ウチはねえ……上が動かないからなぁ……と、担当者は困っている。
あるお菓子メーカーで、旧来のマーケティングに加えてSNSによるマーケティングを担当者が提案したところ、ろくに企画書も見ずに反対をされたと担当者は言う。
「大したコストでもないです、まずやって見てから、効果のほどをご判断いただきたい」
と熱意を込めて言ったが、
・前例がない、自社の文化にそぐわない
・リスクがある、炎上したらどうするんだ
・費用対効果が見えない
など、様々な理由をつけて企画は上に却下される。
担当者は「完全に予測はできないし、難癖つけようとすればいくらでも突っ込めるから……。この分だと、競合がやるまでウチはやらないでしょうね」と諦め気味だ。
「伝え方がまずいんじゃないの?」と、知人が指摘するが、担当者は人当たりの良い方なので、上司に嫌われているとも思いにくい。
「前から噂で聞いてはいたんだけどね、うちの役員、新しいものはよくわからない、よくわからないものは怖いし、若手と同じ土俵でやると負けるから、否定する、というのは本当みたい。」
と、担当者は不満を漏らす。
「結局、一番まずいのは、上が新しいことを勉強しないことだよ。なんとかしてくれよ。」
上の話の実態がどうなっているのか、詳しいところはよくわからない。
だがこう言った話はあまりにもありふれており、よく耳にするが、どうやらエライ人が新しいことに対して消極的なのは世界共通らしい。
私は「世界のメディア・リ ーダー100人」の1人に選出されたこともある、傑出したジャーナリストのジェフ・ジャービス氏の言説を思い出した。
広告主にも、広告代理店にも保守的な人は多いからだ。染み付いた習慣はそう簡単には変わらない。特に、何に資金を使うか、その決定権を握っている人は多くが保守的である。
そういう「えらい人」を相手に議論を仕掛けようとする人は少ない。必然的に、彼らが新しいことを学ぶのは遅くなる。彼らは相変わらず、テレビに広告を出そうとする。視聴者は急速に減っているのに意に介さない。
もっと驚くのは、「以前よりマスが貴重になったから」などと言って、視聴者が多かったときよりも高い広告料を払う人すらいるという事実だ。*1
「要するにさ、あの役員は昔の手柄だけで食ってるんだよね。」と担当者はこぼした。
「そのくせ、人事評価制度に「知識の取得」みたいな項目をを組み込んでくるんだよ。評価の時に「何を学んだ?」とか聴いてくるわけ。別に言われなくても勉強するし「お前が言うな」だよな。あーあ、もうこの会社もいい加減辞めようかな。」
−−−−−−―
確かに、このような人物は過去にも数多くいた。
そしておそらく、この役員は「自分が新しいことを勉強していない」とは思っていないだろう。「自分は今勉強していない」と自覚するのは、結構難しいからだ。
むしろ「知識と経験豊富な自分がダメというのだから、ダメなのだ」と考えている可能性が高い。
だが、聞きかじっただけ、本を読んだだけ、話を聴いただけで勉強した気になっている「えらい人」は多い。
しかしビジネスにおける「勉強」とは必ず実践を伴うものだ。上の役員は「新しいことを試さない」というだけで勉強を放棄していることがよく分かる。
この担当者は、新しことを学ばない人物が上に立つと、仕事が恐ろしく退屈になる、と言った。
たしかにそのとおりだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
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