「仕組みを知っている人」と「仕組みを知らない人」の間で、圧倒的な差がつくのが世の中である。
仕組みを知っている人は、常に有利に事を運び、仕組みを知らない人は表に見えるルールだけを愚直に守って損をする。
例えば、会社の「人事評価」である。
「どうすればもっと評価されますか?」と多くの新人は上司に聞く。
すると、上司からは次のように説明される。
ウチの評価は、成果と能力、そして意欲の3つが柱となっていて、それぞれに詳細の評価項目がある。新人のときは能力と意欲のウェイトが大きく、ベテランになるに従って、成果のウェイトが大きくなるんだよ。
こう言う「ルール」の説明を受けて、「ウチの評価の本質」と知った気になる。
では、ということでその新人は能力を磨き、意欲を出して、評価を高めようと、よく本を読み、セミナーに出かけたりする。また、意欲がある(ように見せる)ことも大事で、あいさつがしっかりしていたり、言われたことを確実にこなしたりする。
はたして、期待した評価が得られるのか、というと、結果的には同期と比べても極めて平凡な昇給しかなく、
「こんなに努力したので何で?」
という感想を持ち、
「頑張っても同じじゃないか」
と、やる気を徐々に失い、「なんとなく働く平凡なサラリーマン」が出来上がる。
これが「「表のルール」は知っているが「裏の仕組み」を知らない人」の典型だ。
さて、仕組みを知っていると、上の人とは別の発想になる。
例えば、あるサービス業の会社で、営業の一人はこう言った。
会社の説明としては、人事評価は「成果、能力、意欲」に基づいて行われると発表されている。
だが彼は「とはいえ、説明されたルールはあくまでも建前。実質はそうではない」と考えた。
「実際には、以下のように異なる基準が適用されている」と。
成果 ⇒ 自分の力だけでは大きな成果は出せない。例えば、強い商品を持っている部署は成果を出しやすい。
能力 ⇒ たくさんの人の中で「能力が高い」とみなされる人は、結局「評価者である上司と長い間一緒に働いている人」になりやすい。
意欲 ⇒ 意欲は「会社にいる時間の長さ」で測られる。
さらに彼は最終的には、「部長同士での評価の調整」が入るので、上司に力がないと、良い評価にならない。ということを見抜いていた。(実際、そうだった)
だから、彼は「自分の評価を上げるため」にこう考えた。
・強い商品を持つ部署に異動することが先決。
・上司と出来る限り一緒に働けるような仕事を選択する
・会社に長時間いるように見せる(上司たちが休みがちなところでまとめて休みを取る)
そして、
・声が大きく、会社の中心となっている上司の下で働く
かくして彼は、同期の中で頭一つ出た出世を果たし、「転職の時に使える肩書」を得ることができた。
いつの時代のどんな組織にも「表のルール」には最低限知っておくべきことしか書かれていない。
それだけを知ってもうまく立ち回るのは無理である。
重要なのは、
「だれがルールを決めたのか」
「なぜこのルールが存在するのか」
「まだルールの存在しない領域はあるか」
という、「裏側の仕組み」を考え、うまく立ち回ることである。
—————————–
世の中には様々な「ルール」が存在しているが、殆どの人は「裏側の仕組み」には興味を持たない。
例えば、
なぜサラリーマンは成果ではなく労働時間に対して賃金を支払われているのか。
なぜ結婚という契約形態が法的に採用されているのか。
なぜ年金という制度があるのか。
まして常に人の争いのタネとなる、法も、人権も、国民も、人間が勝手に定めたルールに基づく虚構である。
近代国家にせよ、中世の教会組織にせよ、古代の都市にせよ、太古の部族にせよ、人間の大規模な協力体制は何であれ、人々の集合的想像の中にのみ存在する共通の神話に根ざしている。(中略)
司法制度は共通の法律神話に根ざしている。互いに面識がなくても弁護士同士が力を合わせて、赤の他人を弁護できるのは、法と正義と人権—そして弁護料として支払われるお金—の存在を信じているからだ。
とはいえこれらのうち、人々が創作して語り合う物語の外に存在しているものは一つとしてない。宇宙に神は一人もおらず、人類の共通の想像の中以外には、国民も、お金も、人権も、法律も、正義も存在しない。*1
争いをうまく収め、また権力者に搾取されないためにも、我々はルールの背後にある仕組み、すなわちその成立の過程を理解しなければならない。
逆に言えば、権力者は常に「無知な人」を狙い、操ろうとする。
正確な知識を得るための勉強が必要なのは、そのためだ。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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