戦略的な転職と、その転職のノウハウをコンテンツにした副業で注目されている、motoさんの著書『転職と副業のかけ算』(moto著/扶桑社)を読んでいて、なんだか「引っかかった」ところがあったのです。
それは、motoさんが、短大卒という学歴のため、大手企業でエントリーすらさせてもらえず、門前払いを受けていたときにとった手段の話でした。
そこから自分なりの工夫が始まります。一度会ったことがあるかのような親しい感じで電話をしたり、代表電話のときだけ大学の職員を装って人事に繋いでもらったり、社長に直接メールを送ったり……。
社長のメールアドレスは当然知らないし、面識もありません。
しかし、就職活動中にもらった社会人のメールアドレスを見ていると、名字と名前、ドメイン名で構成されているパターンが多くあるため、いくつかのパターンを作って社長宛てに送ってみたのです。
「突然メールを送るご無礼をお許しください。どうしても御社で働きたく、勝手ながら履歴書を添付させていただきました。もし可能であれば人事に繋いでいただけないでしょうか」
この方法は非常に有効で、大手IT企業の社長などから返信をもらい、人事を紹介してもらえました。
こうした行動を続けるうちに社長がじかに面接をしてくれたり、人事に「直接連絡してくる就活生は珍しい」と面白がられてエントリーさせてもらったり、「高卒扱いでもよければいいよ」と、特別に選考を認めてくれる会社が出てきます。
せっかく掴んだチャンスは逃せない。僕は四大卒に負けないようにと、自分なりにプレゼン資料を作って面接官に配ったり、自分でサイトを作って紹介するなど、あらゆる手段を用いて自分をアピールしたのです。
最初に読んだときには、motoさんの行動力に圧倒されたんですよ。
成功する人というのは、ここまでやるものなのか、と。
でも、あらためて考えてみると、これって、相手の社長さんは、よくリアクションしてくれましたよね。
だって、全く面識のない就活生が、その会社の他の社員のアドレスから類推して、いきなり社長である自分にメールを送ってくるんですよ。
大きな企業の社長ともなれば、そういう「よく知らない人からのアプローチ」に慣れているのかもしれませんが、「ちょっと怖い」「なんだか気持ち悪い」と僕なら思います。
そのメールに、どんなに熱い思いがつづられていても、直接会うことにはためらいます。
もちろん、こういうやり方は百発百中ではないのでしょうし、拒絶されても諦めずに数多くあたってみたから、うまくいった事例があったのでしょうけど。
『苦しかったときの話をしようか』(森岡毅著/ダイヤモンド社)は、経営危機に陥っていた、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字回復させた著者が、自分の子どもに向けて書き溜めていたという「よりよく働くためのアドバイス」を書籍化したものです。
本来は外に出すつもりはなかったそうなのですが、他の原稿の相談にきた編集者の目に留まって出版することになったのだとか。
同じ著者の『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』は、マーケティングとアイディアの力を思い知らされ、また、読み物としても面白かったので、この『苦しかったときの話をしようか』も手にとってみました。
著者の森岡さんは、「自分も周囲もこれが売れるとは思えなかった」にもかかわらず、海外の本社から押し付けられた新ブランドのマーケティングの担当にされ、予想通り、その商品は失敗してしまいます。
そして、押し付けられた仕事にもかかわらず、その商品の担当になった人たちは、失敗の責任をとらされることになってしまうのです。森岡さんもクビになる寸前だったそうです。
「自分が信じていないものを信じさせなければならない断絶」は、形容しがたい苦しさだった、と森岡さんは述懐しています。
その経験から、森岡さんは「結果を出さないと誰も守れない」ということを学んだと仰っています。
ならばリーダーとして成さねばならないことは何か。それは、誰に嫌われようが、鬼と呼ばれようが、恨まれようが、何としても集団に結果を出させることである。
自分の周囲の仕事のレベルを引き上げて、成功する確率を上げることに、達すべきラインを踏み越えることに、一切の妥協を許さない。そういう厳しい人にならねばならないということだ。
私は、ナイスな人であろうとすることをやめた。森岡さんってどんな人? と聞かれた部下や周辺の人が、もうどれだけ罵詈雑言を述べたってかまわない。
ただ一言、「結果は出す人よ」と言われるようになりたい。人格の素晴らしさで人を惹きつける人徳者である必要もない。ただ「ついて行くと良いことがありそう」と思ってもらえる存在であれば良い。
結果さえ出れば、彼らの評価を上げることができるし、彼らの昇進のチャンスも獲得できるし、給与もボーナスも上げることができるのだから。大切な人たちを守ることができるのだ!
僕はこれを読んで、森岡さんの「覚悟」の凄まじさと同時に、これまで一緒に仕事をしてきた「厳しいけれど、結果を出す人たち」のことを思い出さずにはいられませんでした。
彼らについていって大きく成長した人もいれば、ドロップアウトしていった人もいました。
今の世の中の一般的な考え方としては「結果を出すために、部下や同僚に厳しい要求をする」というのは、「パワハラ」と受け止められやすくもあります。
正直、「そこまでして結果を出すこと」の是非については、読みながら、僕は心のなかで「保留」していました。
このmotoさんと森岡さんの話、あんまり関連がない、と思われたかもしれません。
あるいは、特別な才能を持った人だからこそ、あてはまる事例なのではないか、と。
motoさんの事例については、「そんなことをしたら、社長は迷惑だろうし、かえって嫌われるのではないか」、森岡さんの言葉には「その成果主義を突き詰めれば、ついていけなくなって大きなダメージを受ける人間が出てくるのではないか」と僕は思います。
それはあくまでも、そんなに仕事が好きでも、大きな野心があるわけでもない、僕のモノサシでの判断、なんですよ。
世の中で、組織を動かすような人というのは、「メールアドレスを類推して、自分に直接アプローチしてくるような若者」に見込みがあると着目し、「結果を出すためなら、犠牲を払うことも厭わない」と決意している。
要するに、僕とは違うモノサシで、世界を見ている(あるいは、見ようとしている)人たちなんですね。
そして、そういう人たちにアピールする、あるいは、同じ世界で生きていこうとするならば、自分の「いきなりメールしては失礼」とか「仕事よりもプライベート」というモノサシに相手を合わせようとしてもムダなのです。
どちらが正しい、というのではなくて、「世の中には、自分とは違うモノサシで世界を見ている人がいる」ということを理解しなければならない。
もし彼らのようになりたい(あるいは、一緒に仕事をしたい)のであれば、「相手がどういう価値観を持っているか」を知って戦略を立てるべきなのです。
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【著者プロフィール】
著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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