一人一人の子どもにはそれぞれ個性があってまちまちだが、それでも、親や友達との付き合いのなかで成長していく。

ホモ・サピエンスの子どもは環境にあわせて成長していけるだけの柔軟性を持っていて、自分の置かれた環境に合わせたコーピング(対処行動・処世術)をかたちづくり、心身を破綻させないようにする。

 

ところが昨今、思春期のコミュニケーションや人間関係のなかでドロップアウトしてしまう青少年が後を絶たない。

どうすれば、ドロップアウトしない青少年を育てる事が出来るだろうか?

 

残念ながら、確実にドロップアウトしない青少年の育て方が私にはわからない。

そのかわり、「これをやったらかなり高い確率で駄目な子が育ってしまう」メソッドなら幾つか挙げられる。

ほとんどの子どもは自発的に多くのことを学び、柔軟に成長していくわけだが、要は、それらを妨害するような子育てをやれば駄目な子が育つはずである。

コミュニケーション能力も、人並みの自発性も育まず、才能の芽を潰してしまえば、何のとりえもない、爪弾きに遭いやすい青少年を育成できるに違いない。

 

その際の基本方針は以下のようなものになる。

・どんな素養や長所も伸ばさない。

・どんな短所や弱点も埋め合わせしない。

・年齢にあわせて吸収すべきものを吸収させない。

・経験もなるべくさせない。

・自発性をなくしてしまうか、自発性が暴走するように成長させる。

・フィジカル面でも、成長や発達はなるべく妨げたほうが良い。

これらを実行さえすれば、その子は何の才能も開花させず、弱点をカヴァーしないままになりやすいだろう。

また、幼児のごとき暴君性を身に付けたまま社会に出るか、正反対に、なんにも自発性も持ち合わせないまま社会に出ることになるだろう。

 

これから示す幾つかのtipsは、私が無い知恵を絞って考えた、『駄目な子育成サジェスチョン』である。

確実に駄目な子を育てたいと祈っている人の参考に、あるいは駄目じゃない子を育てたいと願っている人の反面教師になればいいなぁと思う。

 

頑張った時には、とにかく褒めるな!

子どもが頑張って何かをやり遂げた時には、褒めてはいけない。

褒めたらいい気になって長所を創り出してしまうかもしれないし、「自発的に努めて成長する子」になってしまうかもしれない。

社会的に肯定されそうなことや、友達から喜ばれそうなことをやった時にも、親が褒めずに怒ってみせれば帳消しに出来る。

 

「何をやっても親に評価されない」という経験は、長所を踏みにじり、自発性を殺す方法としては強い部類に入る。

子どもがテストで99点をとって帰ってきた時などは、「100点を取らなきゃ駄目だ」と冷厳に言い放とう。キーワードは、「いくら頑張っても無駄」。

子どもが取り組んでいる事を見つけては貶めよう。

 

それから、失敗した時には厳しく叱責する事をお忘れなく。失敗から学習する隙を与えないよう、情緒的にただただ厳しくいこう。

「100点を取るのが当たり前、そうでなければ厳しく叱責される」と小さい頃から刷り込んでおけば、トライアンドエラーが出来ず、自分にも他人にも厳しい子に成長しやすく、自己肯定感もさっぱり育まれないだろう。

 

子どもが興味を持った事はさせるな!子どもが興味を持たない事をさせろ!

子どもが自然に興味を持った事は、将来、才能が開花してしまう可能性があるので、さっさと芽を摘んでおこう。

かわりに、親が良かれと思ったもののなかで、子どもが泣いて嫌がるものを習いに行かせれば、伸びるものも伸びなくなる。ピアノよりお絵かきに興味のある子にピアノを強制したり、サッカーより読書が好きな子にスポーツ塾に通わせたりすれば効果的だ。

前述の「とにかく褒めるな!」メソッドと組み合わせれば、まかり間違って才能を開花させてしまう可能性を最小限に出来るし、好奇心を潰しやすい。

 

欲しいものは何でも与えろ!我慢させるな!

努力できない子に育てるだけでなく、我慢のできない子にすることも不適応を促進する。

『子どもを不幸にするいちばん確実な方法は、 いつでも、なんでも手に入れられるようにしてやることである』とはルソーの言だが、何でも与えて、我慢させずに育てれば、小さな暴君をこしらえる事が出来る。

自分の欲望を我慢するすべを知らない子になれば、小学生時代から嫌われ者になれるし、中学生時代以降も前途多難だろう。

なお、食べ物の分野でもこの方法は効果的だ。

ファーストフードやジャンクフードなどを我慢させずに食べさせ、そうでない食べ物を嫌うに任せておけば、甘くて脂肪分が多く、便秘になりやすい食物ばかり食べるようになるだろう。

健康面で将来の芽を潰すという点では、食習慣を欲しいがままにしておくことには意義がある。

 

日常生活に関わる事は、親のアナタが全部してあげよう!

