どうもしんざきです。好きなギャラリーフェイクの単行本は23巻です。
最近、「理不尽なクレーム」と「それを受け入れてしまう組織」についての議論を観測する機会が何回かありました。
直近記憶に新しいのは、消防車でうどん店に寄って昼食をとった消防団員が注意を受けていた件で、「別にいいんじゃね?」という声も結構上がっていたと記憶しています。
愛知県一宮市消防団の50代の分団長を含む男性団員7人が、制服姿のまま消防ポンプ車で市内のうどん店に行き、昼食を取っていたことが分かった。市消防本部(同市緑1)は25日、全25分団長に口頭で注意を促した。近く文書で全団員にも呼び掛ける。
同本部は、消防車は消防活動以外に使わないと市内の消防団と申し合わせている。同本部によると、16日午前9時半から同本部で消防操法大会の説明会があり、出場予定の団員ら50人が大会で使うポンプ車に乗り合わせるなどして参加。このうち、一分団の7人が終了後、うどん店に立ち寄った。
市民が同日夜にメールで「消防車がうどん店にあった。おかしくないか」と写真付きで同本部に指摘。このため19日に「消防車で飲食店に乗り付けるのは非常識」として分団長に口頭注意した。
ちょっと前は、電車の車掌室で水を飲んでいた車掌さんや運転手さんに文句つける乗客がいて、一時期水を飲むたびに報告が必要だった、みたいな話もありましたよね。
電車の運転士らに熱中症とみられる症状が相次いだため、JR東海は乗務中に水分を補給した際に義務づけていた報告を不要にした。今月から在来線で始めている。
JR東海の乗務員は停車中に水分補給が認められているが、飲んだ場合、乗務中の無線報告と業務終了後の報告書の提出が義務づけられていた。飲んだ時間や場所、理由や乗客の苦情の有無も記していた
まあこれに限らず以前から、「理不尽なクレーム」問題は、不寛容問題と絡めてしばしばみられるお話だったと思います。
先に前提なのですが、あるクレームが理不尽かどうか、というのは単にファールラインの問題であって、明確に定義することは多分難しいです。
ガイドラインでこと細かに「これはOK」「これはNG」と決めていけばいいんでしょうけど、まあそんな手間かけるのもアホらしい話ですよね。
その上で、個人的な感覚としては、業務中に遊んでたということならまだしも、水分の摂取や食事など、生きていくのに必須な行為に文句をつけるのは、それがどんな状況であれ文句をつける方がおかしい場合が極めて多い、とは思います。
それだって極端なケースというのはあるのかも知れませんが。
ただ、一般的に言えることとして、
・クレームをつける側の極端な不寛容
・それを受け入れて何らかの措置を行ってしまう組織
上記二点がそろった時初めて、「理不尽なクレーム問題」は可視化される、というところまでは間違いないと思います。クレームつける方もおかしいけどそれを受け入れる組織もおかしい、という話です。
私自身は、クレームをつける側は個人であって、個人の不寛容を完全に緩和することが不可能である以上、クレーム対処は組織の側にガイドラインを設ける問題であると考えています。
ところで、私は昔、「理不尽なクレームを簡単に受け入れてしまう」組織に所属していたことがあります。
といってもシステム業だったので、例えば勤務中に水飲むなとかそういう話があったわけではないんですが、BtoCのシステムで、「いやなんでそんなクレームに対応しなきゃいけないんだよ」という機会はしばしばありました。
例えば、どう聞いてもブラウザの不具合の問題であって、1,2週間パッチを待てば解決する話なのに、何故か3週間以上の工数をかけてフロントエンドの修正をしなくてはいけなくなったり、であるとか。
一般的に考えてとても見えにくいとは思えないボタンを、顧客のクレームを受けて3倍くらいの大きさに変えなければならなくなって、全体のバランスがガタガタになったりとか。
これらはほんの一例なんですが。基本的には、「顧客のクレームにそのまんま従うチケットが上がってきて、現場は疑問を思いつつもチケットを却下する権限がなく、そのまま実装せざるを得ない」というケースがちょくちょくあったのです。
当時私は末端チームのサブリーダーに過ぎなかったんですが、「なんでやねん」と思うことが余りに多かったので、リーダー了解のもとクレームの受け入れ態勢について色々調べてみました。
その結果、その時のその組織では、クレームの受け入れをこんな感じで行っていたことがわかりました。
・顧客からの架電、クレームを受けたコールセンターは、そのままCRMにその内容を登録する
・内容を確認したサポート部門は、その中からシステム的に対応可能な部分を抽出して、そのままインシデント(事故などの危難が発生するおそれのある事態)としてチケットを登録する
・インシデントチケットは、工数管理担当にスケジューリングされ、システムのチケットとして案件化される
・システムのチケットは全て要対応チケットとして扱われる
何でこうなるかお分かりですよね。早い話、「受け入れたクレームの評価を誰も行っていない」のが唯一最大の問題だったんです。
・クレームを無条件でインシデントとして扱ってしまっていた(評価する機関、ないし担当がいなかった)
・インシデントには必ず対応策を書かなくては登録出来ない仕組みになっていた
・チケットを登録する側にはシステム的な知識がなかった
・システム部門に、インシデントチケットを受け入れるかどうか判断する、ないし拒否する権限がなかった
「そりゃそうなるわ」って感じですよね。私も当時はそう思いました。
つまり、この組織が「むやみにクレームに対応してしまう組織」になっていた原因は、仕組みの方にこそありました。
アホだと思いますか?私も当時、この辺のフローを確認したときには「いやこれアホ以外のなにものでもないやろ」と思いました。
ただ、このフローが出来上がったその背景には、「顧客のクレームを過大評価する」空気というものがあったように思います。
2ちゃんねるやwebにおける、いわゆる「晒し」と「炎上」というものが一般的になって、「クレームにはちゃんと対処しないとヤバい」という恐怖感だけが上層部に広がってしまった。
また、中には「クレームの中にこそ貴重な顧客の声が含まれている」などという観念論がまかり通ってしまい、クレームは無条件にインシデントになってしまっていた。
クレームの中には、「取り上げるべき貴重な意見」が含まれていることがある。それは確かです。
しかし、これは一般論として言ってしまっていと思うんですが、貴重な意見以上に「取り上げれば取り上げただけリソースの浪費、ないし逆効果にしかならないどうしようもない意見」が含まれていることも確かなのです。
例えば、漫画雑誌のアンケートなんかで、アンケートの声に従っていたら従った分だけどんどん人気が落ちてしまった、とかそんな話もありますよね。
クレームを挙げるのは飽くまで「クレームを挙げる層」に過ぎないのであって、それが顧客全体を代表しているわけではない。
となれば、クレームはまず「受け入れて益がある意見かどうか」「受け入れるべき意見かどうか」を評価しなくてはいけないし、その評価の結果受け入れるべきではないとなったら、それはきちんと拒絶しなくてはいけない。
これは多分、BtoC(企業対顧客)で活動しているあらゆる組織に共通のことなんじゃないかなあ、と私は思うのです。場合によっては、BtoBでも同じようなことが言えるかも知れません。
「クレームの評価」はきちんと行いましょうね、という、言ってしまえばそれだけの、当たり前の話でした。
ちなみに私が所属していたその組織ですが、上席をたきつけて色々フローを変更させて、さあこれからはアホらしいチケットに対応することが減るぞ、となったほぼその瞬間、不同意の敵対的TOBの結果、組織が早晩消滅することが判明しました。よくある話ですね。
今日書きたいことはそれくらいです。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Toshiyuki IMAI)