「手間をかけたもの」は、一般的に「良いものである」と認識をする人が多いのではないだろうか。
例えば、オフィスのまわりにはお弁当屋さんが数多くある。
観察をしていると「手づくりのお弁当」という謳い文句を掲げるお店が非常に多い。「工場の大量生産弁当」というキャッチを掲げるお店は1件もない。
おそらく殆どの人がその比較では「手作り」を選択するだろう。
実際、「手作り」と聞くと
・愛情を感じる
・手間を掛けたほうが、ありがたい
・いいものを使っていそう
といったイメージが挙がっていた。
このように「手間ひまかけて」や「コスト度外視で」というキャッチフレーズを見ると、我々はどうしても反応してしまう。
品質が同じであれば手作りだろうと大量生産だろうとどちらでも良いとする人は実は少なく、人はコストがかかっており、手間をかけたものを重要視する。
デューク大の心理学者、ダン・アリエリーは著書*1の中で、こんな実験について触れている。
ボストン在住の100名の成人に、新薬の実験に協力する被験者となってもらう。
最初に「新薬はオピオイド系の鎮痛剤で、服用して10分の間に92%の人に効果があった」と説明。さらに、この薬は一錠あたり、2ドル50セントという価格をつけたパンフレットを見せてから行われた。
さて、彼らには薬を飲む前に、電気ショックを与えられ、その痛みの程度を記録する。その後、彼らは鎮痛剤を服用し、その後同じ電気ショックを与えられると……殆どの人は痛みが軽減したと申告した。
何も問題はない。薬は見事に効能を発揮した。
……薬がただのビタミンCの錠剤であり、鎮痛効果がないと言うこと以外は。
そして、この実験はもう一度行われた。
次は、一錠あたり格安の10セントまで値引きしたパンフレットを見せられてから同一の実験を行うと……なんと、効果があったという人物は、半数まで減ってしまった。
この実験は、思い込みが実際に体験を作ること、もう一つ、価格は、経験そのものを変化させる場合があることを証明している。
*1
予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- ダン アリエリー,Dan Ariely,熊谷 淳子
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少し前、堀江貴文氏が、「寿司屋の長期間の下積みや修行は必ずしも必要ない」と述べたことが話題となった。
ホリエモン「大事なものが欠けているのはお前らの脳だと思うよ」寿司屋の修行重視の考え方を一蹴
大阪にある寿司屋「鮨 千陽」の料理人は、鮨を握った経験が1年未満ながら「ミシュランガイド京都・大阪2016」に掲載されたという。この事実を例に出し、長期間の下積みや修行は必ずしも必要ないと持論を展開したホリエモン。寿司屋に限らず、下積みを過度に重んじる「下積み原理主義者」を「大事なものが欠けているのはお前らの脳だと思うよ」と徹底批判した。
言わんとしていることはわかるが、上の実験結果を見ると、「修行期間が長く、苦労している寿司職人が握った寿司のほうが実際に美味しく感じる」は十分にありえる話だ。
我々は皆、ミシュランの調査員のように鋭敏な舌を持っているわけではない。
「どこで修行した」「◯年の厳しい指導を受けた」といった寿司職人その人が有する物語が、実際に体験する味を変えるのである。
これは我々が「バカ」なのではない。そもそも人間の感覚などほとんど当てにならず、主観とはそのようなものであると認めなければならないのだ。
そして、企業の中でも同じようなことが起きている。
例えばある企画書を部下に命じたとする。
部下の一人であるAさんは、30分で企画書を仕上げて、提出した。そしてもう一人の部下であるXさんは、1週間、毎日遅くまで残って企画書を書き直し、ようやく出来上がった企画書を提出した。
あなたはXさんが頑張って企画書を書いたことを知っている。そして、手間を掛けている仕事のほうが、実際に良い仕事に見える。
あなたは言う。
「さすが、頑張って書いた企画書だけあるな。Xの企画書はやはり質が違う。コチラを採用だ。」
だがAさんは言う。
「待ってください。企画書の内容を見てください。私のほうが優れているはずです。」
だが、あなたは聞く耳を持たない。なぜなら、実際にXさんが作った企画書のほうが、よく見えるのだ。
Aさんが犯した過ちはなんだろうか。
端的に言えば、人の心理を知らないこと、そして上司向けのマーケティングを怠ったことである。
人は本能的にコストをかけていることのほうがよく見えるものだ。もし自分の能力に自信があり、会社で活躍したいのなら、上司の心理を読むこと。よく思われるよう「社内向け」のマーケティングをすること。
態度が悪いヤツの言うことなんて、だれも聞いてはくれないのだ。所詮上司も人であり「すべてを客観的に見る上司」なんて、いるはずがない。
これは組織内では極めて当たり前のことであり、これを知っている人が「気のきく部下」だ。
もちろん、こんな「社内マーケティング」にやすやすと引っかかる上司もどうかとは思うが、それはまた、別の話である。
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<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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