つい先日、シロクマ先生から本を頂いた。

タイトルは健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて。大変面白く読ませていただいた。Books&Appsの読者にはハマるのではないか。

本の内容について、寄稿も頂いている。

ホワイトな勤務先・ホワイトな社会には、ホワイトな人間が求められる

記事では「ホワイトな社会は良いことづくめなのか?」という問題提起と、「ホワイトな人間でなければならない世の中は息苦しすぎてイヤだ」という主張が展開される。

 

先生の言う通り「素行の良い人々」で固められた世界に生きづらさを感じる方がいることは、私もよく分かる。

「明日は我が身」と考える先生の思惑も理解できる。

小学生の時「みんなに合わせなければならない」のが苦痛で、毎日小学校に行きたくなかった私は、規範に縛られる世界の堅苦しさも容易に想像がついた。

 

でも息苦しさは「資本主義」のせいなのか?

ただ、私が本書を読んで、今なお疑問が残るのが、こうした状況の原因は「資本主義」、「個人主義」や「自由主義」にあるという指摘だ。

第二章〜第六章で紹介したトピックスには常に、資本主義や個人主義や社会契約からの影響が見え隠れしていた。

だが本当にそうなのだろうか?

 

例えば、戦時中の日本のような全体主義国家では「道徳的で秩序ある社会」はむしろ、今以上に息苦しかったろう。

なにせ、「戦争反対」と述べるだけで、特高に捕まって拷問されてしまうような世界だ。

 

いや、現代でも中国はどうなのか。彼らは資本主義国家ではない。社会主義国家である。自由主義ではない。個人主義でもない。

その中国では、政府の設定する社会通念に反した「ホワイトな人間」ではない人はどうなるか?

もちろん排除される。ひどいときには投獄される。

香港の抗議デモ、暴動罪で初有罪 22歳男性に禁錮4年

一連の抗議活動を巡り暴動罪で有罪判決が出たのは初めてという。デモ隊が掲げた五大要求の一つに「暴動認定の撤回」があったが、司法による暴動罪認定で、今後のデモ再燃への威嚇効果となるとの指摘もある。

 

また、その中国の企業である「アリババ」は、「ジーマクレジット(芝麻信用)」という信用情報サービスを行っている。

この「ジーマクレジット」は、「出身」「支払い能力」、あるいは「人脈」や「素行」によって、人が格付けされる。

シロクマ先生の言う「ブラックな人間」は高いスコアを取れないだろう。

 

それが「ブラックな人間」にとって、どんなに不利益で、息苦しいかは想像に難くない。

しかしアリババは「資本主義」「自由主義」「個人主義」の落し子ではないのだ。

 

こう考えていくと、「社会規範に沿えない人々の生きづらさ」は、資本主義などが直接の原因ではないのでは、と疑ってしまう。

主流の社会規範に沿えない人は、いつの時代、どんなイデオロギー下でも生きづらかったと考えるほうが自然なのではないか。

 

「いやいや、中国は社会主義を標榜する資本主義社会だよ」

と仰る方もいるかも知れない。しかし「武器としての資本論」を著した白井聡氏は、パシュカーニスの言葉を引用し

「政治的社会と経済的社会が分離し、別物になることが、資本制社会の特徴である」

と述べている。

が、中国は政治的社会と経済的社会が分離しているとはいい難い。

米大統領補佐官が対中政策演説 国防総省、人民解放軍関連企業リストを議会報告 

オブライエン氏はまた、国防総省が米国内で経済活動をしている中国企業のうち、人民解放軍と関係が深い企業のリストを作成し、週内に議会に提出すると明らかにした。国防総省によるとリストは24日に完成した。

たしかに資本主義には限界も欠点も数多くある。だが、資本主義だけがシロクマ先生の言う「生きづらさ」を生み出しているとは考えにくい。

 

「生きづらさ」の源泉はなにか

個人的に思うに、生存が脅かされない、ある程度豊かな社会の「生きづらさ」の源泉として大きいのは「他者との比較」である。

 