親バカを子どもに押しつけまくって、着替えも登校準備も全部やってあげるのも良いかもしれない。

中学生になってもママに制服のボタンをとめて貰っている子は、修学旅行の時にどうなるだろうか?

思春期に入る頃に体得していて然るべき生活技能をマスターしていない子は、あちこちで苦労するだろう。

「子どものため」をオーバーヒートさせて、なにもかも「してあげる」毎日を積み重ねれば、子どもの技能習得も自発性の獲得も大いに遅れる。

 

子育ての放任に関して

子育てを放任すると子どもが育ちにくくなると言われているし、だいたいそのとおりだが、放任しているだけでは子どもが親代わりの誰かを勝手にロールモデルにし、そこから学習し始めてしまうおそれがあるので注意が必要。

抜け目のない子どものなかにはと、案外どこかで学習のとっかかりを見つけ、そこから学び始めてしまうタイプもいるため、人間関係はできるだけ制限しよう。

また、いわゆるネグレクトは児童相談所にも目をつけられやすく、子どもが死んでしまうリスクもあるので、余計な干渉と、閉じ込めのほうが駄目な子育成としては確実性がある。

 

子どもがまずい事をやったら放置するか責任転嫁しろ

良いことを評価しないだけでなく、やってはいけない事を叱らず放置しておくことによっても、将来の不適応が促進される。

たとえば、子どもが人の持ち物を盗んだ時も叱らず、「盗まれた奴が間抜けだ」と笑っておけば、それにふさわしい倫理観がインストールされる。

また、子どもが他人に迷惑をかけて、親として(警察などに)呼び出された時にも、あくまで他罰的に、とにかく責任を認めず責任転嫁に終始しておけば、子どもの倫理観を混乱させやすい。

思春期になれば、子どもも親の倫理観がずれていたことに気づきはするだろう。

しかし、気付くのが遅れるほど倫理観の土台は危うくなる。子どもの倫理観の土台をグラグラにする手段として、親の倫理観が滅茶苦茶であることの重要性は高い。

 

理不尽に曝し続けよう

あなたの情緒がどういう時にどう変化するのかを学ばせてはいけない。キーワードは「理不尽な感情」。

たとえばなんの理由もなく唐突に殴ったり、逆になんの理由もないのに優しくされたりすると、子どもは情緒的に混乱する。

「何をすれば怒られやすいのか」「何をすれば優しくされやすいのか」の法則性が掴めない状態が続くにつれて、子ども自身にも理不尽でアンバランスな情緒が根付いていく。

現在の世の中では、理不尽な振る舞いや情緒は全く歓迎されないため、ただそれだけで大きなハンディたり得る。

駄目な子を育てるにあたって、情緒の混乱はかなり優先順位の高いファクターだ。

 

同年代の子から引き離せ!

子ども時代のコミュニケーションや友達関係は、思春期からいよいよ高度化していくコミュニケーションと人間関係の土台をつくっていく重要なプロセスなので、これを妨害しておけば、コミュニケーション不全な思春期に突入する確率は高くなる。

相手の思惑が読めず、ちゃんとした喧嘩も出来ず、共通の話題も持てないようにしておけば、その子にとっての学校は、じきに針の筵になるだろう。

具体的には、一人の稽古事、お受験、(完全に独り遊びの)テレビやゲーム、などがお勧めだ。

友達と一緒に遊ぶだけでなく、友達と一緒に勉強したりしても人間関係を学習してしまいかねないので、気の利いた塾は選ばないこと。極力一人で、部屋に籠もりっきりが望ましい。

 

まとめ

子どもが才能を開花させ、社会に適応していくための条件は子どもそれぞれによって違う。

とはいえ、最低限のコミュニケーション能力・友達付き合いの経験・情緒的な安定性などは、ほとんどの人の社会適応を左右するファクターであり、それらを度外視したまま思春期を迎えてしまうとドロップアウトする確率は非常に高くなるだろう。

そのことを念頭に置いたうえで、「駄目な子が確実に育つ方法」の基本方針をもう一度振り返ってみよう。

・どんな素養や長所も伸ばさない。

・どんな短所や弱点も埋め合わせしない。

・年齢にあわせて吸収すべきものを吸収させない。

・経験もなるべくさせない。

・自発性をなくしてしまうか、自発性が暴走するように成長させる。

・フィジカル面でも、成長や発達はなるべく妨げたほうが良い。

どんな子どももスクスク育つ、万能の子育てメソッドなんて存在しない。

しかし、ほとんどの子どもが避けたほうが良いメソッドなら、いくつも存在している。

将来、私が子育てに回った時、はたして私は、これらの”地雷”をちゃんと回避できるだろうか。この文章を読んだ数年~十数年後の私は、何を考え、何を思うのだろうか。

 

――『シロクマの屑籠』セレクション(2006年7月3日投稿)より

 

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【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。

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ブログ:『シロクマの屑籠』

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(Photo:Amos)