こんにちは。株式会社マクニカ、未来事業創造室の金澤です。

マクニカ、といえば半導体・エレクトロニクスの技術商社というイメージを持つ方も多いと思いますが、近年我々が着目している分野の一つが「ロボット」です。

 

例えば、私の手元にある機械は、米国Savioke(サビオーク)社の「Relay(リレイ)」と呼ばれる完全自律型のデリバリーロボットです。

マクニカでは新横浜オフィスの受付にて実際にこのロボットが使われています。

「デリバリーロボット」という言葉はあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、単純に言えば、「自動で目的地までモノを運ぶロボット」です。

 

米国ではすでにホテルなどで導入されており、下のムービーを見ると洗練されたロボットの動きに、驚くはずです。

人にぶつからず、エレベーターにも自動で乗り込み、指示を出すだけで自動で目的地までモノを運ぶ。

Relayは安全で高性能のロボットと認識されており、現場に導入されています。

 

ロボットの登場で、歓迎せざる未来がやってくる?

しかし「ロボットの普及」は本当に歓迎すべき未来をもたらすのでしょうか。

日本のみならず、世界中で疑問を投げかける方は数多くいます。

 

例えば、日経新聞と英フィナンシャル・タイムズは共同でこんなサイトを立ち上げています。

わたしの仕事、ロボットに奪われますか?

ロボットは私たちの仕事をどれほど奪うのでしょうか? 日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズは共同で、どんな職業や業務がロボットに置き換わるのかを簡単に調べられるツールを開発しました。

オックスフォード大学は、「10年で仕事はほぼ半減する」との調査結果を発表しています。

オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」

コンピューターの技術革新がすさまじい勢いで進む中で、これまで人間にしかできないと思われていた仕事がロボットなどの機械に代わられようとしています。たとえば、『Google Car』に代表されるような無人で走る自動運転車は、これから世界中に行き渡ります。そうなれば、タクシーやトラックの運転手は仕事を失うのです。

これらの指摘を見ると、まるで「ロボットは人間の敵」であるかのようです。

 

こうした論調の背景にあるのは、「ロボットがディストピアをもたらす」という有識者の意見です。

例えば「機械との競争」を著した、MITのエリック・ブルニュリフソンは、著書の中でこのように述べています。

ラッダイト運動の支持者たちが一八一一年に自動織機を打ち壊して回って以来、労働者は機械に仕事を奪われるという恐怖心を抱き続けてきた。(中略)

誰もが技術の進歩の恩恵に与れるという法則は、経済学のどこにもない。いや、大半の人が恩恵に与れるという法則すら存在しないのである。経済学を学んだことがない人でも、このことは直感的に理解できるだろう。一部の労働者が機械との競争に敗れ去ったことは、たいていの人が知っている。

また、オランダの歴史家、ルドガー・ブレグマンは著書「隷属なき道」の中で次のように述べています。

AIとロボットが「中流」と呼ばれる人々の仕事を奪う。その結果、富の不均衡は極大化する。

彼らの指摘する「ディストピア」は果たして現実のものとなるのでしょうか。

 

実はロボットは人間と協業してこそ、真価を発揮する

 しかし、ロボット導入の現場を見ると、一概にロボットを敵視する態度には疑問が残ります。

その理由は大きく2つあります。

 

1.労働力は余るどころか、不足する

総務省のデータによれば近い将来、高齢化による深刻な労働力不足が日本に訪れるとされています。

15~64歳の生産年齢人口は2013年10月時点で7,901万人と32年ぶりに8,000万人を下回ったことに加え、2013年12月時点では7,883万人まで減少しており、今後の予測では2060年には4,418万人まで大幅に減少することが見込まれている

(出典:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc141210.html)

たった40年後、2055年には労働力人口は総人口の50%程度、総人口の半数しか労働力とならない時代が確実にやってくるのです。

高齢者が増え、働く人がますます少なくなる時代、不足した労働力は一体どうやって補うのでしょう。

「職が足りない」心配よりも、「働く人がいない」という心配のほうが先にやってきそうです。

 

2.ロボットは人間と補完関係にある

もう1つ、重要なのが「ロボット神話」つまり、ロボットの性能が過剰に信奉されている点です。

実際、現場ではロボット導入で失敗する典型的パターンは以下のようなものです。

・ロボットへの過度な期待

・人がやっていた業務をそのままロボットにやらせようとする

・ロボットを多機能化して何でもやらせようとする

 

残念ながら、ロボットを「人の代替」と考えてうまくいくことはまず、ありません。

それほど、人間の学習能力と、適応力には驚くべきものがあるのです。

 

逆に、ロボットが得意とする領域は、「3D」と言われます。

・Dull(退屈な繰り返し作業)

・Dirty(汚いものを取り扱う作業)

・Dangerous(危険な作業)

ロボットは3Dの仕事を24時間365日、疲れを知らずに、 文句を言わずに、一定の品質で働き続けるのが強みです。

 

3D領域の仕事は、これからの時代「担い手」を見つけるだけでも大変ですから、むしろ「ロボット」は現場で大歓迎されます。

人がやりたがらないことをロボットがやる。

人が得意でやりがいを感じることは、人に任せる。

それが理想的な姿です。

 

