先日読んだ本で大変勉強になったものがあったのでご紹介しよう。先崎学九段の「うつ病九段」である。
本書は筆者である先崎学さんがうつ病になる事からスタートし、その後回復するまでの過程を極めてわかりやすく記述した本だ。
僕も一応医者であり元同僚にもうつを発症した人がいたので、多少はうつについて知っているつもりではあったのだけど、恥ずかしながらこれを読むまでうつ病の事を何もわかっていなかったといっても過言ではない事がわかり、愕然としてしまった。
それぐらいに衝撃的な本なので、ぜひ皆様も読まれる事をオススメする。非常に読みやすいので、たぶん誰にでも読めるはずだ。
うつ病は決断力が落ち、退屈を感じなくなる病気
先崎さんによると、うつ病になるとこんな感じになるのだという。
「うつ病の朝の辛さは筆舌に尽くしがたい。あなたが考えている最高にどんよりした気分の10倍と思っていいだろう。」
「まず、ベットから起きあがるのに最短でも10分はかかる。ひどい時には30分。その間、体全体が重く、だるく、頭の中は真っ暗である。仕方がないのでソファに横になるが、もう眠ることはできない。ただじっと横になっているだけである。」
「頭の中には、人間が考える最も暗いこと、そう、死のイメージが駆け巡る。私の場合、高い所から飛び降りるとか、電車に飛び込むなどのイメージがよく浮かんだ。」
「つまるところ、うつ病とは死にたがる病気であるという。まさにその通りであった」
このような、だるさや希死観念といった、うつ病の代表的なイメージに関しては、僕もなんとなく漠然とうつ病というものの印象として持ってはいた。
ただ本書が極めて魅力的なのは、このイメージに肉付けする形で、うつ病がスタートしてから回復するまでの間に、ちょくちょくと先崎さんの細かいエピソードが挟まれている部分にある。
そしてこれが医学書にもあまり載っていない、うつ病の非常に大切な部分が書かれているのである。
例えば、冒頭で先崎さんが体調不良で将棋の研究会の中止を申し出ようとするシーンがあるのだけど、この中止の告知をするのがエラいキツかったのだという。
LINEで一本連絡をいれるだけにもかかわらず、その決断がつかず、10分や20分、ひどいときには一時間以上も、ただそれだけの事で悩み続けてしまうのだという。
なんでこんな事になってしまうのかというと、うつ病になると”決断力が著しく低下してしまう”ようなのだ。
例えば、うつ病患者が朝起きられないのは、シンドイというのもあるのだけど、朝起きるという”決断”をするのがまたエラい苦しく、「よーし1,2,3で起きるぞ」という試みを何十回も延々と繰り返して、鉛のような身体を動かさなくてはいけないという部分も大きいらしい。
つまり、うつの人が朝起きられないのは、だるさ+決断力の低下のダブルコンボがあるからなのである。こんな状況なら、確かにというか朝起きるのは相当に苦しいだろう。
決断力の低下エピソードとしてはその他にも、例えば先崎さんはうつ病罹患中、お昼ご飯を食べようとラーメン屋に入ろうと”決断”する事がエラくシンドかったという事を語れていて、これにも僕は相当に驚いてしまった。
確かに僕もお店のチョイスに迷うことはあるけれど、まさかうつ病になるとお店を選ぶ決断をする事すら苦痛になるとは考えもしなかった。
決断とは健常人の行いであったのかと、この本を読みながら、何度も何度も目が覚めるようなハッとする気づきを与えられた。
なお、解決策として先崎さんは「コインを投げて表ならお店に入る」という折衷案を採用し、決断の意思決定コストを低減させていたのだという。
その他に僕が驚いたエピソードとしては、先崎さんが闘病中に詰将棋をやってみたところ、健常だった頃はスラスラ解けた7手詰めが全く解けず、愕然とした事があった。
それどころかその後、3手詰めまでレベルを落としても、ギリギリできるかできないかぐらいだと判明し、酷く落ち込んでしまったのだという。
私達は、基本的には一度できるようになった事は大抵の場合、その後ずっとでき続けるものだと思っている。しかしうつ病になると、将棋のプロだった人が、将棋ができなくなってしまうのだ。
こんな事になったら、そりゃ絶望するだろう。世を儚んで、もともとあったうつ病由来の希死観念と相まり死にたくなる気持ちもわかろうというものである。
もともと出来てた仕事が完全にできなくなる→稼げない→貧困妄想の連鎖に、希死観念のコンボが加わったら、うつ病患者が自殺に走りたくなってしまうという傾向が強いのも当然だろう。
僕だって、明日から全く診療ができなくなったり、モノが書けなくなったりしたら、ちょっと先行きが不安になりすぎて、のほほんと生きていられる自信がない。
うつ病、苦しいんだなぁ。
目に見えにくい、想像できないものを理解するのは非常に難しい。
僕もうつ病が朝起きるのが大変だという知識は持ってはいた。けれど、こう具体的なエピソードと使う能力を付記して書かれると、実のところ自分は全くといっていいほどにキチンとうつ病の事をイメージできてなかったのだな、と改めて「百聞は一見にしかず」という言葉の強さを実感してしまった。
いや実際は見てはいないのだけど、この本はまさにうつ病に関しての「一見」に相当するぐらい、とてつもなくリアリティに富んだエピソードが満載なのだ。
よく心無い人が「うつ病なんて甘え、心の病などない」と言っていたりするけど、まあ個人的にはこういう言葉を発してしまう人の気持はわからなくもない。
人間、自分が実際に体験していない事は理解ができない。この手の言説は、理解できない事をさも理解したかのような口調で語るよりかは、まだ正直といえなくもない。
足を折った人なら、その痛そうな姿や松葉杖を使う姿で同情してもらえる余地があるかもしれない。
けど休んでも永続的にだるさが取れないとか、決断ができないというのは外から見えにくい分だけ、余計に同情してもらえるチャンスがない。
しかし骨折と同じく、うつ病というのは誰しもがなる確率を持った病でもある。
この本を書いてくれた先崎学さんにしたって、健常でご活躍されていた頃を知っている身からすると失礼かもしれないけど、とてもうつ病になりそうなキャラクターだとは僕は全く思ってなかった。
足が折れた人には同情できる人も、うつ病やアル中には「甘え」と言ってしまうのは、結局のところ人間は、理解できないものに対して妙に厳しくなりがちだという事の裏返しでもある。
同じ人間である限り、いつだって自分も当事者足り得るのだけど。
そういう意味では、僕は皆様もぜひこの本を読んでうつ病について「百聞は一見にしかず」という言葉の重みを実感してもらいたいな、と思う。
あなたもそうだけど、あなたの大切な人がうつ病になってしまった時、この本を読んで得た知識は、きっとものすごく役に立つだろうから。たった一冊の本を読むだけで、未来が変わることもありえる。知は力なりというではないか。
先崎さん、素敵な本を書いてくれて、ありがとう。
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