先日、こんな記事を拝読しました。
ゲーム会社の「アイデアの押し売り」への防衛策が注目集める。一方的に送りつけられたゲームのアイデアが行き着く先とは
この条項は一見すると、メーカーがファンのアイデアを奪おうと考えているようにも見えるかもしれない。しかし真意としては別にあり、アイデアを送付した人から“権利主張”されないように、そのように記述することがあるのだという。
そうした人は、何らかのかたちでアイデアのスケッチやイラストをメーカーに“一方的”に送りつけており、実際には開発陣は目を通していなかったとしても、自分のアイデアが勝手に使われたとして権利を主張してくるのだという。
なるほど。頼みもしないのにファンから「アイデア」が送りつけられて、しかもそれを後から「パクられた」などと主張されない為に予防線を張っておく必要がある、という話ですね。
一昨年に起きた京都アニメーションへの放火事件でも、犯行動機として「自分の作品がパクられた」と主張された、と記憶しています。
読者や視聴者から「アイデア」が送りつけられてその扱いに困る、というのは実際のところあるあるの話のようで、私自身間近で類似案件を目撃したことがあります。
以前にも書いたことがありますが、しんざきは昔、パソコン通信からのご縁でゴーストライターのような仕事をしておりまして、一時期とある出版社さんにお世話になっていました。
まあゴーストライターとはいっても実質は雑用担当のようなもので、穴埋めのライティング以外にも色々やりました。インタビューのテープ起こしもしましたし、会社の電話番もしましたし、縄文時代から整理整頓されてないんじゃねえかって感じの倉庫の掃除もしました。
で、その時、ファンレターに混じって読者から送られてくる「アイデア」というものもちょこちょこ見たのですね。
一番多かったのはその時連載中の作品に対する「こういう展開にすると面白いと思います!」というものでしたが、「〇〇さんにこういう漫画を描いて欲しい!」とか、「こういうキャラクターを出して欲しい!」とか、まあとにかく色々ありました。ひどいのだと「××というキャラは殺した方がドラマに深みが出る」なんてものまでありました。
当時はまだ、webが今ほど一般的ではなかったので、読者からのファンレターは全て「お手紙」でしたし、それを作者さんに渡す前には編集者が全件内容チェックしていました。
で、当時の私の上司に当たる人は、そういう「提案」「アイデア」的なものが含まれたファンレターを、全て、例外なく、一通たりとも残さずシュレッダー行きにしていました。
当時、その出版社では「読者からのアイデア募集」みたいな企画もやっていませんでしたから、これについては多分対応が統一されていたのだろうと思います。
私、最初はちょっとびっくりしたんですよ。
だってほとんどのものはファンレターの延長、作品に対する愛情が込められた「読者からのお便り」である筈なんです。
罵倒や非難が書いてあるならともかく、内容はあくまで「読者からの提案」です。中には貴重なアイデアも含まれているかも知れません。
そういうものを、作者さんにも届けずにまとめて処分してしまうのは、ちょっと乱暴ではないでしょうか?