Amazonに見る「人間」と「ロボット」のコラボレーション例

Amazonの驚くべきロジスティクス能力には目を見張るものがありますが、その能力の一端をロボットが担い始めています。

昨年の12月に日本で公開された「倉庫ロボット」はその先駆けでしょう。

Amazonが優れているのは、ロボットの特性をよく理解している点です。

 

一般的なイメージでは、倉庫ロボットは「完全なロボット化」を目指し、人を排除することを目的にするように捉えがちです。

しかし、Amazonは「人間」と「ロボット」のコラボレーションをうまく実現しています。

 

倉庫における業務は、棚まで行って、商品をピックアップし梱包する、というものです。

しかし、ロボットがいれば

・「棚まで行く」のは時間のかかる単純作業ですから、ロボットにやらせる。

・「商品を取り出す」のは人間がやる。

「棚まで行く」という負荷の高い労働をロボットに任せ、難しい「商品を棚から取り出す」は人間がやる、と分業が可能になったのです。

 

ホテル業界に見る「ロボット」の活用事例

一方で、ホテルでもロボットとの分業が進みます。

例えば多くのホテルマンは、「接客」の時間ををもっと増やしたいと考えています。それがホテルの本質的な価値だからです。

 

しかし、ホテル業務は「接客」だけで構成されているわけではありません。

時にルームサービスのために、水のボトルを抱えて部屋まで行く仕事もあります。部屋までの往復には10分から15分を要します。

 

であれば「運ぶ」ことはロボットに任せてしまえばよい。

 Relayの開発元である、Savioke(サビオーク)社のCEO、スティーブ・カズンズ氏は来日の際、次のように述べていました。

テクノロジーは貧困を劇的に減らすことに成功しました。200年前は全世界の9割の人が貧困だったが、現在は1割まで減ったのです。

ロボットは、生産性向上のため、そして労働環境の向上のため、人とチームを組むべき存在です。

ロボットが存在しない時代を懐かしむ気持ちはわかります。ですが、人間はより付加価値の高い仕事だけをするべきです

事実、ホテルの現場においてロボット導入は、恐れられるどころか、むしろ歓迎されています。

 

例えば、サンフランシスコのHyatt Place Emeryvilleにおいては、ロボットは「Emery(エメリー)」という名前をつけて可愛がられています。

ホテルのゼネラルマネージャー、Rich Higdon氏によれば「お客様も、従業員にもとても好評」とのこと。

 

我々が「従業員にロボット導入に際しての恐れはなかったか?」と聞くと

「最初、「こいつは何?」という反応があったのは事実だが、仕事の効率が上がり、ロボットと仕事が競合することが無いとわかったので、皆歓迎している」

と言います。

また、フロリダ、West Wing Boutique Hotelにおいても、ロボットは活躍しています。

ホテルのゼネラルマネージャー、Benjamin Tran氏は

「すごいクールなロボットだと思った。ホテルの改装のタイミングで、段差をなくし、エレベーターなどをロボットが運用できるようにした。ロボットは所詮、システムであり、ツールにすぎない。我々がうまく使いこなせるかどうかだ。」

と言います。

 

 

「ロボットだけ」「人だけ」より、「ロボット+人+優れたプロセス」が最強。

ガルリ・カスパロフという方をご存知でしょうか。

彼は15年にわたって、チェスの世界チャンピオンに君臨した、歴史に名を残すチェスプレイヤーです。

 

しかし、それ以上に彼を有名にしたのが、IBMのチェスコンピュータ「ディープ・ブルー」との対局でしょう。

この戦いはほぼ互角でしたが、コンピューターがチェスの世界チャンピオンに勝利する、という歴史的な事件となりました。

 

そのカスパロフ氏が、TEDにて「知性を持つ機械を恐れるな。協働せよ。」という、面白い講演をしています。

 

カスパロフ氏は講演の中で、チェスのフリースタイルトーナメント(人間と機械の混成の大会)について次のように述べました。

グランドマスターや最速のマシンがチームとして出場しましたが勝者はグランドマスターではなくスーパーコンピュタでもありませんでした。

勝ったのはアメリカ人のアマチュアプレイヤー2人が普通のPC3台を同時に操作したチームでした。

効果的にコンピュータをコーチする彼らのスキルが対戦相手のグランドマスターのより深いチェスの知識や圧倒的に格上のコンピュータの計算能力に勝ったのです。

そこで到達した公式はこうです

弱い人間プレイヤー+コンピュータ+優れたプロセスは単体の非常に強力なマシンに勝りますが、さらにすごいのはそれが人間の名人+コンピュータ+劣ったプロセスにも勝るということです。

つまり、「ロボットだけ」「人だけ」より、「ロボット+人+優れたプロセス」が、あらゆる意味で最強だったということになります。

 

ロボットやAIが仕事を奪うなんてウソです。

「ロボット+人」は、我々をもっと豊かにする鍵となるでしょう。

 

 


デリバリーサービスロボット Relay by Savioke

 

(Photo:Erik Levin)