今からちょっと、しょうもない話をします。
バカと煙はといいますが、私、幼少の頃から、高いところによじ登るのが大好きなんですよ。
まだハイハイが出来るようになったくらいの頃、どうやってかよじ登ったテーブルから転落した(伝聞)のを皮切りに、木登りの木の上から落っこちる、ジャングルジムの最上段から落っこちる、公園のフェンスによじ登って落っこちる、公衆トイレの天井によじ登って落っこちるなど、大体よじ登るのとセットで転落しています。
頭を12針くらい縫ったことはありますが、幸い再起不能の大けがをしたこともなく、まだ生命があるのが奇跡というべきかも知れないですね。
なにはともあれ、幼少期から今に至るまで、「登れそうなものを見ると取り敢えず登りたくなる」という、一種の病気のようなものを抱えて過ごしている訳です。
子どもと一緒に公園に行ったりすると、私は色んな場所に登りまくりなんで、一緒に遊具で遊べると解釈した子ども達は大喜びです。大体において、子どもは「本気で遊ぶ大人」が好きなものです。実際には単に欲求に従っているだけなんですが。
昔、といっても10年くらい前でしょうか。ある時、ちょっとした気付きを得たことがありました。これが、日本人の絶対多数、それこそ99.999%くらいの方にとってはどうでもいいことだと思うんですが、私にとっては一大事だったのです。
電柱の側面に、足場になるボルトが刺さってるの、ご存知ですか。多分皆さん、目に入ったことは何度もあると思います。
左右交互に互い違いになっていて、恐らく電柱の工事やメンテナンスの時、作業員さんが電柱に登る時に使う足場の筈です。どこの電柱でもそうなのかはちょっと分からないんですが、あれ、一番下のボルトが、普段は取り外されてるんですよね。
図示するとこんな感じです。
電柱の画像です。伝わりますか?伝わりますよね。伝わらなかった人は、今日帰りにちょっと電柱見てみてください。悪いのは私の作図であってあなたではありません。
これ、一番下のボルトが、ちょうど「私がちょっと背伸びすれば手が届く」程度の場所に設置されてまして。生来のクレイジークライマーである私は、電柱を目にする度に「よじ登ってみたい」という誘惑に駆られていたんですよ。ああ、これ、よじ登ったら楽しそうだよなあ、と。一番上までいったら気持ちいいだろうなあ、と。ただ怒られるだろうからちょっと我慢しとこうかなあ、と。
ある時気づいたんです。
あ、これ、信頼の高さなんだな、と。
つまり、「子どもならともかく、このボルトに手が届く程度の大人であれば、この電柱に登ろうなんていう変な気は起こさんだろうな」と。「だから、いちいちもっと上の高さのボルトまでは取り外さずに、下の一本だけ外しておけばいいだろうな」と。
私は電柱に、あるいは電力会社の人に信頼されていたんだ、と。無言の信頼の対象になっていたんだ、と。
社会において、「暗黙裡の信頼」「信頼することによって成立する効率化、コストカット」って、無数にあると思うんです。
例えば、普通バットでぶん殴るヤツはいないだろうから、わざわざ金網入りにはなっていない窓ガラス。例えば、野菜が無造作に置いてあって、「お金はこちらに入れてください」と書いてある無料の野菜販売所。例えば、子どもには登れないけれど、大人であればちょっと手を伸ばすだけで乗り越えられるであろうフェンス。
勿論、時には、その「信頼」に付け込んでしまう困った人もいるかも知れない。けど、多くの人はそういう信頼を無にしようとはしないから、だからそういうコストカットが成立する。
私は、その瞬間まで、「電柱の横の足場」というものが、そういった「暗黙の信頼」の一つの現れであることに気付いていなかったんです。
これに気付いた瞬間、私の中の子どもが一人、ひとつうなずいてどこかに去っていきました。
「子どもという存在は、納得を得た時死ぬ」と私は思っています。納得を得た子どもが死んだ、その後に「大人」という新しい生き物が生まれます。
私は、これに気付いたその時以来、電柱に登りたいという欲求に駆られることがなくなりました。
何故なら、私は既に納得しているから。自分が、暗黙裡の信頼の対象となっているのだ、ということに納得しているから。「怒られそうだからやめとこう」と、無理やり自分を我慢させる必要は、もうないのです。
そして今でも、公園にある丸型のぐるんぐるんと回す遊具に一番に登って、長男に「パパおとなげない」と怒られるのです。
しょうもない話でしたが、今日書きたいことはそれくらい。
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SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロ
書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城