最近、『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』(山本昌作著/ダイヤモンド社)という本を読んだのです。

HILLTOP株式会社(以下、ヒルトップ)は、1961年創業の「山本精工所」を前身としています。

もともと、自動車メーカーの孫請けだった油まみれの鉄工所が、著者たちの試行錯誤のすえに、「多品種単品のアルミ加工メーカー」になったのです。

 

この本の最初に載っている本社工場のカラー写真をみて、僕は驚きました。

えっ、これ、本当に「鉄工所」なの?

明るい色調の機能的できれいなオフィスに、ピンクや紫、オレンジの柱にピカピカの床のゆったりとした清潔な工場。

この本では、どのようにして、ヒルトップは変わっていったのか、そして、何を目指しているのかが熱く語られています。

 

日本は、人口が減っていく時代を迎えており、高度成長期のような大量生産のニーズは少なくなっています。

そこで、ヒルトップでは、大量生産品(量産部品)の扱いをやめ、単品ものに特化したのです。

精密機械、医療機器、航空機部品、自転車部品、マイクスタンドなど、アルミ加工製品なら、どんなものでも単品、少量で加工しています。

 

現状は、製作数1~2個の多品種単品が受注全体の8割、月に3000種類をオーダーメイドでつくっているそうです。

それで商売になるのか?と思うのですが、ヒルトップでは、徹底的な生産プロセスの合理化を行って、収益をあげられるシステムをつくっています。

普通の鉄工所の場合、就業時間の8割が機械の前、2割がデスク仕事ですが、ヒルトップではこの割合を逆にしました。昼間は、デスクで人がプログラムをつくる。人が帰った夜中に、機械に働いてもらいます。

これが、私たちが「ヒルトップ・システム」と呼ぶ生産管理システムです。

ヒルトップでは、ひとりの職人の勘に頼るのではなく、技術をデータベース化して、誰でも工作機械を使えるような「システムの構築」で仕事を極限まで効率化しているのです。

 

もちろん、ここに至るまでには紆余曲折があって、最初に自動車メーカーの孫請けをやめたときには、「それで会社を続けていけるのか?」という不安や周囲の反発もあったそうです。

いままでどおりにやっていけば、とりあえず、しばらくは安泰なのに、と。

 

そこで、儲かりそうもないような「多品種単品生産」に目を向けたことが、ヒルトップの成功につながりました。

他のメーカーが「そんな小さな仕事は、いちいちやっていられない」と思うようなところに、ヒルトップは可能性を見出したのです。

商売上の魅力というよりは、「ずっと同じものを作り続けるのは面白くないから、新しいものにチャレンジしていきたい」という思いがあったそうです。

 

この会社のすごいところは、目先の利益よりも、新しいこと、面白そうなことをやっていきながら、それを結果的に仕事にもつなげていることなのです。

この本を読んでいると、「これからの製造業」というものについて、すごく考えさせられます。

町工場に、完成品(見本となる製品)を見せ、「この製品と同じものをつくってほしいのですが、できますか?」と訊くと、たいていは「できる」と前向きな返事が返ってきます。

しかし、「では、お願いします」と完成品だけを置いていこうとすると、途端に顔色が曇る。「いやいや、これを置いていかれても困ります。図面をください」と。

町工場の多くは、図面があるものはつくれるけれど、図面がないものはつくれないので、完成品よりも図面をほしがります。

しかし、ヒルトップは違います。

図面も完成品も、どちらもいりません。

「こんな感じのものがつくりたい」「こんなことを考えている」「もっと、こうなってほしい」というイメージだけで十分です。

ヒルトップは、依頼されたものだけでなく、みずからが知恵を出しながら、新しいものを創造する。我々が目指しているのは、「サポーティング・インダストリー」であり、自立した会社として、脱下請・脱価格競争を推進することです。

製造業の最終目的は「ものをつくること」ではありません。

これからの製造業は「製造サービス業」でないと生き残れません。なぜなら、「ものづくりをしない製造業」が生まれる可能性があるからです。

ヒルトップでは、お客様の困りごとを解決するため、オーダーメイドの商品開発を展開しています。

上流(ヒアリング・構想デザイン)から、下流(稼働・アフターケア)まで全工程にわたってすべて対応する、極めてめずらしい鉄工所なのです。

「ものづくりをしない製造業」って、ものすごく矛盾している言葉のような気がするのですが、これを読んで、僕はこのエントリを思い出したのです。

今の時代、「ふわっとした仕事を具体的なタスクに落とし込むスキル」だけで十分食えると思う(Books&Apps 2018/7/6)

 

「設計図通りにものを作る」仕事であれば、これからは、ロボットやAIのほうが、人間よりずっと「良い仕事」をするはずです。

ロボットやAIは、夜中ずっと働いていても、文句ひとつ言わないし。

 

そんななかで、人間がロボットに勝てるのは、あるいは、製造業どうしで他社と差別化できる、という分野は、こういう「漠然としたイメージを形にする仕事」ではないかと思うのです。

こういう仕事って、よほど大きな規模の注文でなければ、「まずはデザイナーや設計士に依頼して設計図をつくってから来て」って、ほとんどの製造メーカーでは門前払いされるでしょう。

「設計図ができてからがうちの仕事だよ」って。

 

だからこそ、ヒルトップに「やりたいことがあるのだけれど、どうしていいのかわからない」という人や会社から、仕事が集まってくるのです。

 

これからの製造業で生き残る道は、誰かの「こんな感じのものがつくりたい」を簡単かつ的確に実現することにあるのではないでしょうか。

 

僕はこれを読んで、すごく「腑に落ちた」気がしました。

ああ、こういうことをずっと前からやっていた人が、スティーブ・ジョブズだったんだな、って。

 

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安達裕哉(ティネクト株式会社 代表取締役社長)
Deloitteで12年以上にわたり大企業から中小企業まで業務プロセス改善コンサルティングに従事。近年はAIによるコンテンツ作成を専門とする。著書に『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』『頭のいい人が話す前に考えていること』など。


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お申込み・詳細
こちらのイベント詳細ページ をご覧ください。

(2026/6/26更新)

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

(Photo:Asian Development Bank