この時の会話結構しっかり覚えてるんですが、
「そういうの見て、作家さんがインスピレーションを得る、みたいなことってないんですか?」
って聞いてみると、あっさりと
「一切ない。「書かれちゃったからこの展開やりにくいな」っていうノイズになるだけ」
という答えが返ってくるのです。
「そもそも作家なんてものは、一般の読者が考えるような展開は全部考え尽くしてるし、その上で細部を詰めて面白くなりそうな展開だけを選択してる。24時間その作品のことしか考えてないような人間に、ファンのちょっとした思い付きが役に立つと思うか?」
「えーーと、着想のトリガーとか、発想の転換になる、ってことならあり得るのでは……?」
「万一読者からのアイデアが作家の発想にないものだったとして、結局ほとんどの読者が送ってくる「アイデア」なんてそれこそ「トリガーだけ」なんだよ。「こういう展開面白いな」っていう最初の思い付きなんて全体の工程の2~3%くらいで、大事なのは残りの97%、評価とか構成とか考証とかシナリオとの整合性作りとか、そのアイデアを実際に作品の形にする為の作業なの。3%の工程を省く為にわざわざノイズ踏むの割に合わんだろ」
ははーー、と思ったわけです。
もちろん「パクられた!」と後から騒ぐ、ということへの警戒もあったのかも知れませんが、それ以上にその上司は、
「大半の「アイデア」は実現可能なところまで詰められていないただの思い付きでしかなく、それ自体にはそれ程価値はない」
と考えていました。
「アイデア」を思いつくところまでは、程度の差こそあれ誰でも出来る。価値があるのは、それを実現出来るくらいまでディテールを詰める工程だ、と。それが上司の考え方だったわけです。
確かに、少なくとも私が自分で読んだ読者からの「アイデア」というものは、そこまで新規性があるものはそもそも少なく、ただ「突拍子のない」とか「実際こう書いても面白くならなそう」というものがほとんどだったんですよ。
そのアイデアは本当に実現できるのか?あるいは、実現する価値があるものか?という考証が行われていない。
実際、現場にいる側は常にありとあらゆる「アイデア」を考え続けているわけで、その中に自分が思いついたものが含まれていないのか?含まれていたとしたら、それが選択されなかったのは何故なのか?というのは、多分必要な思考法だと思うのですね。
ただ、世間には結構、「ただの思い付き」でしかないアイデアにも価値がある、と考える人はいるし、それに基づいて「この作品は私のアイデアのパクリだ!」などと言ってしまう人もいるようなのですね。
つまりそういう人たちは、細部を詰めていない自分の「アイデア」でも、十分お金を受け取る価値がある、と考えている。
私これ、一種の「アイデア信仰」みたいなものも存在するんじゃないかなあ、と思っていまして。
例えば、皆さん「コロンブスの卵」って逸話ご存じですよね。
これ、そもそもコロンブスの発言だという信頼できる証拠はなくって、ジローラモが以前からあった逸話を本歌取りしただけなんじゃないかなんて説もあるんですけど、
コロンブスの卵(コロンブスのたまご、英語: Egg of Columbus または Columbus’ egg、イタリア語: Uovo di Colombo [ˈwɔːvo di koˈlombo])とは、どんなに素晴らしいアイデアや発見も、ひとたび衆目に触れた後には非常に単純あるいは簡単に見えることを指す成句である。
ただこの逸話、そもそもコロンブスの功業を称えるにはあまり適していないんじゃないかなあ、って私は思うんですよ。
コロンブスの功績が称えられるに値するとしたら、それは実際に資金を調達して、人員をそろえて、準備を整えて航海を成功裏に終わらせたということ、つまりその意志と実行力にこそ帰せられるべきであって、その「独創性」は本来主眼ではない。
コロンブスの価値はその「アイデア」にあるわけではないのです。
それがあたかも、「やろうと思えば誰にでも出来ることだけど、最初に思いついたから偉大なのだ」ととられかねない逸話になっている。
こういう、「ちょっとした発想の転換や、ちょっとしたアイデアが世界を変える」的なある種の神話が、「ちょっとした思い付きにも十分価値がある」というような、一種の勘違いを生んでいる側面もあるんじゃないかと思うんですよね。
確かに、「思い付き」に価値がある場合、というのも全くないわけではありません。
例えばブレンストーミングで最初に話を発散させる時はジャストアイデアが必要になりますし、あるいは散々試行錯誤した末に、問題を解決する素晴らしいアイデアに突き当たることだってあるかも知れない。
ただ、それはあくまで「実現する為の工程」とワンセットになっている話であって、決して「思いつけばそれでお金がもらえる」というものではないのだ、と。
素晴らしいアイデアがあるなら、それこそ残りの工程も自分で実現して実際に世に出してみるべきではないか、と。
そこは覚えておいても損はないんじゃないかなあ、などと思った次第なのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
Photo by Stoica Ionela