わたしのまわりには、「仕事がデキる人」が多い。
とはいえ、「仕事がデキる」にはいろんな定義がある。
「わたしが『この人は仕事がデキるな』と思う人の共通点はなんだろう?」と考えてみて、ひとつの結論にたどり着いた。
仕事ができる人は、後戻り作業をせず、他人のタスクを増やさないのだ。
「なんかめっちゃスムーズに進むな」と思う人とのお仕事では、ムダな作業が発生しない。
たとえば、
・返事が早い
・説明がうまい
・納期を守る
・指示が明確
・決定が覆らない
などだ。
返事が遅ければ「これどうなってますか」と確認作業が増えるし、
説明がへただと「つまりどういうことですか」と聞き返す作業が増えるし、
納期を守らないと「いつできますか」とせっつく作業が増えるし、
指示があいまいだと「これで大丈夫ですか」とすり合わせ作業が増えるし、
決定が変更されると「聞いてた話とちがうんですが」と打ち合わせが増える。
他人の作業を増やすと、それに対応するため当人も時間を割かなきゃいけなくなるし、必然的に全体の進行も遅くなる。
だから、他人のタスクを増やさない=自分の仕事が増えない=早く進む→仕事ができる、となるのだ。
デキる人とのお仕事がサクサク進むのは、ムダな作業が発生しないので、最小限のタスクでどんどん先に行けるからなのだと思う。
で、「じゃあどうすれば他人のタスクを増やさず仕事を進められるか?」というと、「手順の段階で合意を得る」が答えのようだ。
「手順の段階で合意を得る」とはどういうことか。
コンサル1年目の初仕事として、より多くの生徒を集めたい大学のマーケティングプロジェクトを担当した人のエピソードを紹介したい。
具体的に決まっていたのは、その大学に進学してもらえるよう、「ターゲットとなる100校以上の高校を訪問する」ということです。その訪問スケジュールをつくることが、わたしの初仕事だったわけです。
さて、「わかりました!」と安請け合いしたわたしは、とにかくスケジュールをつくりはじめました。地図やら高校のリストやらを集め、電車の時刻表などを調べようと思っていたところ、そもそも、車で行くのか電車で行くのかを確認していなかったことに気づきました。
出典:コンサル一年目が学ぶこと
社会人ならだれしもが、こういう経験があるんじゃないだろうか。
「あ、これ聞いてなかった」
「ちゃんと確認してなかったけど、これでいいんだよな……?」
というやつ。
案の定、この人は、マネージャーにダメ出しされたそうだ。
で、「はじめに作業の設計をして手順の確認をとりなさい」と言われたとのこと。
つまり、「手順の段階で合意を得るべき」だというのだ。
訪問スケジュールのアプローチ方法は、具体的には次のような感じになります。
・ターゲット高校がどのエリアにあるのか、概数をリサーチする
・エリア別に分類し、一日あたりの訪問可能数で割ってみる
・必要な訪問日数を算出する
・その日数を大学側が用意できるのかどうかを討議する(ミーティング)
・OKなら問題なし。NGなら、さらに訪問の優先順位をつける
・詳細をつくって、日程表に落とすまず、こうした作業設計書をつくり、マネジャーにOKをもらいました。
たしかにこれなら効率よく、かつ、後戻りなくスケジュールが作成できそうです。
ポイントは、「後戻りしない」というところ。
「どういうふうに進めるか」という手順を確認しておけば、あとで「やっぱりこうしよう」「これで進めて大丈夫か?」といったことが起こらない。
余計なタスクが増えず、仕事が滞りなく進むのだ。
「後戻り」しない仕事の進め方として、3年ほど前、新潮新書から著書を出版させていただいたときの自分の経験も添えておきたい。
わたしにとって初の著書だったので、編集者であるG氏に、「なにをどうすればいいですか」と率直に聞いてみた。
それに対してG氏は、
・まず本のコンセプトを決める
・ざっくりと各章のアイディアを出す(1章1万字程度で10章くらいが目安)
・それぞれの章の執筆に取り掛かる
・執筆→修正→執筆→修正の繰り返し
・各章がある程度かたちになったら、どういう順番で載せるか(構成)を決める
・全体の流れを見て微調整、冒頭と巻末あいさつを書く
という流れを提示してくださった。
それを聞いたわたしは、「まず10くらいアイディアを出す」「それぞれの章を書いていく」「書いたら見てもらう」という流れを理解したので、すぐに作業を開始できたのだ。
執筆自体が落ち着いたタイミングで、G氏は校正スケジュールやタイトルを決める過程、装丁が仕上がる時期、印刷所に送る日程など、出版に至る大まかな道筋も示してくれた。
そうすると、「なるほどこの日まではギリギリ原稿を修正できるんだな」「Twitterでどう告知しようか」「そろそろタイトルを考えておいてもいいかもしれない」と、自分からいろいろ動くことができる。
どういう手段で進めるかの合意が取れていると、全体像が把握できるから、「後戻り」しなくてすむのだ。
自分の認識とちがっても、設計段階ならいくらでも相談できるしね。
しかし作業を進めてから手順の確認をするとなると、途端にタスクが増えてしまう。
というわけで、その体験談も加えておきたい。
フリーの編集者の方にいただいたお仕事で、掲載先はだれもが知る有名メディア。もちろんわたしは喜んで、二つ返事でお受けした。
記事のコンセプトと大まかな内容を相談し、OKをもらったので執筆開始。
何度か編集者からコメントをいただき修正、「完成」と相成った。
そして編集者がメディア側にその完成原稿を渡したのだが、1週間ほどして、原稿が再びわたしの手元に返ってきた。
……ん?
