冷静に分析できるからです。
すぐれた作家や著述家は、巧みなアナロジーで物事を解説し、新しい理解の地平を開いてきました。その意味では、アナロジー的な思考を養うことは、ビジネスにおいても国際的なセンスのみならず、説明スキルを向上させる効果を持つはずです。
また、昨今話題のAI(人工知能)の専門家である松尾豊氏も、著書*2の中で、「学習する」とは「分ける」こと、と述べる。
人間にとって「認識」や「判断」は、究極的には未知のデータに対して、自分の知る「分け方」を適用することなのだ。
*1
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*2
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知能が洞察力を司るとすれば、その本質の一つはアナロジー、つまり共通点を見ぬくことであると言えるだろう。
あらゆる事物の中に相似形を見出すこと、要するに、洞察とは表層にとらわれず、内奥に潜むパターンを見ぬくことに他ならない。
将棋の名人は、複雑な盤面からパターンを見抜く。
一流の経営コンサルは複雑な状況下でも、何が本当の課題であるかを見抜く。
優れた政治家は雑多な意見の中から、大衆が何を求めているかを巧みに見抜く。
おそらくそれが「洞察力」の正体だ。
したがって、「洞察力」を身につけるには、ある程度の知識と訓練が必要とされる。
人工知能が大量のデータを読み込んで、学習を繰り返すのと同じだ。
だから洞察力をつけるために「本を読め」「いろいろな経験をしろ」と言うアドバイスは合理的だ。そこからさらに「判断」「予測」といったアウトプットを出す訓練を積み重ねることで、洞察力が身につく。
思い起こすと、コンサルティング会社に在籍していた時はよく、「とりとめもない話から相手の話の要点をつかんで、真の課題を把握する」という訓練をやらされていた。
会社の経営に関する課題はパターン化しやすく、また解決策もある程度似通っていた。
例えば一つ行っていたのは、経営者などへのインタビューを記録・あるいは録音してきてもらい、皆でそれを聞くことだ。
そして他の資料、例えば会社のプロフィール、業績、組織などの断片的な知識から、「会社の課題」を抽出し、それを発表し合う。
この方法では新人とベテランでは同じ情報を見ても、予測にかなりの差がでるため、新人はベテランが何を見て判断したのかを会得しやすい。
例えば「社長が見る、今の課題は何ですか?」という質問に対して経営者が「社員の能力開発です。」と答えたとする。
経験のない新人はそれを額面通り受け取ってしまい、研修を勧めて断られてしまう。
新人は「課題と言っていたのに、何故断られたのかわかりません……」と言うが、ベテランはわかっている。
彼らは更に踏み込んで開示された決算書や事業計画、取引先や社員数の増減などを見る。
すると、実際にはほとんど投資を行っておらず、事業計画の中での位置づけも低いまま、ということが往々にしてある。また、採用のための費用が増えており、離職率も高いままだったりすれば、実際には
「経営者はあまり人を育てる気がなく、できる人を外からインスタントに調達するほうが重要だと考えている。」
という仮説が成り立つ。
また、取引先や協力会社を聞くことで、営業が強いのか、人脈で仕事を持ってきているだけなのか、下請けをこき使う体質の会社かどうか、きちんとパートナーシップを築こうとする会社なのか、かなりの判断ができる。
このように「洞察」とはアナロジー思考の賜物、と考えても良いだろう。
だが、そうであるが故に、こう言った仕事は「人工知能」に置き換わりやすい。
知人が「分析」「予測」「推論」などの仕事は徐々に機械に置き換えられてしまう、と語っていたが
「コンサル」「マーケター」「企画」「審査」「市場調査」などの仕事は、実は肉体労働者よりも真っ先に置き換えられてしまうおそれがある。
そう考えると、現在のホワイトカラーは脱皮しなければならない。
単なる「予測」ではなく、それを基にした「創造」に仕事の軸足を移すべき時が来ている。
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(2025/3/27更新)
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