ネットの記事、SNSの投稿で私が好きなのが、「試してみた」「やってみた」系だ。

 

具体的には、この手のコンテンツで老舗なのはロケットニュースだろう。

最近では、メディアではなく、個人の「試してみた」も面白い。

容易に発信ができるようになったことの恩恵だ。

もちろん、発信しているのは個人だけではない。

企業の公式アカウントも「試してみた」で楽しめるコンテンツを用意している。

「新しいものをすぐ試してみる人」のことを「人柱」なんていうスラングもある。

ただ、チャレンジ精神旺盛なその人達がいなければ、世の中はつまらないものになってしまうだろう。

 

いつの時代も、フロンティアはそうした「人柱」が開拓してきた。

 

 

前職のコンサルティング会社でも「試してみた」は頻繁にやっていた。

とくに実験がよく行われたのが、セミナーと商品開発だ。

 

例えば、新しいセミナーの立ち上げ。

最初は、社内や気心知れたお客さんへ勉強会のような形をとって「試しに」提供する。

そこでアンケートなどを使って受講者の反応を取る。

それをもとに少しずつ改善を繰り返しながら、完成度を上げつつ、最終的には公開セミナーとして、対象を広げていく。

 

また、新しいコンサルティングツールも同様だ。

まずは「無償でもかまわないので」と、実験に付き合ってくれるお客さんを探す。

そして、フィードバックをもらいながら、商品の質を高める。

ある程度の実績とデータが溜まったところで、販促をうち、一気に拡大する。

 

こうした「試してみた」を、やってのけてしまう能力を、私は「テスト力」と呼んでいた。

「テスト力のある人」

「テスト力のある組織」

は、フットワークよく、新しいことを次々と生み出し、学習能力が高い。

 

ホンダの「試す人になろう」というCMは、そんなことを主張している。

「何度もやり直して」

「ずっと気になって」

「たまにボーッとして」

「しつこく相談して」

「とことん心配して」

「自然と集まって」

「いつも体で考えて」

「ちょっと困って」

「つい盛り上がって」

「すぐ無口になって」

「結局またやり直して」

「でもきっと」

「失敗するたび未来に近づく」

「試す人になろう」

 

 

組織においても「テスト力」を重視することは、すでに経営戦略の一つとして確立している。

 

例えば、著名な戦略系コンサルティング会社、ボストン・コンサルティング・グループは、こうした「テストを中心にする」経営の戦略を、「アダプティブ型戦略」と名付けている。

アダプティブ(適応)型戦略

アダプティブ型戦略をとる企業は、多くの新しいアプローチを試して、最も有望なものを拡大展開するサイクルを繰り返すことで、継続的にビジネスのしかたを変化させていきます。アダプティブ型の先進企業は、より迅速かつ効果的にこうした適応を繰り返すことで競合企業を引き離しています。

(BCGヘンダーソン研究所)

 

金沢工業大学教授の三谷宏治氏は、著書「経営戦略全史」の中で、「試行錯誤型経営」を「経営戦略の最後の答え」としている。

「やってみなくちゃ、わからない。「試行錯誤型」経営が最後の答え」

アマゾン、グーグル、アップル、インディテックス(ZARA)といった先進企業(やアメリカ軍)は、そんなものを待つまでもなく、自らのイノベーションスタイルを(必死で)確立し、そこを突き進んできました。

そこで、わかったのは「やってみなくちゃ、わからない」ということ、そして、どう上手く素早く「やってみるか」、そしてそこから素早く「学んで修正して方向転換するか」という力こそがすべてだ、ということでした。高速試行錯誤の力です。

ニーズも環境も、日進月歩で変化する世の中では、「試行」「学習」「早い適応」こそが、究極の競争力となり得る。

それを表現しているのが「アダプティブ戦略」なのだろう。

 

生物学者のリチャード・ドーキンスは「適応力」こそ、生物進化の原動力であると、提唱した。

どのような生物個体であっても、「試すことが大事」なのは、同じだ。

逆に言えば「不適応」=「滅び」で、状況に適応できなければ、淘汰が待っている。

 

このように言うと、

「いやいや、「試す」なんて、誰でもできるだろう」

という方もいるだろうが、

「試せる」というのは、立派な能力で、それを持つ人はそれほど多くない。

 

人から「この本いいよ」と勧められて、すぐ買って読む人は、それほど多くない。

「新しい趣味」を積極的に試す人は、ごく少数。

「とりあえず書いてみる」より、何を書こうか迷って時間を過ごす人のほうが多い。

「試しに始めてみる」より、「やる気がでない」という人のほうが多い。

「転職前に副業やアルバイトで試してみる」よりも、いきなり転職してしまう人のほうが多い。

 

「試す」のは、面倒なので、メリットがあるとわかっていても、やらない人が多いのだ。

逆に言えば、「試す」を習慣化するだけで、巨大なアドバンテージが得られる。

 

 

事実、企業の経営戦略においては、「試せる力」が重要な能力として、扱われている。

ボストン・コンサルティング・グループによれば、アダプティブ戦略実行のために必要な能力の1つは「実験する能力(TheAbilitytoExperiment)」だ。

 

Amazonに高値で買収されたザッポスのような「ニーズ調査のため、試しにハリボテのサイトで売ってみる」で、大成功した会社もある。

 

いま、致命的なのは

「知らない」「わからない」「やったことがない」ではない。

世の中は、どうせ、誰も知らないし、わからないし、やったことがないことが大半なのだ。

 

その代わり、

「試さない」「変わらない」「消極的だ」「やる気が起きない」「新しいことはしたくない」

が、致命的となる。

 

だから、「試す能力」こそ、大事にし、育て、発揮させよう。

それが今の時代の「最適解」なのだ。

 

 

本記事は、月1万円から「今すぐ試せる」、スタートアップ企業向け電話代行サービス【fondesk】のスポンサードによって制作されています。

 

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