なんだこの赤字の量は!?
編集者と打ち合わせて執筆をはじめ、何度か修正を経てOKをもらったはずなのに、赤字とコメントの嵐。
メディア側からの、大幅な修正提案だった。
思わず、編集者に連絡を入れる。
「えーっと、事前に話し合った記事コンセプトとメディア側の要望が、だいぶちがうように思えるのですが」
「すみません、自分が言葉足らずでした」
「これ、半分書き直しですよね。それはちょっと……」
「そうですよね。じゃあ、こういうふうに少し変えていただくことは可能ですか? それで交渉してみます」
「それならまぁ……」
釈然としなかったが、そういうことなら仕方ないと、しぶしぶ原稿に手を加えた。
編集者がOKを出したけど編集長からNGが出て再度修正、なんてふつうのことだから、それ自体はいい。
ダブルチェックとして、他の人の意見を聞けること自体はありがたいし。
が、その指示の方向性があまりにちがうと、正直な話、「そっちで先にすり合わせといてくれよ」と思ってしまう。
その後、メディア側と編集者が打ち合わせ、それをもとに編集者とわたしが再度打ち合わせるという作業が発生。その打ち合わせを受けて記事を修正するも、コンセプト自体が変わったからどうしても書き直しが増える。
ああもう、面倒くさい!
あまりにも埒が開かなくて、「メディア側の方と直接お話させてください」と言ったが、「立場的にそれは無理です」と言われ(当然だけど)、編集者の方とはかーなーり険悪な雰囲気になった。
本来なら
打ち合わせ→執筆→修正→納品
で終わるはずの仕事が、
打ち合わせ→執筆→修正→納品→修正→打ち合わせ→執筆→修正→納品
となったのだ。
これは、完全なる作業の「後戻り」である。
わたしからしても面倒だったけど、メディア側からしても余計な手間だっただろうし、間に立つことになった編集者は双方の連絡に相当な神経を使っただろうと思う。
つまり後戻りが発生すると、関係者全員のタスクが増えるのだ。
だから仕事ができる人は、後戻りせずに済むように、まず最初に「こういう流れで進めましょうね」という手順の合意をしておくのだろう。
こういうやり方をとるメリットは次の3点です。
①作業の全体像が見えるので、完成までの道筋がわかり、安心感が生まれる。
②関係者同士で手順やアプローチ方法を合意しておくことで、やっぱりこっちをやってくれというあと出しの要求やどんでん返しがなくなる。
③事前に、作業の難易度や作業量の見積もりができる。
出典:『コンサル一年目が学ぶこと』
全体像の共有で同じ方向を向き、手順の合意で同じ道を歩き、事前に手にした地図をもとに目的地へと進む。
「後戻り」しないことは、仕事を快適に進めるための必須要素だ。
予定通りにいかないときに臨機応変に対応することも大事だけど、避けられる「後戻り」は避けたほうがいい。
いやだって、面倒くさいもん。
仕事をはじめるとなると、まずその仕事内容に注目してしまう。
どういう結果を目的として、だれに対して、なにをするか……などなど。
でも「どういうことをするか(what)」と同じくらい話し合っておくべきなのが、「どうやってするか(how)」、つまり仕事を進める手順だ。
それをしっかりしていないと、いくら仕事内容が良くても、どこかでムダな「後戻り」が発生してグダってしまう。
仕事を開始するときは、まず第一に手順の合意を取ること。
快適な仕事ライフの第一歩として、これは自分の大原則としておきたい。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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