この記事で書きたいことは、大体以下のようなことです。
・子どもが「この問題わかんない」と言った時は、大体の場合「その問題の意味」「そもそもその問題で何を聞かれているのか」が分かっていない
・その為、「その問題の意味」を自分の言葉で説明出来るようになることが第一目標。これが出来ずに解き方だけ教えても意味がないことが多い
・逆に、説明さえ出来ていれば7割方問題は解けたようなもの
・理解を妨げる地雷みたいな逆マジックワードがちょこちょこあるので、それを避けることで理解が容易になる
・これらは、子どもだけでなく、仕事で人に何かを教える時も大体当てはまる
よろしくお願いします。
さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。
先日、はてな匿名ダイアリーでこんな記事を拝読しました。
そこで、「〇〇に対してと聞かれたら、〇〇が1だとした場合の割合を考えなくては行けないから、○○を1にするためには〇〇の数そのもので割る必要があるよね。だから、もう片方も〇〇の数字で割るんだよ。」と教えてみた。
ところが息子は全くのキョトン顔である。
自分ではこの上ないくらいわかりやすい説明だと思ったのだが、どうしたものか。
昔、補習塾でこの手の「どう教えれば理解してくれるかな」問題にはさんっっっっっっざん突き当たりまして、多少の知見が溜まっているので、ちょっと書いてみたいと思います。
まず、これは一般的に言ってしまっていいと思うのですが、子どもが「この問題わかんない」と言った時は、9割くらいの確率でまず「問題の意味」が分かっていません。
「その問題はそもそも何を聞かれている問題なのか」ということが理解出来ていない、自分で説明することが出来ない、ということです。
これについては例外の方がレアケースだと思います。
その為、授業のかなりの時間を、まず「問題の意味」を教えることに費やさなくてはなりませんでした。
最初の目標は、「その問題が何を聞かれているかということを、自分の言葉で説明できるようになること」です。
これが出来る前に、まず「解き方」を教えても、大抵の場合全く理解は進みません。
仮にその場で問題が解けたとしても、同じような問題でちょっと言い方が変わっただけで解けなくなったりします。
逆に、これがちゃんと出来るようになると、もう7割方その問題は解けたようなものです。
ですので、授業一つを「ある問題の意味を、自分の言葉で説明できるようになる」ことに費やすのも、全く珍しいことではありませんでした。
算数にも読解力が重要、というのはそういうことです。
問題を読んで、「何を聞かれているか」を理解しないといけない。
当たり前のようで、これは案外簡単なことではありません。
さて、上の匿名ダイアリーを読んでみると、元々の問題は下記のような内容だったようです。
「500に対して700の割合はいくつか」
ふむふむ。割合ですね。
前提条件として理解していなくてはいけないステップが多いということもあり、子どもの理解がすっころぶ頻度が非常に高い分野です。
これも経験則なんですが、子どもが「問題」を理解しようとする時、「理解を妨げる逆マジックワード」というものが存在します。
その言葉を使ってしまうと、そこからいきなり理解が進まなくなってしまう。
そういうマキビシみたいな言葉です。
もちろん子どもによって違ってくるのですが、私が観測してきた限り、「割合」「割る数・割られる数」という言葉は、かなりこの逆マジックワードに該当するケースが多いです。
これにはどうも原因が大きく二つあるようで、
・「割る」という言葉が、実際に割合や割り算の問題を解くに当たって直感的ではない(「割る」のに1より大きいとか、余りが出るとかが直感的に理解出来ないらしい)
・れる・られるといった受動態の言葉が理解を妨げる場合が多い(文章の繋がり自体が分かりにくいらしい)
ということのようなんですね。
これ割り算教えてるときに散々苦労したんですけど、「割る数・割られる数」という言葉を使った瞬間、そこから一切理解が進まなくなるお子さんが非常に多かったんですよ。
その為、私が教える時は「割り算」という言葉は完全封印して、必ず「何個入るかな算」として教えていました。
15 ÷ 3は、「15の中に、3は何個入るかな?」という計算として教えるのです。
これは刺さる子が多いです。
割合についても同じような話で、割合の問題に悩む子は、大体の場合「割合」とは何かを説明することが出来ません。
その為、まず「割合」という言葉を使わないで、「割合」とは何か、を教えてあげなくてはいけません。
これ、子どもによって、「どんな教え方が刺さるか」「どんなイメージが刺さるか」というのは違います。
その為、色んなイメージセットを用意して、順番に「理解出来るイメージ」を探っていくのがもっぱらだったんですが、刺さることが多かったのは、「どれくらい大きいかな算」「どれくらい小さいかな算」として教えることでした。
例えば、折り紙を使います。折り紙1枚分が「元の数」です。
で、その折り紙を半分にした紙を見せてあげる。
これは、元の折り紙よりどれくらい小さいかな?と聞くと、これについては「はんぶん」と答えられる子は多いです(ここで褒めてあげるのも重要です)。
逆に、その折り紙2枚分の大きさの紙を見せてあげる。
これも同じく、「2ばい」と答えられる子は多いです(ここでもちゃんと褒めます)。
その「2倍」と「半分」のことを、元の大きさの折り紙と比べてどれだけ大きい/小さいかを示す、これを「割合」と呼ぶんだよ、と。
