古くからの知り合いである経営者と、会社の利益についての話になった時、その経営者から面白い話を教えてもらった。
「そういえば、◯◯さんのところの会社、もう40億円以上ため込んでいるみたいだよ。」
40億円といえば、大金である。
「どうやってそんなにお金を貯めたんですかね?」
「毎年2億円くらい、税引き後に利益が出てたみたいだからね。それをコツコツ20年やって、40億。凄いよね。」
「100名ちょっとの会社でそれなら、たいしたものですね。」
「あの人、堅実だからね。」
そんな話だった。
ただ、ちょっとした違和感もある。
「普通それだけ利益が出ていたら、会社に残さず、経営者が個人で取ってしまうのでは?」
と、私は聞いた。
「僕もそう思ったんだけどね、◯◯さんが言うには、そんなに欲しいものもないし、自分の給料は5千万円もあれば十分だと言ってる。」
「なるほど。でも何でそんなに会社にお金をためているんですか?」
「聞いたら、「企業価値を上げるため」と言ってた。」
「企業価値……。」
企業価値を上げるためにせっせと内部留保をふやす。確かに簿価で考えれば、企業価値は上がるかもしれない。
しかし……
例えば個人で考えてみると、「自分の市場価値を上げるために、せっせと貯金する」というイメージだ。
したがって、
「おれ、貯金が2000万円あるから、市場価値がある人間だぜ」
と言うのと意味は同じである。
私はその経営者に訊ねた。
「貯金ってした方がいいんですかね?」
「個人の話?会社の話?」
「どっちもです。」
「貯金ねえ……究極には価値観でしかないと思うけど、皆が貯めこむばかりだと、経済は回らないね。お金のある人は、それ相応に使って欲しいと思うけどね。」
「なるほど。」
「でも、お金って、使うの難しいからね。◯◯さんがうまく使えないのも、わからなくはないよ。」
「どういうことですか?」
「多分、◯◯さんって、会社を作った時の目標をとうの昔に達成してしまって、いまは「お金を貯める事」が目的になっているんだよね。でもお金は墓の中にはもっていけない。」
「そうですね。」
「お金って、あればあるほど使うことも難しくなる。40億円をうまく使って、と言われて、うまく使える人なんて、ほとんどいないんじゃないかな。」
「……。」
「ほら、宝くじにあたって不幸になった人の話とか、退職金を変な金融商品につぎ込んじゃって、ほとんど無くしてしまったとか、よくあるじゃない。お金って使う人を選ぶんだよ。」
確かに、アメリカのプロバスケットボール選手などは、引退5年以内に60%の人が破産しているという。
私は聞いた。
「お金をうまく使うにはどうしたらいいでしょうか?」
「さあ、どうだろうね。でも確信してるのは、お金をうまく使うには、ビジョンがいるってこと。」
「ビジョン?」
「その方の「野心」と言ってももいい。器が小さいと、散財するだけだ。でも「何かを成し遂げたい」とか「何かをしたい」という展望、ビジョンがあればうまく使うこともできる。」
「そんなもんですかね。」
「そうだよ。だから若い時は貯金だけじゃなくて、「うまくお金を使う術」を学んだほうがいいよ。40億貯めこんだ◯◯さんも「でも、いくら金をためても、不安なんだよね」って言ってた。」
「面白いですね。いくらあってもダメなんですね。」
「お金は稼ぐこと、持つことよりも、その先にある「何に使うか」が問題なんだよ。まあ「どうやって稼ぐ」「どうやって貯める」みたいなことばかり考えている人たちには、一生わからないかもね。」
若干トゲがある言い方だったが、そのとおりなのかも知れない、と感じた。
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