昔、12年以上にわたって在籍していたコンサルティング会社では、管理職だったので、結構な回数、採用の面接官をやっていた。

ただ、本音を言うと「大事な仕事」とは認識していたが、面接官はあまりうれしい仕事ではなかった。

 

まず、かなりの時間がとられる。

昼間を面接に充てると、自分の仕事は夕方から。確実に夜中コースになる。

あるいは休日出勤をして面接をしたことも何度もあった。

 

くわえて、面接官を行うことのプレッシャーも大きかった。

なにせ、人生の大きな決定にかかわるのだ。

適当に仕事はできない。

しかも、コンサルタントは面接のプロではないので、面接は非常に難しい仕事だった。

 

まず30分や1時間程度で、誰を採用すべきかを見極めること自体に、無理がある。

話の裏をとることはできないし、その人に関するデータも、履歴書と職務経歴書という、表層的な情報ばかり。

 

おまけに採用の「成果」がわかるのは半年~1年後。

そのころには失敗が判明しても、「やっぱりクビ」とはいかない。

 

しかし、リソース不足ゆえ、部署が大きくなって「採用専門の部隊」ができるまで、私が働いていた部署では、最終的な判断は

「一緒に働きたいと思ったか」という、面接官のあいまいな判断に一任されていた。

 

 

さて、そういうわけであるから、今ではちょっと考えられないが、私がマネジャーになった当時、面接のやり方に関しては、面接官にかなりの裁量があった。

当時の面接の流れは以下のようなものだった。

 

1.面接シートに書かれている内容を質問する

・なぜ当社に応募したか(⇒ 動機チェック)

・これまでどんな仕事をやってきたか(⇒ スキルチェック)

・今後のキャリアに望むのは何か(⇒ 志向チェック)

2.面接官とのフリーディスカッション

3.応募者からの質問

 

2~3人同時に面接を行い、1回の面接時間は約1時間程度だったように記憶している。

 

まあ、控えめに言っても、「普通過ぎる面接」だっただろう。

特に変わったことをしていたわけではない。

 

最終的には、面接官3名による合議で、採用不採用を決定し、人事に申し送りするという手順になっていた。

 

 

で。

見てわかる通り、面接官に裁量があったのは、2.のフリーディスカッションだ。

 

面接官同士の事前の打ち合わせなどはほとんどなかった。

だから、大体は1.の内容について面接官が思ったことをそれぞれ、聞いていくような進行だった。

 

だから当然、面接官の中には「それ聞いてどーすんの?」と思えるような質問、例えば「このマーケットに潜在的な顧客数はどのくらいいますか?」といった、フェルミ推定的な質問をする人もいた。

 

ただ、私を含めて面接官の多くは、「フェルミ推定」と仕事の能力にあまり関連がないと、うすうす気づいていた。

パズルを解くのがが得意だからと言って、それが何の役に立つのか。

 

まあ、実務ではあまり意味はない。

だが、代わりにどのような質問をすればよいのか、私は悩んだ。

 

 

ところが、ある時。

一緒に面接官をしたマネジャーの一人に、良い質問をするな、と感じた人がいた。

 

彼が応募者にどのような質問をしていたか。

実は、特別な質問ではなかった。

それはまるで、「社内勉強会」のようだったのだ。

 

例えば当時、社内勉強会では、頻繁に「事例発表」が行われていた。

今風に言うと、ケーススタディ、というやつだ。

 

その中に、クライアントからの難しい質問にどう応えるのか、という題材が結構あった。

 

例えば経営者から、「うちの◯◯取締役、どう思う?」と聞かれたら、なんと答えるか、とか。(実際によく聞かれる)

お客さんのコンプラ違反を発見したら、どうする?とか。(ごくたまにある)

相手の部長から、「彼、人の悪口が多いんだけど、どうしたらいい?」とか。(よくある)

 

それ以外にも、社内で共有されていた知見なども、題材になっていた。

 

例えば「文書」と「記録」の違いをどのようにお客さんに説明しますか?とか。(必ず説明する)

例えば、営業の発言権が強い会社の場合、目標が高すぎると、どのような弊害がありますか? とか。(よく見る)

ソフトウェア品質の欠陥を改善するのに、業務フローのどこにアプローチするのが効果的でしょうか?、とか。(開発会社の出身者に聞く)

 

それらには、一応「正解」があったし、ダメな回答や、失敗事例も共有されていた。

また、社内の優秀なコンサルタントの回答との比較もできた。

 

だから、応募者の回答が適切かどうか、良し悪しの判断が容易にできたのだ。

 

 

今では、面接におけるケーススタディは珍しくない。

だが、当時は「正解」が設定されており、しかも社内の人々の発言と比較ができる面接を行っている会社は、少なかった。

 

また、「意欲」や「志」、あるいは「前向きさ」などの抽象的な概念ではなく、「実際のケース」を使って、「君ならどうする?」あるいは「こんな場合、どうした?」という、「行動」や「仮説」を問う面接は、少なかったと思う。

 

あとから知ったのだが、実はこの面接手法は、Googleが現在実施している、『構造的面接』とかなり重っていた。

構造化面接を実施する

構造化面接の質問には、行動についての質問と仮説に基づく質問の 2 種類があります。

 

行動についての質問では、以前の業績についての説明を応募者に求め、現在の職務で求められるものと照らし合わせます(「~のときのことを話してください」)。

仮定に基づく質問では、職務に関連した仮定の状況が提示されます(「もし~だとしたら、あなたはどうしますか?」)。たとえば、面接では次のような質問があります。

 

行動についての質問: あなたの行動がチームに良い影響を与えたときのことを話してください(フォローアップ: あなたの第一目標は何でしたか、その目標を立てたのはなぜですか?同僚はどのように反応しましたか?今後はどのような計画がありますか?)

仮説に基づく質問: メールサービスを提供する業務を行なっている際、競合他社が、自社サービスに月額 5 ドルの課金を始めたとします。あなたは、その状況をどのように評価し、チームに何をするようにすすめますか?(フォローアップ: 推奨案を伝える前にどのような要因を考慮しますか?推奨案のメリットとデメリットは何ですか?それが今後も持続可能なモデルかどうか、どのようにして評価しますか?組織全体にはどのような影響があるでしょうか?)。

もちろん、こうした面接の工夫は、後日、文書化され、標準化され、会社全体で採用された。

 

また、「口で言わせる」だけではなく、「意見をまとめてその場で紙に書かせ、プレゼンテーションしてもらう」という面接も取り入れられるようになった。

これらもまた、面接者の日本語運用能力を把握するに効果的だった。

 

くわえて「失敗」を繰り返さないため、「ほんのちょっとでも迷ったら採用しない」というルールも決まり、採用のクオリティは恐ろしく向上したのである。

 

「人の能力が生命線」のコンサルティング会社にとって、これは大きな前進だった。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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