最近、インターネット上でデータや統計を色々と参照しつつ仮説などを提示する人をみるようになってきた。

 

これ自体は非常に喜ばしい事だと思う。

単なる個人の感想ではなく、なんらかの根拠を元に推論を展開するのは現代科学の基盤的な行いであり、極めて発展性があることだからだ。

 

ただ・・・その一方でこれらを色々と誤った方向に使ってしまっている人が多いのも、また事実である。

 

データや統計は、誰も知らなかった事実をあぶり出す事にも使えるのだが、一方でとんでもないウソをでっち上げられるのにもしばしば使用される。

 

この差が何なのかを学ぶために一から全てを学ぶのは物凄く大変だし、ちょっと効率が悪い。

そんな事をせずとも、ちょっとした思考のクセのようなものを持つだけで、これらに振り回される率は著減する。

 

というわけで、今回は数学を使わない統計の読み方のコツのようなものを書いていこうかと思う。

 

もっともらしい意見には注意しよう

男性劣化社会という本がある。スタンフォード大の名誉教授である著者、フィリップ・ジンバルドーはこの本の中で大胆にも「現代の男性は以前と比較して”劣化”している」と宣告する。

<参考 男性劣化社会>

 

かつてと比較し、現代はインターネットやゲーム、ポルノといった身近に手に入りやすい快楽がありふれた。

現代に住む男子は、これら安易な快楽に流されやすく、どんどん質が下がり続けているというのである。

 

筆者はこの本で、様々なデータを元にこれらについて考察を掘り下げていく。たとえばこんな感じである。

 

”ゲームやポルノが身近に手に入るようになり、それに没頭する男が増えた事で、他の事柄に対する注意力が低下し、結果として男性は劣化した。”

 

一見すると、これはもっとものように聞こえる。けどよくよく考えて欲しい。これらは本当に本当の事なのだろうか?

 

ゲームは人の頭を良くする?

まず1つ目のゲームの影響だが、実はゲームは人々の頭をよくしているというデータもある。

<参考 ”ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている”>

 

スティーブン・ジョンソン氏はこの本において、昨今のテレビやゲームはストーリーや構造が複雑になり、読書よりも高度な知的活動が要求されるようになっていると指摘している。

 

現代のテレビやゲームは以前と比較して、非常に高度に複雑なギミックが多用されており、それらの経験を通じて、人は愚かになるのではなく、むしろ認知機能がググっと上がるのだというのだ。

 

著者はこうした複雑化の結果、人々のIQスコアや認知力が上ったというデータを提示し、これらを根拠にテレビやゲームは人を「賢くした」というのである。

 

なんと、フィリップ・ジンバルドーとスティーブン・ジョンソンのゲームに対する意見は真っ二つに割れるのである。

これがデータや統計の業なのだ。用いるデータ次第で物事というのは全く正反対の事が言えるという事はわかって頂けたかと思う。

 

一見もっともらしい語り口で語られる事を、無思考でそのまま信じてはいけない。

ゲーム脳で人が劣化したなんていかにもな感じだけど、キチンと検証していけばゲームで人が賢くなったという話も同じぐらい簡単に組み立てることは可能なのである。

 

次から、もっともらしい話を聞いた時、かならず「それって逆の事も簡単にいえるのんじゃないか?」と考え直すクセをつけよう。

それだけで”いかにも”な意見に騙される確率は随分減るはずだ。

 

男はポルノをみて本当に劣化したのだろうか?

2つ目の”ポルノが身近に手に入るようになったせいで、男が劣化したのかを検証していこう。

 

これも一見すると、本当にもっともらしく感じる意見だ。

安易に手に入るエロにまみれた結果、快楽に溺れて人は努力しなくなった。

 

しかし一方で、こんな意見もある。人類のIQは、この100年間で上がり続けているというのだ。

 

これは、オタゴ大学のジェームズ・R・フリンが発見した事実で、「フリン効果」と呼ばれるものなのだが、実際に検証してみると1950年当時と比較して、現代の人類のIQは平均して20ポイントほど上昇しているのだという。

またしても意見が真っ二つに割れてしまった。これだから、物事というのはムズカシイ。

 

ただ、ここで興味深いのは、ゲームもポルノも確かに頭によくなさそうな成分はありそうだというのも事実である点だ。

 

このようなとき、2つの意見を矛盾なく解釈できる方法はないかを考えるのが、データや統計に騙されない為のコツだ。

ここで大切なのは、因果関係と相関関係の違いである。

 

滅多にない因果関係と非常に多い相関関係

因果関係というのは100%成立する関係の事だ。

 

例えば水は一気圧下において0度になると凍るし、100度になると沸騰する。

これは地球上ならどこで誰がやろうが100%再現可能な圧倒的事実であり、このような「100%の関係性を持つもの」を因果関係があると言う。

 

一方で、相関関係というのは、何らかの影響があるかもしれないけど、100%ではないものの事だ。

 

例えばタバコを吸うと肺がんになる確率はあがるかもしれないけど、全てのタバコを吸う人間が肺がんになるわけではない。

このように「両者の間に関係はあるのだが、100%ではないもの」が相関関係である。

 

科学が指し示す事実の多くが因果関係が成立する一方で、社会学など人間に関する実験で言える事の多くは実は相関関係止まりのものばかりである。

<参考 「イノベーターのジレンマ」の経済的解明>

 

さて、ではゲームやポルノの良い影響や悪い影響は、果たして因果関係と相関関係のどちらだろうか?言うまでもなく相関関係である。

 

ある人にとってはゲームは確かに頭をよくするだろうし、またある人にとっては、ゲームは致命的に社会性を破壊するだろう。

ポルノに関しても、全く同じことがいえる。

 

つまり、極端な事をいえばゲームもポルノも良いか悪いかは

 

「人による」

 

としかいいようがないのである。善悪二元論のような形で、バッサリと一刀両断できるような話ではないのだ。

 

男性劣化社会の正体は、男性が急激に劣化したのではなく、生きるのに必要な知的レベルが上がりすぎた事

最後に、男性が劣化してみえるのは何故かの疑問に答えてこの記事をおしまいにしよう。

 

かつてGoogleの社員食堂に感じた、格差社会のリアル。 | Books&Appsという記事にも書いたのだが、高度に知識社会となった現代において、求められる能力のレベルはどんどん毎年上がり続けている。

 

 

確かに、人類は「フリン効果」によって毎年頭が良くなり続けているかもしれないが、それ以上にどんどん求められるハードルが上がり続けているのが現代社会のリアルなのである。

 

ということはだ。実はゲームやポルノで落第してしまったようにみえる人の多くは、単純に上の図のバーから足切りを食らっただけという話なのだ。

そして働く以外の選択肢が基本的にない男性が、その影響を一番うけているからこそ「男性が劣化して」みえるのだ。

 

マトモな大人のハードルが上がりすぎた現代社会において、そもそも劣化せずにいられる事自体が物凄く難しい事であるという”真実”に気がついた時、なぜ男性が劣化しているように感じるのかの本当の答えに行き着く事ができる。

 

ゲームもポルノも決して悪いものではない。

それどころか、ある人の知能を上げる事もあれば、またある人の居場所になる事もある。

 

生きにくいこの世の中において、安易に悪をみつけてきて「お前のせいだ!」と叩きたくなる気持ちもわからなくもないけれど、多角的な視点でモノをながめ続けて、様々な可能性に思いを巡らせて欲しい。

 

意外と真実は、提示されたモノの外にあったりするのである。

 

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高須賀

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