「あの人、全然いうことを聞かないんですよ。」

と、困り果てたチームリーダーが言っていた。

 

「仕事を与えると、「大丈夫です!」って、返事だけはいいんですけどね、まだウデがないもんだから、まあ、クオリティの低いものが返ってくるんですよ。」

「最初に、やり方を教えないんですか?」

「もちろん教えますよ。でも自分のやり方へのこだわりが強いんでしょうね。全くこちらの言うことを聞かないんです。

例えば、企画書一つとっても、箇条書きを使えと言っているのに使わないし、「背景」という項目はわかりづらいので使うな、といっても入れてくるし。」

「なるほど……それは困りますね(笑)」

「いやいや、もう全く笑えなくて。」

 

彼は溜息をついた。半年ほど前からチームに合流した部下が、全く言うことを聞かない、と彼は困ってるらしい。

部下は2年目の女性社員で、社内では「言うことを聞かない」と評判だ。留学経験があるからなのか、原因はわからないが、自己主張することについて強いこだわりを持っているらしい。

 

リーダーは述べる。

「自己主張することは別に悪くないんですが、自分の仕事のレベルを認識できていないんですよ。

この前なんか、お客さんに「成果物の程度が低い」と怒られたのに、直そうとしないんですからね。流石にそれはマズいので叱ったら、「上司から嫌われてる」って同僚に愚痴ってたみたいで……。」

 

————————–

 

最近になって同じような話を、別の方から聞いた。

 

その方はあるスタートアップの幹部で、幾つかのプロジェクトを切り盛りしているマネジャーだ。

「彼、指示を全く守らないんですよね。オリジナリティに強いこだわりがあって、指摘するとすぐに怒って意地を張る。」

「そうです。その通りです。」

「我々も非常に困りましてね、面談で理由を聞いたんですよ。なぜ、指示通りやらないのかと。」

「なんと言っていましたか?」

「単純です。「こちらのほうが良いと思ったので」とだけ言っていました。」

 

私が「困りましたね」と言って頷くと、マネジャーは言った。

「もちろん「良いかどうかをきめるのは、アナタではなく客だ。」と強く言ったら、むくれてしまってね。で、ちょっとどう扱おうかと悩んだんですが、30代、40代になってもこれが治ってないと、まともに仕事できないと思いまして。」

「何をしたんですか?」

「きっちり彼と向き合うことにしました。大体、彼みたいなタイプに、はっきりいう人っていないんですよ。面倒だから。だから今まで放置されてきた。」

「そうなんですか。」

「彼に近づかない、って決めてる人も社内には多かったです。」

「……。」

「彼を呼び出しましてね。言ったんです。「今のままの態度だったら、最低の評価にする。」ってね。」

「はっきりいいましたね。」

「持って回った言い方では、伝わりませんよ。こういう人たちは、自分の都合のいいように解釈するので。」

「彼はなんと?」

「「理由を教えて下さい」と。私は「アナタの仕事がお粗末だから」とはっきりいいました。彼はしばらく黙ってましたが、「では、どうすれば評価していただけるのでしょう」と聞き返してきました。」

「どのように答えたのですか?」

「3ついいました。

一つ目は「成果物の出来を評価するのは客、もしくは社内の仕事の依頼者である」

二つ目は「自己流でやるか、言われたやり方でやるかは任せる。」

三つ目は「私にはどんな質問でもして良い。」」

「彼はなんと?」

「わかりました、とだけ言いましたよ。」

「その後、どうなりましたか?」

「良くなりましたね。まず自分でやってみて、何か言われたら、すぐに私のところに持ってくるようになったんです。ま、彼なりに考えてはいるんですよ、実力が伴っていないだけで。」

「そうなんですね。」

「「面倒な奴」には誰も関わりたくないですからね。でも、考えている分、成長の余地はあります。」

「なるほど」

「そういう人物は、大抵の職場で腫れ物に触るように扱われていますが、化ければできる奴になります。でも、それには誰か一人は、理解者が必要です。耳の痛い話をはっきりと、客観的にきかせる力を持った上司が。」

「彼は何で耳の痛い話を聞けるようになったんですかね。」

「私が彼をバカにしなかったからですよ。人間て、自分がバカにされているとわかるんです。そうなると意固地になる。」

「難しいですね。」

「「アイツはプライドが高いから、人の話を聞かない」っていう決め付けが、一番よくないんです。」

 

 

 

プライドが高くて大口を叩く人物は、周りからバカにされていることも多い。

当然、本人にも責任はあるが、周りにも責任はある。そうマネジャーは言っていたように感じた。

 

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