こういう順序で教えてあげると、取り敢えずおぼろげな理解に至る子はそれなりの率います(ここで理解出来なかった場合、粘土とかピザとかお金とか、他のイメージセットに遷移します)。
この時、「大きい場合」と「小さい場合」をセットで教えてあげることがポイントで、どちらかだけだと「1より大きい」「1より小さい」がそれぞれ理解しにくくなって後ですっ転びます。
で、例えば1.5倍の折り紙とか、0.7倍の折り紙とかを見せてあげて、それぞれ「これは前の折り紙に比べてどれだけ大きいね、小さいね」というのを例示してあげます(ちなみに、この時分数や少数が理解出来ていない子も当然いて、その場合一度分数や少数の勉強に戻ります)。
そして、「割合というのは、元の折り紙に比べて、「どれだけ大きい/小さいか」というのを説明する時の言葉なんだな」ということまでを理解してもらいます。
ここまで理解して初めて、「500に対して700の割合はいくつか」という問題を、「700は500よりどれだけ大きい/小さいのか」という問題なんだ、ということが自分で説明できるようになるわけです。
いや、長々書いてきてすいません。
けど本当、「分かんない」時のお子さんって、これくらいの順序と密度でちゃんと教えてあげないと、問題を理解してくれないんですよ。マジで散々苦労しました。
で、問題の意味を理解したら、ここで初めて「元の数が、比べる数の中に何個入るかな、というのを考えると、どれだけ大きいか、どれだけ小さいかが分かるよ。何個入るかな算を使ってみよう」と教えてあげます。
最初は簡単な数で例示してあげます。2の中に1は2個入るから、2は1の2倍。3の中に2は1個と半分はいるから、3は2の1.5倍。2の中に4は半分しか入らないから、2は4の0.5倍。
こうなって初めて、「何個入るかな算」である割り算と紐づいて、割合を求める時の700 ÷ 500という計算が、子どもの中で明確な意味を持ちます。
この意味を持ってもらっていない状態で、似たような問題を何問やっても頭に入りません。
「パーセンテージ」とか「2割増し」とかを教えるのは、このだいぶ後の話です。
ちょっと厄介なのが、「一度理解出来たと思っても、定着するまでは同じことを何度も教えないといけない場合がある」ということなんですね。
子どもの成長は3歩進んで2歩下がる方式なので、今日理解出来た問題の解き方は明日には忘れています。
ここで徒労感を感じずに、どれだけ辛抱強く同じことを教え続けられるか、というのが補習塾教師の腕と忍耐力の見せ所でした。
ちなみに、冒頭引用した匿名ダイアリーでの教え方についてなんですが、
そこで、「〇〇に対してと聞かれたら、〇〇が1だとした場合の割合を考えなくては行けないから、○○を1にするためには〇〇の数そのもので割る必要があるよね。だから、もう片方も〇〇の数字で割るんだよ。」と教えてみた。
これ自体は決して悪い教え方というわけではなく、イメージセットが既に出来ているお子さんならこの説明でも理解出来るとは思うんですよね。
ただ、この説明を理解する為のハードルとしては、
・何故「〇〇に対して」と聞かれた時、〇〇が1だとしなくてはいけないのか、ということが分からない
・「割る」のに1より大きくなるということのイメージが湧かない
・何故元の数を元の数で割らないといけないのかが分からない
・何故元の数を割ったら、比べる方の数も同じ数で割らないといけないのかが分からない
くらいがありますので、ここを順番に潰していく必要があると思います。
「対比」の概念が理解出来るのって、まだだいぶ先なんですよね。
「=の左右に同じ数字を掛けても結果は同じ」くらいから教えないといけない場合も多いです。
何はともあれ、「理解出来ない」ことを教える為には、これだけの積み重なった手順が必要になるケースが多いですよ、という話でした。補習塾マジ大変です。
***
ちなみに、上記のような手順が「子どもに教える時だけではなく、案外普遍的なものなんだ」と気付いたのは、就職して部下や後輩を教えるようになってからでした。
部下が「これこれが分からないんですけど」と言ってきた場合、ついつい「それは〇〇すればいいんだよ」と解き方や答えを教えたくなりますし、実際それで十分なケースもあるんですが、ある程度複雑な問題だと「そもそもその課題の意味、その問題で何が求められているのか」が理解出来ていない、というケースもかなりの数あります。
この時「解き方」だけを教えてあげても、似たような別の問題に対応することが出来ません。
そういう時は、まず、「その問題が何を聞いているのか説明出来るかな」と聞いてみます。
そして、それが上手く自分の言葉で説明出来ていない時は、まずその「問題の意味」を可能な限り丁寧に説明します。
そして、自分の言葉で「その問題の意味」が説明出来るようになると、既に答えを聞く必要もなく、自分の力で解法にたどり着けていたりする。そういうケースがかなりの頻度であります。
以前こんな記事を書かせて頂いたのですが、
大学の恩師に教わった、「なにがわからないか、わからない」ときの質問のしかた。
ここでいう、「何がわからないかわからない」時の、もう一つのアプローチですよね。
自分の頭の中で問題を言語化出来ていない。
だから、まず言語化させてあげる。
解き方を考えるのは、言語化出来てからの話。
そういう教え方が有効な場合もそれなりのケースありますよ、と、そういう話でした。
どなたかの参考になれば非常に幸いです。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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