他者との比較が存在する社会では、常に新しい「生きづらさ」が生まれ続ける。

他者との比較が

「なんて俺は貧しいんだ」

「私は幸せになれない」

「格差は許せん」

といった、「不幸」を生み出す。

 

「あらゆる悩みは対人関係」とアドラーは述べた。

そして「対人関係から生まれる、劣等感こそ生き辛さの源泉」だとも。

われわれは皆、無力な状態から脱したい、もっと向上したいという普遍的な欲求を持っています。人類史全体における、科学の進歩にしても「優越性の追求」でしょう。

これと対をなすのが、劣等感です。人は誰しも、優越性の追求という「向上したいと思う状況」にいる。なんらかの理想や目標を掲げ、そこに向かって前進している。しかし理想に到達できていない自分に対し、まるで劣っているかのような感覚を抱く。

だから、ある程度豊かな社会になってしまえば、「他者との比較」を克服しない限り、どんな社会になっても「生きづらさ」は解消できない。

 

白井氏は上述した「武器としての資本論」の中で、

「私たちはもっと贅沢してよい」

と、階級闘争を呼びかける。

 

だが「ファクト」としては世界はより豊かになっており、日本人は50年前よりも、物質的に遥かに贅沢をしている。

したがって「もっと贅沢していい」は、過去との比較ではすでに実現されている。

 

だが白井氏にそれを告げたところで、「そんなことはどうでもいい」というだろう。

彼は「相対的貧困」を問題にしているからだ。

 

現代社会に圧倒的に不足する「役割」

しかし、私は白井氏とは少し違った見方をしている。

誤解を恐れず言えば、現代人が最も不足を感じているのは「お金」や「贅沢」ではない。

 

お金はそれほどこだわらない人も数多くいるし、生活水準について言えば「食うに困らなければ、まあ、良しとしよう」という方も数多くいる。

結果として、おそらく「相対的貧困」は革命に至る原動力にはならない。

 

では何が不足すると人々が怒りを感じるか。

それは間違いなく「役割」だ。

「お前は無能なので不要」と言われることが、社会的な生物としては、この世で最もツラいことなのだ。

 

「役に立たない」

「重要ではない」

「お前はコマの一つ」

「代わりなどいくらでもいる」

「クズだな」

「クビだ」

「無能め」

「お荷物だな」

 

上のような言説が、いかに人間を傷つけるか。

「お金がない」「贅沢ができない」の比ではない。

 

「企業やテクノロジーが人間を不要にする」という言説が怒りを集めるのは、そのためだ。

「搾取されている」とわかっていても、無職になれないのは「役割を失いたくない」からだ。

金銭的な見返りがなくても、SNSに投稿を辞めないのは、「いいね」が心からほしいからだ。

 

人間は、いかにお金がなくとも、どんなイデオロギー下でも「一人の人間として尊敬されている場」さえあれば、なんとか生き延びることができる。

逆に、そうした尊厳が踏みにじられると、人々は命をかけた反乱を起こす。

 

 

昔、シロクマ先生に寄稿いただいた「老人が尊敬される時代は終わった」という記事がある。

私は、「生きづらさ」はこの言説の延長にあると思っている。

 

「親が尊敬される時代は終わった」

「宗教家が尊敬される時代は終わった」

「町内会で活躍できる人物が尊敬される時代は終わった」

「肉体労働者が尊敬される時代は終わった」

「管理職が尊敬される時代は終わった」

 

何でも良い。

現代社会は既存の「権威」を次々と失墜させ、それに伴って多くの「役割」も失われた。

そして、尊敬される地位が「学校」「企業」や「政府」の一部に収斂した結果、「尊敬される人々」や「お山の大将」の絶対数が減ってしまったのだ。

 

 

だから、私はこれからの世界、小さくともよいので社会の中で「尊敬される役割」を創りだすことが、何より重要だと思う。

 

私が、大して儲からない零細企業をやっている一つの理由は、世の中に「役割」を作りたいからだ。

また、個人的に、副業やフリーランスの方々を応援するのも、そのような理由からである。

 

 

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(2020/9/29更新)

 

 

 

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元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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