先日、こんな記事を読みました。

就活は「大学1年生から」始めるくらいでいい(東洋経済オンライン)

こうした状況を打破するには、3年生になってから就職を意識するのでは遅い。12年時から自分自身のキャリアを考えることが必要だ。そんな中、一部の大学や企業、就職関連企業は、12年生向けのキャリア教育に取り組んでいる。

 経団連の採用選考スケジュールに変更はなくても、就活の中身はどんどん変化している。

2018年問題に象徴される少子化の進行で、大学も企業も新たな対応が求められている。就職関連企業はこうした状況を新たなビジネスチャンスととらえているに違いない。今後は、12年生向けや高校生向けのキャリア教育で、さまざまな動きが活発になるだろう。 

記事自体は、インターンシップや企業説明会の現状と、大学でも早期から、場合によっては高校の頃から自分のキャリアを考える必要性について言及した記事ですね。

 

東洋経済の記事ですから、スタンスは極めて企業寄りですし、実際この手の論調は企業側の文脈でも割と頻繁に観測出来ます。

私が働いている業界の合同説明会に、企業サイドの人間として参加したことも何度かあるんですが、インターンや説明会について、ターゲットの学年が段々下がっているという話も直接聞いたことがあります。

 

こういう話を見てつくづく思うのが、

「学生には勉強に集中させてあげてくださいよ」

ということです。

 もう馬鹿らしいくらい当たり前のことなんですが、大学は大学教育の場であって、職業訓練の場でも、就活予備校でもありません。学生の本分は勉強であって就活ではありません。

 

12年時なんか、大学生活での勉強全ての基礎をつくるべき大事な時期でして、そんな時期に就活への余計な時間を取ることに、一体どんな必然性があるんでしょう。

 

こんなこと、今更文章にすることすら恥ずかしい当然の前提だと思うんですが、どういう訳か企業側は、熱心に

「お前らの勉強なんて重要でもなんでもねえから」

というメッセージを出し続けているようにしか思えないんですよ。

 

*****

 

実は私、以前自分が所属していた会社の人事と大喧嘩したことがあるんです。

 

理由は「平日の日中に長々と内定式なんぞやるんじゃねえ」っていう話でして、まともな学生なら卒論やら卒研やらで死ぬ思いをしているであろう時期に、貴重な数時間を愚にもつかない儀式に費やさせるのが、一体企業にとってどんなプラスになるのかって、これ実際に会議の場で口に出したら後で偉い怒られたんですけど。

 

議論は散々紛糾しまして、といっても私が頑張るばかりで、他の人は「こいつは何で、大学の授業程度のことでこんなに怒ってるんだ?」というくらいにきょとんとされていたんです。

結局その翌年以降その会社、会社業績の関係で新卒とるのやめちゃったんであんまり意味なかったんですけど。

 

その時も思ったんですが、結構一般的に、企業の中の人たちって「学生がやってきた勉強」に全く興味ないんですよね。

出身大学やら学部やらは気にするのに、その学部で具体的にどんな勉強をしてきたのか、どんな研究をしてどんな成果を出してきたのかは全く気にしない。

うっかりすると、面接の場ですら、「サークルのまとめ役の経験」やら「ボランティアに行った経験」やら、勉強とは何の関係もないところばかりを得心顔で聞きたがり、肝心の勉強については成績にちょっと言及するだけだったりする。

 

これ、学生にとっては、明らかに

「お前らの勉強なんて社会では役に立たないよ」

「だから勉強なんて真剣にやらないで就活の準備してね」

というメッセージにしかなってないと思うんですよ。

 

研究してる場合じゃねえ!勉強してる場合じゃねえ!ボランティアをやれ!!まとめ役をやれ!!

そういうメッセージ。

 

企業からのメッセージというのは、学生にとってはほぼイコールで「社会からのメッセージ」です。社会に出て活躍している人たちからのメッセージ。そりゃ強烈に響きますよね。

その一方で、例えば

「大学教育の質の低下」だの、

「大学教育崩壊の実態(参照:http://biz-journal.jp/2017/06/post_19598.html)」といった、大学生の知的レベルの低下を危惧した議論もしばしば見られるのだから笑うしかありません。

大学生の知的レベルを心配するなら、まず勉強に集中させてあげましょうよ、って話ですよね。

 

*****

 

本来、知識を身に着けるのはそれ自体尊重されるべきことで、その知識が「役立つかどうか」というのは褒められた質問ではありません。

 

ただその上で、大学で学ぶ知識が直接企業での仕事に役立つかということを敢えて考えると、それは確かに「役立つケースもあるし、役立たないケースもある」としか言えません。

文学部で古文書の研究をしたとして、その知識がIT企業で直接活用できるか、というのは微妙でしょう。

 

結局、リーダースキルとか、コミュニケーションスキルとか、「どう転んでも必要になり、かつ自分たちの経験から評価しやすいスキル」を重視せざるを得ない、という事情は理解出来ないでもありません。

 

 けれど、これは以前から主張していることなんですが、

「大学で学ぶことによって身に着くスキル」

「大学で学ぶ上で必要とされてきたスタンス」というものは必ず、絶対に社会でも役立ちますし、仕事をしていく上で重要になるスキルばかりです。

大学で主体的に、真剣に勉強に向き合ってきた学生って、やっぱり企業でも強いんですよ。

 (参照:東大で何が得られて、それが社会でどう役に立っているか、というのをなるべく具体的に書いてみるhttps://blog.tinect.jp/?p=31334)

 

また、単にヒューマンスキルだけの観点から言っても、

「自分のすべき課題に主体的に打ち込むことが出来た」

「自分の立場を理解して、それに準ずる行動をすることが出来た」

「自分の担当分野で一定の成果を残すことができた」というのは、どれも一般の企業で言えば十分評価に値する内容です。

そこだけ言っても、「学生の勉強」を軽視して良い理由はない。

 

 それに、ちゃんと研究してきた学生に、学んできた内容について話を聞くと、これがすごーーく面白いんですよ。

真剣に考えてきた内容というのは、本当にそれだけで面白い。それが自分の専門外の分野であれば、尚のこと面白い。

 

彼らは皆、それぞれの得意分野をちゃんと持っています。そうした得意分野にかけては、彼らは決して素人ではない、それぞれのフィールドでのエキスパートであって、一面では先輩企業人たちを知識で圧倒しているわけです。

そういう強みをちゃんと自覚していることは、勿論学生の側にもプラスですし、構成員が自信をもって社会生活を送ることが出来るという点で、企業にとってもプラスになると思うんです。

 

 だからこそ、企業は大学教育を軽視するようなメッセージを出すべきではないし、むしろ「学生の間はちゃんと勉強しろ」というメッセージこそ出すべきなんです。

 

*****

 

長々と書いて参りました。最後に、私が言いたいことを簡単にまとめてみます。

 

 ・現状、企業が学生に対して「大学の勉強は重要ではない」というメッセージを出してしまっている事例がとても多いように思えます

・当たり前ですが、学生の本分は勉強です

・単に「社会で役立つか」という話に絞っても、大学の勉強にきちんと向き合うことで得られるスキルは山ほどあります

・企業は、「大学の勉強は大事だよ」というメッセージこそ発するべきです

・手始めに内定式などというしょうもない儀式を平日日中に行うことをやめましょう

 

大体これくらいです。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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(2019/8/30更新)

 

 

 

【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

 

(Photo:Hamza Butt