一般的に、人材育成の世界では

「辛抱強く人を育成することが大事である」

と言われている。

 

私も昔、人材育成を主たる商材とした会社にいたことがあったので、よく分かる。

 

だが、営業していると時折、

「人材育成を辛抱強く?そんなのキレイ事だし、効果ないよ。」

とバッサリ斬る人もいた。

そのうちの一人が、ある気鋭のwebサービス会社のマネジャーだった。

 

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当時、私は人材育成に関して深く洞察をしていたわけではなく、

「なんとなく、人は辛抱強く育成することが大事」と思い込んでいた。

 

しかし、そのマネジャーは私に冷水を浴びせた。

「意味ないでしょ。いいですか安達さん、いつまでも成長しない社員は、見限ることも大事なんです。」

と彼はいう。

 

彼は、エースのエンジニアであり、人を育てる立場のはずだ。

私は彼に言った。

「いえいえ、人は急には成長しません。ですから……」

 

マネジャーは私の言葉を遮った。

「ここは会社です。当然「投資対効果」を考えるべきです。リターンが得られるならば人材育成もしましょう。でも、見込みのない人に投資するなんて、バカバカしいのもいいとこです。」

「投資対効果……ですか。」

「そうです。いいですか、殆どの研修会社では「研修の投資対効果」は教えてくれます。」

「はい。」

「でも、本当に大事なのは、「人材への投資対効果」ですよ。こいつは伸びるやつなのか、それとも無能なのか。研修なんかの評価よりも、そちらのほうがよほど大事です。」

「……」

「誰でも可能性がある、なんて言うのはやめてくださいよ。そりゃ20年かければ、ある程度は伸びるかもしれませんが、会社はもっと短期で育成できる能力を必要としてます。」

「なるほど。それはそうかもしれません。」

「もちろん、最初は平等に教えますよ、でも1年たったら、だれがダイヤの原石で、だれがガラクタかはわかる。ダイヤは磨き、ガラクタは損切りする。資産運用もそういいますよね。損切り大事、当たり前じゃないですか。」

 

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人は資産、経営学ではそのように習う。

しかし、資産であるのならば、運用できなければ無意味である。

そして、回収の見込みがない資産は手放さなくてはならない。

 

実際、そのマネジャーは、非常にレベルの高いエンジニアを何人も生み出しているが、

逆に何人にも

「もうエンジニアやめたほうがいいよ」

「もっとレベルの低い会社にいきな」

という厳しいことも言っている。そうなると、もう彼は「見込み無し」の人物には一切、時間を使わないのである。

 

人材育成に多くの投資をしたが、効果があまりなかった、と嘆く経営者はたくさんいた。

そのとおりかもしれない。

私は彼の話を聴くうちに、

「上司は部下の育成の責任を持つ」という言説には、一定の留保が必要なのかもしれない、と思った。

 

なお、Googleは、「トレーニングに多くの費用を使っていることを誇らしげに語ることは、そもそも適切な社員を雇えなかったことの証拠にすぎない」と言っている。*1

*1

 

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「もちろん、全ての部下や後輩を育てなければいけない、という責任なんか、どこにもないですよ。」

と、そのマネジャーは言った。

「では、どういう部下や後輩は育てるに値するのですか?」

 

そのマネジャーは即答した。

「育てたくなるやつ、にきまっているでしょう。上司は「育てたいやつ」だけ育てればいいんです。」

「育てたくなる……。」

「そう。」

「すると、「どんな部下、後輩なら、育てたくなる人なのか」を聞きたいです。」

「そうですね、「育てたくないやつ」のほうがわかりやすいですかね。まず、礼儀がなってないやつ。これは一発アウト。」

「ほう。」

「といっても、何も難しいことは要求していないですよ。挨拶することと、ちゃんと連絡を入れること、敬語を使うこと。この3つだけ。それすらできないなら、教える必要はないと思っています。」

「他にはありますか?」

「同じミスを繰り返さないことですね。学習しないやつは教える気が失せます。」

「……。他には?」

「そうですね、最初の1年で、上位50%に入っていることですかね。」

「上位50%?」

「要するに、上半分、てやつです。上位20%は、何も言わなくてもできる奴らですよね。でも、最初からはできない人もいる。」

「はあ。」

「であったとしても、上半分に入れないやつは、「勝とう」とするきもちがないってことです。「勝つこと」にこだわらない人に、貴重な時間は使えない。」

「なるほど。」

「勝とうとする奴に同じ時間を使えば、同じ時間でその何倍もの成果を出しますから。」

 

私は礼を言って、彼と別れようとした。

すると、彼は最後にいった。

「だれでも、会社に入れば育ててもらって当たり前、なんておかしいでしょ。投資に値するところを見せてほしいですよ。そうじゃありまませんか?」

 

私は彼に言った。

「「どうしても性格的に合わないので、育てたくない」って人、いませんでしたか?」

「いるよ、ま、そういうやつは他に行ったほうがいい。」

 

彼は多くのマネジャーの本音を語ったのかも知れない。

会社とは、シビアな場所だな、と思う。

 

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<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第1回テーマ 地方創生×生成AI  言語化の価値とその重要性

2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催します。

【パーソナリティ】
ティネクト株式会社取締役 倉増 京平

顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年は生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。

【ゲスト】
野村圭司氏
一般社団法人インディペンデントプロデューサーズ・ギルド 理事

企業向けの人材開発コンサルティングに従事する傍ら、「可視化の参謀~ファシリテーション・コンサルタント~」として中小企業経営者やキャリア転機にあるミドル世代の想い・悩み・思考・アイデアの整理・言語化・可視化・構造化を通して前進にむけて支援を行っている。


【日時】2025年1月16日(木)19:00–20:30
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(2025/1/8更新)

 

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