少し前、シロクマ先生からしたのような記事が寄稿されました。

ビューも多かったので、共感する方も多数いたのでしょう。

最近の新人は「好青年」と「才媛」ばかり。けれど素直に喜べない私。

社会をより良くするための仕組みや習慣によって、失われてしまうものや疎外されてしまうものもあるのではないかと疑わずにいられない。

誤解を恐れずいうと、

「仕事できない人が「働く場所」から排除されつつあり、多様性や、福祉などの面からも、色々まずいのでは?」

という話だと、私は理解しました。

 

で、思いました。先生、全くブレないな、と。

実は先生、過去にも同様の記事をブログで書かれています。

テキパキしてない人、愛想も要領も悪い人はどこへ行ったの?

実のところ、小器用に振る舞える人間、融通の利く人間、汎用性の高い人間以外が、社会から排除されているのではないか?要領の悪い人間、愛想の悪い人間が働ける場所が失われてきているのではないか?*1

この記事は、思い入れがありまして。

実は、この記事を読んで「ぜひBooks&Appsに寄稿してほしい」と思ったんです。(この記事だけではないですが)

5年前の記事で、ソーシャルでの拡散もそれほどでもなかったのですが、深く心に残りました。

とても良い記事なので、読んでみてください。

 

 

とはいえ、これに関しては、思うところもあります。

端的に言えば

「顧客からの要求が高すぎるからだよな」

と思うわけです。

 

「より便利に」

「より面白く」

「よりカッコよく」

「より早く」

「より正確に」

と、世界中で消費者の要求が高まれば、必然的に組織の行う仕事には、より高い「成果」が求められる。

そうなれば「お前、能力低いからいらねーわ。」と言われる人が出るのは、必然です。

 

実際、私が前に働いていたコンサルティング会社は、「お前、いらねーわ。」とはっきりは言われなかったですが、成果には厳しい会社でした。

当然、成果をあげられない人は辞めていきます。

会社を恨んで去っていく人も大勢いました。

 

そういう人たちを間近で見ると、「会社ってひどくね?」

と思うのは、当然だと思います。

私もそう思ってました。

 

ただ、時が経つと、

「会社ってひどい」と、思わなくなりました。

 

なぜなら、中には非道な人もいますが、よく話を聞くと、ほとんどの経営者は「社員が大事」と思っていたからです。

 

何より「きちんと仕事する人に報いたい」と思っている。

それは事実です。

 

 

でも「成果をちゃんと評価しないダメな組織」も数多くあります。

 

私の知人に「翻訳」をしている女性がいます。

 

若い頃から、自腹で土日も翻訳の学校に通い、スキルアップに励んでいた彼女はなかなかの腕前のようで、組織の中でも評判が良いようです。

上長だけではなく、同僚からも信頼され、楽しく仕事に励んでいる、と聞きました。

 

ただ一点の不満を除いて。

 

彼女は研鑽を積んだためか、とても仕事が早いのです。

生産性でいうと、他の翻訳者の3倍位から5倍はあるでしょう。クオリティも高い。

するとどうなるか。

仕事が圧倒的に集中するんです。

 

そりゃそうですよね。誰でも「仕事が早い」人に頼みたいのは、当然です。

彼女は責任感があるので、頼まれると「出来うる限り」引き受けてしまう。

そうすると、ますます仕事量に差が付きます。

 

上長は当然、この状況を憂慮していました。

特に、待遇面でなにかしら手を打ちたい、と思っていました。

 

しかし、それはかないませんでした。

なぜなら、彼女は契約社員でしたし、正社員であってもそんなに給料を上げることは前例がない。

 

「そういう制度はない」で終わりです。

ひどい差別です。

 

私はこの話を聞いて、直感的に「ひどい話だな」と思いました。

真っ当に彼女に報いるために、「他の翻訳者の給料を減らして、この人の給料を周りの3倍にすべき」とも思いました。

 

 

実はこのような話は珍しくありません。

知識労働者の生産性は、人によって圧倒的に違うからです。

 

例えばプログラマー。

プロジェクトマネジメントの大家であるトム・デマルコは

「最優秀者は最低者の10倍の作業能力を持つ」

「最優秀者は平均の2.5倍の作業能力を持つ」

との測定結果を報告しています。

プログラミングコンテストのデータを分析して最初にわかったことは、プログラマー個人のバラツキが非常に大きいということだ。もちろん、これは今までに何度も指摘されてきた。例えば、図8.1は、個人差についての、3つの文献の調査結果から合成した図である。

