採用をしていると、

「この方は、「仕事やってるフリ」ばかりしてたのでは」

と感じるときがある。

 

特に、仕事の成果について聞くとき、これは顕著だった。

 

 

例えば、前職がマーケティングの仕事だった、という方。

彼は、「コーポレートサイトを改善し、お客様に使いやすいサイトを実現しました。」とアピールしていた。

 

そこで、我々は

「具体的には、「使いやすい」とは何を意味しているのですか」と尋ねた。

 

彼は、戸惑ったような表情を見せたが

「見やすかったり、わかりやすかったり、という意味です。」

と言った。

 

なんとも、抽象的な話だ。

 

そこで、我々はもっと具体的な意見を求めるため、自分たちのコーポレートサイトを見せた。

「では、このサイトを見てアドバイスをいただきたいのですが、これは「見やすい」ですか?そうでないなら、具体的な改善事項を指摘してください。」と要求した。

 

しばらく後、彼はモゴモゴ何かを言っていたが、結局

「見やすいと思います。」と言うだけで、意見らしい意見はもらえなかった。

 

結局、彼を採用することはなかった。

彼の言動から、「仕事やってるフリ」の人であると判断されたからだ。

 

 

「企業内教育」に携わっていた、という方がいた。

彼は「研修などを通じて、活躍できる人材を送り出すことに、価値を感じていた」と、前職での仕事をアピールした。

 

そこで我々は、「どのような研修を行っていたのですか。」と聞いた。

 

彼が主に担当していたのは、新任向けの「管理職研修」と、新卒採用後の「新人研修」だった。

知識を与え、同じような立場の方々とディスカッションすることを目的としたという。

 

そこで、我々は

「研修の成果をどのように定義していましたか。活躍できる人材とは、どのような定義でしたか。」

と、彼に尋ねた。

 

彼は言った。

「受講者にアンケートをとっており、高い満足度を実現できるようにしていました。」

 

しかし、考えてみれば「研修の満足度が高いこと」は、「活躍できる人材を送り出すこと」とは全く異なる。

我々は、それを彼に指摘した。

「どうなんでしょう?」と。

 

彼は

「そうですね。ただ、研修を受けることで、知識やほかの人の経験を共有できるので、効果はあったと思います。」

と言った。

表層的な回答だ。回答になっていない。

 

「この場で考えてくれてもいいですよ」と勧めたが、彼は考えず、答えられもしなかった。

 

だから結局、彼も採用には至らなかった。

彼も「仕事やってるフリ」の人物だと判断されたからだ。

 

 

昔、研修サービスを売っていた時に、クライアントの一社に、

「研修の効果測定を、1年程度、モニタリングしませんか。費用は要りませんので。」

と持ち掛けたことがある。

 

実際、どの程度役に立っているかどうかを知ることが先決だったので、費用をもらわずともデータが採れれば良い、と思ったのだ。

 

だが、帰ってきた反応は予想外だった。

その方は人事担当の役員だったが、面倒くさそうに私を一瞥し、

「忙しいからねぇ」と言った。

 

他に声をかけた多くの会社でも、やはり同じような反応だったため、なぜ研修の効果測定を真面目にやろうとしないのか、私は不思議だった。

 

そんな時、私の大学時代の知人が、ある大手企業で人事をやっていると聞き、現状のヒントになればと

「企業研修の効果測定について、話を聞かせてくれ」

と彼に連絡を取った。

 

久々に再会した知人は、率直に話してくれた。

「いやー、「忙しいからねぇ」というのは、まさに本音だよね。」と。

 

私は尋ねた。

「本音といっても、研修にこれだけお金を使っていて、「忙しいから効果測定はしない」じゃ、まずいだろう。」

 

知人は迷うことなく言った。

「余計なお世話なんだよ。たぶんそういう人たちは「研修の満足度が高くて、参加後のレポートを書いてもらえれば、それで十分」と思ってるよ。

「なんで。」

「余計な仕事が増えるからさ。」

「効果測定は「余計な仕事」なのかい。」

「もちろん。だって「効果がない」と分かったら、場合によっては研修を取りやめないといけない。予算も削られる。だいたい、研修やってさえいれば人事は「仕事やってるフリ」ができる。」

 

私は知人が皮肉を言っているのかと思ったが、彼の目は笑ってなかった。

私はようやく理解した。

「ああ……なるほど。そういうことね。」

 

 

コンサルタントをやっていて、驚いたことの一つは、上のように、「仕事やってるフリ」をしている人が、かなりいる、という事実だった。

 

もちろん、「成果」が定義しにくく、「ひとまずやってみよう」という活動があることは理解できる。

しかし、成果を熟考する取り組みさえ行っていない方も多く、「なんのための仕事?」と首をかしげることも多々あった。

 

ピーター・ドラッカーは、「成果をあげる8つの習慣」を著作の中で紹介している。

(1)なされるべきことを考える

(2)組織のことを考える

(3)アクションプランをつくる

(4)意思決定を行う

(5)コミュニケーションを行う

(6)機会に焦点を合わせる

(7)会議の生産性をあげる

(8)「私は」でなく「われわれは」を考える

もちろんこれは、多くの人にとって「もう知ってるよ」と言われてしまうくらい、単純なことだろう。

 

だが実践編である、「成果にこだわりぬいて仕事をすること」は、とても大変だ。

疲れる。きつい。ドキドキする。失敗して怒られるかもしれない。

 

うまくいかない事の方が圧倒的に多いし、そもそも成果とは何なのかを定義するのも、簡単な仕事ではない。

 

しかも、「成果は何か」を追及すると、疎まれることすらある。

「意識たけーなー」と嘲笑され、「何ムキになってんの?」と蔑まれることもある。

 

しかし、だからといって「仕事やってるフリ」ばかりしていると、キャリアチェンジはままならず、収入も伸びず、組織から「飼い殺される」人生が待っている。

そうなった果てに言われるのは、「お前は単なる作業者で、頭を使う必要はない」だ。

 

そうなりたくないならば。

若いころから、成果を意識し、成果を追及する技能を身につけるしかない。

 

それには、たくさんのチャレンジと、失敗が必要だ。

成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。

すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。

それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけない者である。成果とは打率である。

 

真剣に打席に立った時のみ、成果をあげる技能が身につく。

成果について熟慮したときのみ、成長という、自己革新が得られる。

 

だから「仕事やってるフリ」は、今すぐ、やめたほうがいい。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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