公私混同はしない方がいい。
と言いつつも、仕事とプライベートを完全に切り離すことは難しく、多くの人は常識の範囲内で公私を混同させながらうまくやっているというのが現状だろう。
ただ1つ、絶対に混同してはいけないことがある。それは、「言いにくいこと」への対処の仕方だ。
公私混同というと一般的には業務に私情を持ち込むことだが、ここでは文字通り「”公”と”私”で混同してはいけないこと」として話を進めたい。
言うまでもないことかもしれないが、仕事をする上で「言いにくいこと」が出てきても、それは報告しなければならない。
むしろ仕事で言いにくいと感じることこそ、会社がすぐに対処しなければならない重大なミスで、一番に報告しなければならないことだったりする。
『死ぬほど読書』という本の中で、丹羽宇一郎さんは「嘘のない清い生き方」を自身に課してきたという。そんな丹羽さんが、一度だけ上司に嘘をついたエピソードが書かれている。
当時の伊藤忠商事は、日本で一、二を争うほど、大量の大豆をアメリカから輸入していました。
あるとき、上司から「船会社への早出料、滞船料の精算は終わっているな?」と聞かれました。
本当は数カ月もほったらかしで手をつけていなかったのですが、叱られたくなかったので、とっさに「終わっています」といってしまった。
いった瞬間、「しまった」と思ったのですが、後の祭りです。
支払いには細かい取り決めがあり、それらを全て計算して請求書を出す必要があるため、面倒で後回しにしてしまったとのこと。
ところが、何日も徹夜で慌ててつくった請求書を送った後、船会社のうち、何社かが倒産しそうだという噂が聞こえてきました。
請求した金が振り込まれなければ、会社にとっては大損害です。本当に金が振り込まれるのか、気が気でなりませんでした。
いつも暗澹とした気分となり、酒を飲んでも美味しくない。幸いにも、倒産の噂があった会社は別の会社に吸収合併され、請求金額も無事振り込まれました。
この一件で、私は嘘をつくのは本当に心身に悪いことだと骨身に沁みました。嘘や隠し事は大きなトラブルになりかねない。それに嘘や隠し事がなければ、うしろめたいことは何もない。
常に等身大の自分でいることができ、正々堂々と自信をもって仕事に打ち込めます。
仕事における隠し事が会社にとって良くないのはもちろんのこと、自分の精神にとってもあまりよろしくない。
自分の隠し事や嘘が原因でうしろめたい気持ちで働いたことがある人は、丹羽さんの
「嘘や隠し事がなければ、うしろめたいことは何もない。常に等身大の自分でいることができ、正々堂々と自信をもって仕事に打ち込めます」
という言葉に強く共感するのではないだろうか。
言いにくいことでもきちんと報告して、叱られるべきところでは叱られ、清清しい気持ちで働きたいものだ。
一方、プライベートとなると話は変わってくる。プライベートでは言いたくないことは言わなくていい。それは隠しごとや嘘とは違うし、うしろめたさを感じるようなことでもない。
小学生の頃、両親からこう言われたことがある。
「知りたいことがあったら何でも聞いていいんだよ」
おそらく子どもの好奇心を閉じ込めてしまわないようにという配慮と、興味・関心を持ったことを大事にしてほしいという教育方針から出た言葉なのだろう。
言葉通り、私は何でも質問した。知りたいこと、疑問に思ったことは何でも聞いた。
親は親なりに質問に対して何かしらの返答をしてくれた。ダイレクトに答えをくれることもあれば、回答へのヒントをくれることもあった。
ただ、2つだけ、絶対に教えてくれないことがあった。
それは、給料と選挙の投票内容だった。
今になれば、答えなかった親の気持ちはよくわかる。でも小学生の私には理解することができなかった。
「何でも聞いていいと言っていたのに、あれは嘘だったのか」と親を問い詰め、怒りをぶつけた。
「プライベートなことまで全て答えるわけではない。言いたくないことを無理やり言わせるのは良くないことだ」
親はいたって冷静だった。
決して聞き分けの良い子どもだったわけではない。
それでも小学生の私は小学生なりに「言いたくないことを無理やり問い詰めて聞き出そうとするのは良くなかったな」と少し反省したものだ。
大人になってみると、飲み会などで言いたくないことを無理やり言わせようとしている場面に出くわすことがある。
特に、社会的な立場として上下関係があると、下の立場の人は答えなければいけないような雰囲気に苦しむ。
でも、言いたくないことは言わなくていいのだ。だって、プライベートなんだから。
小学生の私が親に給料や投票内容を無理やり聞くのと同じことを、飲み会で部下にやってしまっていないだろうか。
親は科学の疑問に答えてくれるけれど、投票内容を教えてくれるわけではない。
同様に、部下は上司に対し、仕事の報告をする義務があったとしても、プライベートをさらけ出す義務はない。
立場的に親は子に「言いたくない」意思を伝えやすいが、部下は上司に伝えづらい。
だからこそ、問い詰めるようなことは絶対にしないでほしい。
仕事では言いにくいこともきちんと報告する(報告させる)。
プライベートでは、言いたくないことは言わなくていい(問い詰めない)。
シンプルなことだけど、行動で示すことは結構難しい。それでも、心の持ちようで、少しずつ変わっていけるものだと思っている。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
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保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
【著書】
「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
「LGBTのBです」(総合科学出版、2017/7/10発売)
(Photo:Ann & Peter Macdonald)