これから得られた次の3つの経験則は、個人のサンプル集合における作業能力のバラツキを推定するのに役立つ。

・最優秀者の測定値は、最低者の約10倍である。

・最優秀者の測定値は、平均的プログラマーの約2.5倍である。

・上位半分の平均測定値は、下位半分の平均の2倍以上である。

この経験則は、実際にすべての個人能力の指標に適用できる。

例えば、上位半分のプログラマーは、下位半分のプログラマーの2分の1の時間で仕事を完成できると推測できるし、残存不良に関しては、不良の多い方の半分のプログラマーは、残り半分よりも3分の1多く不良を作り込むと思われる。

プログラミングコンテストでの測定結果はこの経験則に極めてよく一致する。

 

「優秀なやつは、想像を絶するほど優秀」

これは「知識労働」に従事していれば、誰もが感じることではないかと思います。

トラブルの種になるので、あえて、誰も言わないだけ。

 

でも、Googleは正直です。「公平な報酬」のなんたるかを知っています。

公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っているということだ*2。

グーグルのアラン・ユースタス上級副社長に言わせれば、一流のエンジニアは平均的なエンジニアの300倍の価値がある(第3章を参照)。

ビル・ゲイツはさらに過激で、「優秀な旋盤工の賃金は平均的な旋盤工の数倍だが、優秀なソフトウェア・プログラマーは平均的なプログラマーの1万倍の価値がある」と言っている。

ソフトウェア・エンジニアの価値の幅はほかの仕事より広いかもしれないが、優秀な経理担当者は、平均的な担当者の100倍とはいかないとしても3~4倍の価値はあるはずだ。

 

翻って、冒頭の「翻訳者」の女性です。

はっきり言えば、彼女には他の翻訳者の3倍から5倍の価値がある。

 

でも、報酬は釣り合っていない。

「真っ当な経営者」

「真っ当なマネジャー」

であれば、この事態を放置するようなことは決してしないでしょう。

「できる人が割を食う組織」は、考えうる限り、最低の組織です。

 

成果を評価し、それに見合った報酬を支払うこと。

それが真の意味で「社員」と「お客さん」を守ることになると、思うのです。

そのために、経営者と上長は全力を尽くすのが当たり前です。

 

もちろん、彼女の他の翻訳者を詰める必要もないし、クビにする必要はありません。

一人ひとり能力は違うのです。

それを無理やり「成果出せ、出せないからクビだ」なんて言っても、できないものはできない。

 

でも

「きちんと仕事する人に、報いる」

それだけは譲っちゃいけないと思うのです。

 

先日、ある会社の取材で、経営者がこんな事を言っていました。

「どんな仕事でも、成果を測定する基準を作って、成果だけで評価する」と。

 

これは、前述したトム・デマルコの「自分で自分の生産性を何らかの形で評価できない会社は、まだ本気で評価したことがないのだ。」という主張と重なります。

私が論文を書いたとき、「ギルブの法則」と題して、一言一句そのまま引用した。

どんなものでも、計測しようと思えば必ずできるし、測定しないでいるよりもずっとよい。

しかし、この法則は、測定には金がかからないとか、安くできると言っているのでもないし、完全であるという保証はどこにもない。ただ、やらないよりはましだと言っているだけだ。

―――――TomDeMarco

 

もちろん、生産性の計測は不可能ではない。

例えば、測定したい作業と同一か類似した作業をしている人を集め、時間を与えて妥当な自己測定方法を実践してもらえば、ギルブの法則を裏付けるデータが手に入る。(中略)

自分で自分の生産性を何らかの形で評価できない会社は、まだ本気で評価したことがないのだ。

 

 

もちろん上の話は「成果を追求する企業or組織」に限った話であり、社会一般の話ではありません。

 

社会におけるコミュニティは特定の目的を有さず、「存続」自体が目的ですから、企業の論理とは違います。

相互扶助、弱者に合わせた制度、横並び、平等。

それが「公平」ってもんですし、長く細く続く社会です。

 

しかし、それを企業に持ち込んだら、ダメです。

企業は「目的」を果たせなくなった時に死にますから、目的のためにすべての制度が設計されているのは当たり前です。

 

企業に期待しすぎてはいけない。

「福祉」を担えるほど、企業は強くないのです。

 

 

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(2020/8/28更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

◯Twitterアカウント▶安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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