ある会社での話。
私は営業部に出入りしていたのだが、彼らの営業の主体は「テレアポ」であった。とにかく営業部全員がテレアポのノルマを課されて、ひたすら電話をかけ続ける。
中には電話の相当上手な人間がいて、一人で何件もアポを稼ぎ、実績を上げていく。彼はまさに「トップ営業マン」だった。
だが、もう一方ではどうしようもなく電話の下手くそな人が数名いた。
彼らは3ヶ月、4ヶ月たってもアポの一つも満足に取ることができない。部長からはいつもキツイ詰問を受け、仕事は憂鬱そうだった。そして、もう半年くらい経つと、次々に会社を辞めていった。
ご想像の通り、その会社の離職率は高く、中にはうつを患う人もいた。
とは言え、業績は悪くはなかった。業界全体が上向いていたこともあり、その会社は順調に業績を伸ばしていた。
「営業会社って、こんなもんだよな」
と私は思っていた。
だがその後、全く別のマネジメント行う会社に私は訪問した。
業種は上の会社と同じ、顧客の開拓方法もテレアポから、これは全く同じだ。だが、業績は圧倒的にこちらのほうがよかった。離職率も低く、社員も幸せそうに働いている。何がちがうのか。私は興味があった。
私は一人の営業課長に話を聞いた。
「私が以前見た会社とはかなり違うようです。」
「そうですか?」
「はい、以前見た会社はテレアポで皆が疲弊していました。」
「ウチもテレアポはやりますよ。」
「それにしては雰囲気が違いますね。」
と、正直に言うと、課長は言った。
「そうですね、我々はかなり気をつけてますね。「苦手なことをやらせない」ということに関して。」
「苦手なことをやらせない……?どういうことでしょう?」
「端的に言うと、テレアポが苦手な人には、テレアポをやらせないってことです。」
腑に落ちない。
「……。苦手だからといって、やらなくていい、ということになると皆やらないのでは?」
「まあ、我々もそう思ったのですが、やってみると意外にそうならないんですよね。」
「何故ですか?」
「テレアポ得意な人って、いるんですよ。楽にアポを取る人。彼らは別に「苦手」って思ってないので、自発的にやりますよ。あと、彼らには裁量を与えて、外注やアルバイトなどを使っても良い、って言ってます。」
「ほう。」
「すると、彼らは工夫して、自分のノウハウを人にやらせようとするんですよ。これで更に彼らは楽になります。」
「なるほど。」
確かに合理的だ。
「で、ではテレアポが苦手な人はどうなるですか?」
「別の仕事をしてもらいます。顧客リストからDMを出してもらったり、webの運営をさせたり。営業セミナーをやってもらう子もいます。」
「テレアポは免除?」
「免除です。」
「不満が出ませんか?」
「特に無いですよ。他のことをやってもらったとしても、成果はきっちり見ますから。要するに、一番楽に成果が出せる仕事をやってもらってれば、どの仕事をしていても、そんなに不満は出ません。」
「……。」
私が不思議そうな顔をしているのを見て、彼は言った。
「安達さん、多分根本の所で、勘違いしてますね。仕事で苦手を頑張って克服させようとしても、おそらく時間の無駄です。苦手なことを克服するのは時間がかかる。」
「……そうでしょうか。」
「そうです。テレアポが苦手な人をどうにかしようとしてもまあ、成果出ないですよね。多分辞めます。」
「確かにそうでした。」
私は以前の会社を思い出した。
「仕事なんて、1ヶ月もやらせれば、その人の得意不得意はわかるじゃないですか。」
「何か、机上の空論を聞いている気が……」
「もちろん、テレアポは最初に皆やってもらいます。そこが一番給与が高いからです。でも、それが苦手な人は異動させて、合っている仕事で成果を出させます」
「……」
「最初は、我々も「甘えではないか」「成長がないのではないか」と思ったんですが、会社は根性を鍛える場所でもないし、苦手を克服する場所でもない。
合理的な選択は、「成果が出せること、うまくできることをやってもらおう」でした。ご覧のとおり、うまく行っています。」
「楽しそうですね。」
「まあ、そんなもんですよ。この前はセミナーの集客が課題だったのですが、あの彼に任せると、うまくいくんですよ。今後はセミナーが得意な人を集めたいとも思います。」
会社は苦手を克服する場所ではない。うまくできることだけやらせる。
「全員に同じ仕事をやらせて競争させる」とは対照的な考え方だ。
まあ、何の事はない。「長所伸展」といえばそのとおりであるが、実践できる会社は確かに少ない。
人をつかうとは、こうあるべきなのだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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「仕事ができるやつ」になる最短の道
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