よく言われる話であるが、「仕事ができる」ことと「人格が優れている」こととはあまり関係がない。
人望があっても仕事は今ひとつの方がいるし、逆に仕事は突き抜けてできるが人格に問題あり、という方もいる。両者とも希少な資質・能力であるから、必然的にこの二つを兼ね備えた人は稀である。
例えば、スティーブ・ジョブスは偉大な経営者であったが、近くで働く人物にとっては一緒に気持ちよく働ける人物ではなかったという。
実際、元米アップル社のシニアマネジャーだった松井博氏は、著書*1の中で、彼についての特徴的なエピソードに触れている。
スティーブに社員食堂などで話しかけられてしどろもどろになってしまうと「お前は自分がどんな仕事をしているか説明できないのか?同じ空気吸いたくないな」などといわれ首になってしまうという噂が流れました。
たまたまエレベーターでスティーブと乗りあわせてクビになったという話もあり、みんなスティーブと目も合わせないようにする始末でした。
これが「噂」だったとしても、こんな噂が立つ人物と一緒に働きたいと思う人は稀有だろう。
また、こんなエピソードも紹介されている。
例えばお客様からの苦情メール。
これが突如スティーブ・ジョブスから転送されてくる、ということが年に数回ありました。スティーブから直々に送られてくる問題ですから上から下まで全員が注目しています。
こう言った場で「この問題の原因を作りこんだ責任者」のようなレッテルを貼られてしまうことは、アップルで政治生命の終わりと言ってもいいほど最悪の事態でした。
管理職研修などでは「皆の前で部下を叱ってはいけない」と教えられたりするが、スティーブ・ジョブスはそんなことお構いなしだった。
*1
アメリカ南北戦争の英雄、北軍を勝利に導いたユリシーズ・グラント将軍は、実は大変酒癖が悪かったという。
また、後年大統領となったとき、スキャンダルをおこし、汚職に手を染めるなど、人格的には決して褒められた人物ではなかった。
だが、大統領であったエイブラハム・リンカーンは戦時中、その危険性を知りつつも彼を解雇しなかった。戦いがあまりにもうまかったからだ。
対して、グラントのライバル、南軍のロバート・E・リー将軍は大変穏やかな性格であったという。人をつかうこともうまかった。だが、最終的にはグラント将軍に敗北してしまった。
「仕事の能力と、人格は切り分けて考えなければならない」ということをしばしば我々は忘れてしまうが、上のようなエピソードは、それを再認識させてくれる。
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先日、ある会合で友人が言っていた。
「信頼して仕事を任せた方が、何もしていなかった。あまりにも無能であることに腹を立てて、「アンタ、仕事ナメてるでしょ」とつい大声で怒ってしまった。」
彼に事情を聴くと、
「仕事と人格は別っていうのはわかるんだけど「この歳になって、こんなこともできないなんて、世の中を舐めてきた」と思ってしまう。するとついつい、リスペクトを失って、怒ってしまう」
という。
上のように「仕事ができないがゆえに、人格まで否定したくなる」という衝動が存在することを認めない人はいないだろう。おそらく、誰でも経験があるはずだ。
過去、
「お前は本当に仕事ができないな、だらしないヤツだな。」
「目標達成に向かって頑張らないヤツはクズだ。」
そんな言葉を様々な企業の中で聞いてきた。
だが、その場に居合わせた別の知人が言った。
「無能っていうのは、「時代の要請と合わない」ってことだから、人格とは分けて考えたほうがいいと思う。例えば自分は戦国時代に生きてたら、たいして活躍できなかったんじゃないかな。たまたま今の、この仕事だから、能力が活かされてるんだよね。」
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我々は、ともすれば仕事の能力を「人格」で語る、「人格主義」で考えがちである。
しかし、上のように人格主義は万能ではない。
「精神を鍛えれば、仕事ができるようになる」
「成果をあげる人は、人格も高潔だ」
と言った具合に、仕事の能力と人格とを安易に結びつけるのは避けるべき事態である。
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