「できませんと言っちゃいけない」

そんなことを言われたことはないだろうか。

 

フリーランサーが「できません」と言ったら二度と仕事がこない。

新人社員が「できません」と言うのは生意気だ。

「できません」は逃げであって、「できる」ようにするのがプロだ。

 

わたしは実際こんなセリフを耳にしたことがあるのだが、そのたびに「本当にそうかなぁ?」と疑問を持っていた。
「できない」が許されないのなら、理不尽を言った者勝ちになってしまうじゃないか。

逆に、根拠もなくとりあえず「できます」と言う人間のほうが「やる気がある」と評価されるのも、なんだか納得いかない。

 

「できません」を言わせない、言わない人たち

仕事の場では、「できません」はもはやNGワードのような扱いになっている気がする。

「努力もせずに最初からできないと言うな」

「できないは甘えだ」

そんな都合の良い精神論で、「できない」という発言を封じる人がいる。

 

一方で、できるかわからないにも関わらず、とりあえず「できます!」という人もいる。

「まずはできると言っておいて、あとから勉強すればいい」という考えも、わたしはあまり誠実ではないと思っている。

「できない」を言わせない人と、「できない」を言わない人。仕事を任せる側と任される側の両側に「できる」信奉者がいるから、いつまでたっても過剰労働がなくならないんじゃないだろうか。

 

やればできる!には限界がある

とある飲み会で、友人がユウウツそうに「仕事を辞めないといけないかもしれない」とこぼした。

一体なにがあったのかと聞いてみると、どうやら上司から無茶なノルマをふっかけられたとのこと。「それは無理です」といっても、「やれ」の一言で終わり。

 

友人は怒られるのがイヤで、上司にノルマ達成率の経過を偽って報告していた。

月末にそれがバレてしまうから、退職を考えていたのだ。

 

これはさすがにパワハラの部類に入るだろうが、「できない」を認めない人は案外多い。

理由は「がんばればできる」「俺はできた」「みんなやっている」というよくわからないものが多く、結果的に「とりあえずやれ」という無茶振りになる。

精神論で「できない」を超越できると思い込んでいる人、「できない」を受け入れる度量を持っていない人には、人間は万能ではないという当たり前のことに気づいていただきたい。

 

根拠なしの「できます」は誠実なのか?

反対に、「できませんと言ってはいけない!」「見切り発車でもできると言うべき!」と主張する人もいる。

以前SNSでライブ配信をしたとき、「できる根拠がないのに仕事を受けるのはアリかナシか」という話をした。

 

わたしは「できると言ってできないのは最悪。自信を持てないのならちゃんと断るか、状況を説明して納期を延ばしてもらうなどの対応をしてもらうべき」という意見だった。(これはいまも変わっていない)

だがまわりには、「とりあえずできますって受けたけどできなかった」という経験を持った人が、意外にも結構いたのである。

「まぁなんとかなるだろう」「やってみたら案外イケるかも?」と思うのだろうか。

 

とりあえず仕事を受けて自分を追い込むことで成長したり、その経験を糧にする人がいるのは事実だが、「引き受けたけどやっぱり無理でした」ということも起こりうる。

「できます」と言った人ができなかったら、その人は信用を大きく損なってしまう。謝ってどうにかなるならいいが、大きな損失につながることだってありえるし、損害補償を請求される場合だってある。

 

どうしても自分で担当したい仕事に対して無根拠に「できます!」と言う気持ちもわかるし、時には多少誇張してでも「お任せください」と言うことも必要だが、「できる」と主張することだけが正義ではない。

やり遂げる根拠や自信がないのに安請け合いするのは、それはそれで問題だ。やり遂げられる場合もあるが、それはあくまで結果論である。

 

「できません」を問答無用に否定するより「できる」への変換を

わたしは、もう少し「できません」の許容範囲が広がってもいいんじゃないかと思っている。

「できない」と言われたら、まず理解を示す。理由を聞いて、「できない」が「できる」になる条件があるなら、譲歩を考える(納期や人手、作業環境など)。

 

「できる」自信がないのなら安請け合いをせず、「経験はないけどぜひやらせていただきたい」というふうに誠実に自分の能力と気持ちを伝える。

そうすれば、「できない」を受け入れない精神論者や、自分の実績や目先の利益のために根拠なく「できます」という無責任な人が減って、「できない理由を一緒になくしていこう」という流れになるかもしれない。

 

「できません」に対して「やれ」という人、できる保証がないのに「できる」と言い張る人と仕事をしても、経験上あんまりいい結果にはならない。

お互い誠実に「できるかできないか」を話し合える環境を整えたほうが、仕事はしやすくなるはずだ。

「『できない』がちゃんと受け入れられる社会になれば、理不尽な無茶振りが減るんじゃないかな」なんて思うのだが、いかがだろう。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
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(2025/6/2更新)

 

【プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

 

(Photo:Shane Horan